このブログで、成語、諺語(ことわざ)の出典や使われ方を紹介してきたが、そもそも成語や諺語はどういうもので、何が違うのか、述べてみたい。
【成語の定義】
長年使用され、磨きをかけられ形成された固定フレーズ(句)。単語よりは大きいが、文法機能的には単語に相当する言語単位。
慣用句や諺語(ことわざ)に近いが、多少異なる点がある。主な点は、成語は書物から採られているので、文語的であるのに対し、慣用句や諺語は口語的であることである。成語は字面を変えることができず、大部分が4文字で固定されているが、慣用句や諺語は多少の変化が許され、文字数も制約がない。
ただ、これはあくまで目安であり、成語、諺語、慣用句が、完全に別なものであるわけでなく、区分の明確でないものもある。
【形式】
一般に四文字だが、三文字、五文字以上、二つの部分に分かれ、間がコンマで区切られるものもある。一般に四文字が多いのは、四字が人の口から言いやすいからだろう。
四文字以外の成語の例:
・ 敲門磚
・ 桃李満天下
・ 欲速則不達
・ 五十歩笑百歩
・ 江山易改,本性難移
【構造】
四文字の成語の文法構造
● 主謂式(主語+述語)
・ 名副其実 ming2fu4qi2shi2 名(主)+副其実(述)
・ 盛気凌人 sheng4qi4ling2ren2 盛気(主)+凌人(述)
・ 杞人憂天 qi3ren2you1tian1 杞人(主)+憂天(述)
・ 胸有成竹 xiong1you3chen2zhu2 胸(主)+有成竹(述)
● 動賓式(動詞+賓語(目的語))
・ 好為人師 hao4wei2rn2shi2 好為(動)+人師(目)
・ 莫名其妙 mo4ming2qi2miano4 莫名(明)(動)+其妙(目)
・ 視為畏途 shi4wei2wei4tu2 視為(動)+畏途(目)
● 聯合主謂式(主述構造の連結)
・ 天翻地覆 tian1fan1di4fu4 天(主)翻(述)+地(主)覆(述)
・ 水落石出 shui3luo4shi2chu1 水(主)落(述)+石(主)出(述)
・ 手舞足蹈 shou3wu3zu2dao3 手(主)舞(述)+足(主)蹈(述)
● 聯合動賓式(動詞目的語構造の結合)
・ 知己知彼 zhi1ji3zhi1bi3 知(動)己(目)+知(動)彼(目)
・ 養精蓄鋭 yang3jing1xu4rui4 養(動)精(目)+蓄(動)鋭(目)
・ 防微杜漸 fang2wei1du4jian4 防(動)微(副)+杜(動)漸(副)
・ 発号施令 fa1hao4shi1ling4 発(動)号(目)+施(動)令(目)
● 聯合名詞式(名詞句の結合)
・ 粗心大意 cu1xin1da4yi1 粗心(名)+大意(名)
・ 南轅北轍 nan2yuan2bei3zhe2 南轅(名)+北轍(名)
・ 鏡花水月 jing4hua1shui3yue4 鏡花(名)+水月(名)
● 聯合動詞式(動詞句の結合)
・ 突飛猛進 tu1fei1meng3jin4 突飛(動)+猛進(動)
・ 勇往直前 yong3wang3zhi2qian2 勇往(動)+直前(動)
● 動補式(動詞+補語)
・ 逍遥法外 xiao1yao2fa3wai4 逍遥(動)(在)法外(補)
・ 問道于盲 wen4dao4yu2mang2 問道(動)+于盲(補)
● 兼語式(動詞+兼語+述語)
・ 以隣為壑 yi3lin2wei2he4 以(動(介詞))+隣(兼語)+為壑(述)
・ 令人生畏 ling4ren2shen1wi4 令(動)+人(兼語)+生畏(述)
● 並列式(並列構造):名詞句、動詞句などが並列する構造。形としては、
聯合名詞式、聯合動詞式などと同じ。
・ 千山万水 qian1shan1wan4shui3 千山(名)+万水(名)
・ 画蛇添足 hua4she2tian1zu2 画(動)蛇(目)+添(動)足(目)
● 偏正式(修飾語構造)意味的に間に「的」が入る
・ 傾盆大雨 qing1pen2da4yu3 傾盆(定語) (的)大雨(中心詞)
・ 窈窕淑女 yao3tiao3shu1nv3 窈窕(定語) (的)淑女(中心詞)
【歴史】 成語は古代から語り継がれてきたものが多く、ことばの使い方も、現代文とは異なる場合も多い。昔の人の文章から採られたもの、人々が言い慣わしたものがある。字面で意味のわかるものもあるが、故事出典に基づき、字面だけでは意味のわかりにくいものもある。
● 昔の寓話から採られたもの:
・ 狐假虎威 出典:戦国策・楚策
・ 鷸蚌相争 燕策画蛇添足
・ 斉策刻舟求剣 呂氏春秋・察今
・ 自相矛盾 韓非子
● 歴史上の故事から採られたもの
・ 完璧帰趙 史記・廉頗藺相如列伝
・ 破釜沈舟 史記・項羽本紀
・ 草木皆兵 晋書・苻堅載記
・ 一箭双雕 北史・長孫晟伝
・ 口蜜腹剣 唐書•李林甫伝
● 古書の文句を用い、四字の成語としたもの
・ 有条不紊 《尚書・盤庚》“若網在網,有条而不紊”
・ 挙一反三 《論語・述而》“挙一隅,不以三隅反,則不復也”
・ 痛心疾首 《左伝》成公十三年“斯是用痛心疾首,暱就寡人”
・ 分庭抗礼 《庄子・漁父》“万乗之主,千乗之君,未嘗不分庭抗礼”
● 古人の文章の成句から採ったもの
・ 憂心忡忡 《詩経・召南・草虫》
・ 外強中干 《左伝》僖公十五年
・ 以逸待労 《孫子・軍争》
・ 水落石出 蘇軾《后赤壁賦》
・ 萍水相逢 唐代・王勃《滕王閣序》
・ 牢不可破 唐代・韓愈《平淮西碑》
● 人々が口頭で言い慣わした慣用句が転じて成語となったもの
・ 咬文嚼字
・ 拖泥帯水
・ 陽奉陰違
・ 不三不四
・ 心直口快
● 外来文化(仏教など)の影響を受けたもの
・ 天花乱墜
・ 当頭棒喝
・ 不可思議
・ 不二法門
【諺語(ことわざ)】
諺語は大部分が文(センテンス)であり、句(フレーズ)ではない。諺語は通常、人々の口語の中で用いられ、文章の中で用いられることは少ない。諺語の形式は、成語のように整っていない
例:
・ 真金不怕火練
・ 坐山観虎斗
・ 天下烏鴉一般黒
・ 百聞不如一見
・ 有志者事竟成
・ 路遥知馬力,日久見人心
【慣用句】
慣用句も、諺語と同様、人々の口語の中で用いられるものだが、諺語のような文(センテンス)ではなく、成語と同様、句(フレーズ)である。
例:
・ 快刀斬乱麻
・ 九牛二虎之力
・ 驢唇不対馬嘴
・ 前怕狼,后怕虎
【歇后語】
歇后語は固定的な句(フレーズ)で、必ず2つの部分から構成される。前半は比喩や譬え。後半で譬えの解の説明をする。
例:
・ 狗拿耗子 多管閑事
・ 泥菩薩洗臉 越洗越難看
・ 蜜餞黄連 先甜后苦