舞台:アフリカのとあるサバンナーー僕・マイケルは格安サファリツアーの現地ガイド。
サファリの面子紹介:T社長、新藤さん、水野さん、りりぃさん。
皆、高い金だして借りたレンタライフルを大事そうにもっている……。
マイケル「おお、ブアナたち(旦那)、ついたよ、やっとつきました。さあさ、ジープから降りてくださーい!」
社長「なんだよ、ここ……ずいぶんだたっぴろい、ショボいとこだなあ……!」
りりぃさん「それにあっつい。あ。なによ、このでっかいハエ。うわ」
水野さん「やはりアフリカなんですねえ。気温が高いとそこに住む動物の身体の表面積も相応して広くなる」
新藤さん「ここなら……面白い材料使って、うまいラーメンがつくれそうだな」
マイケル「はいはい、早く降りてみなさん。あ。りりぃさん、銃のさきをひとに向けない!」
りりぃさん「うるさいわね。たまたま向いちゃっただけよ……ったく!」
社長「お。あそこ見ろよ、ライオン…」
りりぃさん「うっしゃーっ!(すばやくライフルを50mさきの雌ライオンに向けて)」
マイケル「ああ、ダメダメダメよ、りりぃさん……ノーノー、このツアーの金額じゃ、みなさんライオンは撃てませーん!」
社長「うわ、ショボ…。じゃあ、俺ら、ここで何が撃てるのさ?」
マイケル「このサバンナにだけ生息する格別の獣がいるのよ。ブアナたちの今日の獲物はそれね」
新藤さん「なんていうの、その獣? 肉は臭くないのかな?」
マイケル「それが正式な学術名はまだないのよ。ただ、現地の人間は皆、リチャコシと呼んでるね」
社長「リチャコシ? なにそれ。はじめて聞くけど、なんだかむかつく名前だな」
りりぃさん「あれ、社長。水野さんがいつのまにかいない」
新藤さん「ほんとだ。さっきまでここにいたのにな…」
マイケル「OH、ブアナたち、心配ないない。あのブアナならもうここの常連だからね。ほら、もうあそこの繁みのとこに這って、ライフルでもう獲物でてくるの狙ってるね……」
社長「すばや~!」
りりぃさん「スゴイ。あたしも負けてらんないわ(ライフル担ぎジープから飛び降りる)」
社長「(ゆっくりとその巨体をジープから運びだし)お~い、リチャコシ、おまえを狩るためにわざわざきてやったぞ~! 観念してでてこ~い!」
新藤さん・りりぃさん「でてこ~い!(ハモって)」
マイケル「まあまあ、ブアナたち、落ちついて……リチャコシはとても臆病な動物ね。警戒心強くて、ひと目があるとなかなかでてこない。だからね、こうやって……(ト、ジープ後方に積んでいたマタイを地面にどさっと引きずりおろす)」
社長「マイケル、なにそれ?」
マイケル「これは……(なかから取り出して社長に手渡しながら)ジャパニーズ・柿の種です」
新藤さん・りりぃさん「柿の種ェ!?(3度のハモリで)」
マイケル「ウイ。日本の和菓子ね。これがリチャコシの好物なのよ。これを草場の影においとくと、いずれ必ず奴でてくるね(ウインクして)」
りりぃさん「まさか。たぬきじゃあるまいし…」
マイケル「いやいや、共通項結構あるのよ。どっちも腹でてるし、ひとを化かす性癖も一緒だし……」
新藤さん「で、ほかのブツは?」
マイケル「これよ。ホッピーでしょ? あとタバコ。マンガ本(ナニワ金融道)。心臓の薬。血液サラサラ薬。ステロイド軟こう。ガチャポン。女子児童用白パン……」
社長「理屈は分かる。しかし、マイケル、こんなのでほんとに奴、釣れるの?」
マイケル「釣れる釣れる。ヤマメみたいにぶわーっと釣れる」
新藤さん「いや、しかし……(トいいかけたとき、耳をつんざく轟音。サバンナに四つんばになっていた水野さんが立ちあがり手をふっている)」
水野さん「やりましたよ~皆さーん! 一匹仕留めましたよ~!(ニコニコと手にした銃を両手で掲げて。ライフルの銃口からは凄い煙)」
マイケル、ツアーのメンバーを獲物のもとに小走りで案内。
社長「うわー、水野くんいい腕だなー。これ心臓一発だよ」
新藤さん「心臓もともと弱かったって聞いてるからね。かすめただけでもダメでしょう。でも、ほんとに一発、見事です」
水野さん「えへへへへ~っ!(やや照れて)」
りりぃさん「こうしてみると…ちょっとはかわいそうかもね。でも、アタマに白パンかぶってるのはなぜ?」
マイケル「さあ? 習性っていうか本能なのかもしれない……」
一同「…………」
新藤さん「(胸で軽く十字を切りながら)…まあ、しんみりしててもしょうがない。僕、サファリを一時抜けて、こいつを解体して血抜きしてますよ。よいしょ。重いな。マイケルさん、手伝って!」
マイケル「はいはい、ただいま……うわ、ほんとにこれ重いや」
ふたりがかりでリチャコシの躯を手近な木陰までゆっくり引きずってゆく。
と、またしてもライフルの発射音。リチャコシの絶叫が幕間より聞こえる。
マイケル「ああ。あれは社長だな。さすが無駄弾撃たないわ、あのひとは」
つづいてライフルの連続射撃音の雨あられ。
リチャコシの逃走音と「う、裏社会の攻撃だー、助けてくださーい…!」の声もする。
マイケル「ああ、あれはりりぃさんっぽいね。あ~あ、怒りにまかせて撃ちまくっちゃって。もうちょい慎重に狙わないと逃げられちゃうぞ~……」
新藤さん「マイケルさ~ん、火ぃ起こしといてくんない? 僕、こっちで解体の準備はじめてるから……」
マイケル「ほい、了解。火か。じゃ、ま、道具道具と…!(小走りにジープに戻る)」
やがて煙とともに香ばしいにおいがサバンナに漂いはじめる。ツエツエ蠅もにおいに釣られてやってくる。向こうのほうでは象が鳴いている。アフリカ大陸の平和な午後の一景である……。
ーfin.(笑)