中国語学習者のブログ

これって中国語でどう言うの?様々な中国語表現を紹介します。読者の皆さんと一緒に勉強しましょう。

紅楼夢 第五回(その2)

2010年04月12日 | 紅楼夢
 寧国邸での梅の花見にやってきた宝玉、疲れたので、賈蓉の妻の秦氏の部屋に行き、休ませてもらうことになった。宝玉が秦氏の寝室で昼寝をすると、夢の中に美しい仙女が出てきた。さて、今回はその続きです。

                    (その二)

■ 宝玉見是一個仙姑,喜的忙来作揖問道:“神仙姐姐不知従那里来,如今要往那里去?也不知這是何処,望乞携帯携帯.”那仙姑笑道.“吾居離恨天之上,灌愁海之中,乃放春山遣香洞太虚幻境警幻仙姑是也.司人間之風情月債,掌塵世之女怨男痴.因近来風流冤孽,纏綿于此処,是以前来訪察机会,布散相思.今忽与尓相逢,亦非偶然.此離吾境不遠.別無他物,僅有自采仙茗一盞,親醸美酒一瓮,素練舞歌姫数人,新填《紅楼夢》仙曲十二支,試随吾一遊否?”宝玉聴説,便忘了秦氏在何処.竟随了仙姑,至一所在,有石牌横建.上書“太虚幻境”四個大字,両辺一副対聯,乃是:
假作真時真亦假,
無為有処有還無.

・作揖 zuo4yi1 =拱手 拱手する。両手を組み合わせて高く挙げ、上半身を少し曲げる
・冤孽 yuan1nie4 前世の因業
・纏綿 chan2mian2 まとわりつく。つきまとう

 宝玉は仙女を見ると、うれしくなって、急いで拱手して問うた。「仙女のお姉さん、どこから来られました?これからどちらに行かれるのですか?また、ここはどこなのでしょう。どうか連れて行ってください。」その仙女は笑って言った。「私は離恨天の上、灌愁海の中におります。すなわち放春山の遣香洞、太虚幻境の警幻仙女とは私のこと。人間世界の色恋の貸し借り、浮世の男女の恋や恨みを司っています。近頃、風流の罪つくりどもが、この地にまとわりついて離れませんゆえ、以前からやって来て、相思の情をちらしてやる機会をうかがっておりました。今、あなたにお会いしたのも、まんざら偶然とは言えません。ここは我が里からも遠くありません。別段何もございませんが、自ら採った茶を一杯、自ら醸した酒を一甕差し上げたいと思います。平素より踊りの鍛錬をしている歌姫が数人おり、新たに《紅楼夢》という曲を十二曲作りましたので、試みに私について遊びに来られませんか。」宝玉はそれを聞くと、秦氏がどこにいるかも忘れ、仙女について行き、とある場所にやって来た。そこは横に石の牌楼が建っており、上に“太虚幻境”の四文字が大書され、両側に対聯が掲げられ、そこには次のように書かれていた。
 仮の真なる時は真もまた仮
 無の有なる所は有もまた無

■ 転過牌坊,便是一座宮門,上面横書四個大字,道是:“孽海情天”.
又有一副対聯,大書云:
厚地高天,堪嘆古今情不尽.
痴男怨女,可憐風月債難償.

 牌楼をくぐり抜けると、宮門があり、その上には四文字が大書され、“孽海情天”とあった。その両側にも対聯が掲げられ、次のように大書されていた。
 厚地高天、歎ずるに堪えたり古今の情は尽きず、
 痴男怨女、憐れむべし風月の債は償い難し。

■ 宝玉看了,心下自思道:“原来如此.但不知何為‘古今之情’.何為‘風月之債’?従今倒要領略領略.”宝玉只顧如此一想,不料早把些邪魔招入膏肓了.当下随了仙姑進入二層門内,至両辺配殿,皆有扁額対聯,一時看不尽許多,惟見有几処写的是:“痴情司”,“結怨司”,“朝啼司”,“夜怨司”,“春感司”,“秋悲司”.看了,因向仙姑道:“敢煩仙姑引我到那各司中遊玩遊玩,不知可使得?”仙姑道:“此各司中皆貯的是普天之下所有的女子過去未来的簿册,尓凡眼塵躯,未便先知的.”宝玉聴了,那里肯依,復央之再四.仙姑無奈,説:“也罷,就在此司内略随喜随喜罷了.”

・領略 ling3lve4 はじめて知る。味わう
・膏肓 gao1huang1 膏肓(こうこう)。事態がもはや救いようのない状態にあること。
 [参考]中国医学では、“膏”は胸の下部、“肓”は胸と腹の間にある薄い膜をいい、“膏”と “肓”は病気の最も治療しにくいところとされた。
・使得 shi3de2 構わない

宝玉はそれを見ると、心の中で思った。「なるほど、そういうことだったのか。しかし、“古今の情”とは何だろう。“風月の債”とは何だろう。これからそれをちょっと味わってみたいものだ。」宝玉はそんなことばかり考え、知らず知らず早くも邪(よこしま)な気持ちを膏肓に招じ入れてしまった。仙女について二層の門の内側に入ると、両側に配殿かあり、それぞれに扁額と対聯があり、一時にはあまり多くは見尽くせない。ただ、何ヵ所かに“痴情司”、“結怨司”、“朝啼司”、“夜怨司”、“春感司”、“秋悲司”などと書いてあるのが見えるだけだった。そこで仙女に言った。「できれば私にあそこをひとつひとつ見せていただきたいのですが、構わないでしょうか。」仙女は「これらの司にしまってあるのは普天の下のあらゆる女子の過去と未来の帳簿で、あなたのような凡人の目、普通の体の人には先に知らせることはできません」と答えた。宝玉はそう聞くと、どうして納得できよう、再三再四お願いしたので、仙女もどうしようもなく、言った。「わかりました。この司をちょっとだけ拝ませてあげましょう。」

■ 宝玉喜不自勝,抬頭看這司的扁上,乃是“薄命司”三字,両辺対聯写的是:
春恨秋悲皆自惹,
花容月貌為誰妍.

 宝玉は喜ぶまいことか、頭を上げるとこの司の扁額を見た。そこには“薄命司”の三文字が書かれ、両側の対聯にはこう書かれていた。
 春恨秋悲は皆自ら惹き起す、
 花容月貌は誰が為に妍(あでや)かなる。

■ 宝玉看了,便知感嘆.進入門来,只見有十数個大厨,皆用封条封着.看那封条上,皆是各省的地名.宝玉一心只揀自己的家郷封条看,遂無心看別省的了.只見那辺厨上封条上大書七字云:“金陵十二釵正册”.宝玉問道:“何為‘金陵十二釵正册’?”警幻道:“即貴省中十二冠首女子之册,故為‘正册’.”宝玉道:“常聴人説,金陵極大,怎麼只十二個女子? 如今単我家里,上上下下,就有几百女孩子呢.”警幻冷笑道:“貴省女子固多,不過択其緊要者録之.下辺二厨則又次之.余者庸常之輩,則無册可録矣.”

 宝玉はそれを見ると、なるほどと感嘆した。門を入ると、十数個の大きな戸棚があり、皆、封じ紙で封印がしてあった。その封じ紙を見ると、皆各省の地名が書かれていた。宝玉はひたすら自分のふるさとの封じ紙を探して見て、他省のものは見ようとしない。すると向こうの戸棚の封じ紙に大きく七文字、“金陵十二釵正册”と書いてあるのを見つけた。宝玉は問うた。「どうして“金陵十二釵正册”なのですか。」警幻は「すなわち、あなたの省のもっとも優れた十二人の女子の帳簿だから、“正册”というのです。」と答えた。宝玉は言った。「よく人々が言っていますが、金陵はとても大きいのに、どうしてたった十二人の女子なのですか。私の家だけでも、上から下まで、数百人の女の子がいます。」警幻は冷やかに笑って言った。「あなたの省の女子は固より多いが、その中の重要な者だけ選んで記録しています。下のふたつの棚がこれに次ぐものです。それ以外の平凡な輩は、帳簿に記録されていません。」

■ 宝玉聴説,再看下首二厨上,果然写着“金陵十二釵副册“,又一个写着“金陵十二釵又副册”.宝玉便伸手先将“又副册”厨開了,拿出一本册来,掲開一看,只見這首頁上画着一幅画,又物,也無山水,不過是水墨染的満紙烏雲濁霧而已.后有几行字跡,写的是: 
霽月難逢,彩雲易散.心比天高,身為下賤.
風流霊巧,招人怨.寿夭多因毀謗生,多情公子空牽念.

・霽月 ji4yue4 晴れ上がった空の月。

 宝玉はそう聞くと、下の二つ目の棚を見ると、果たして“金陵十二釵副册“と書いてあり、またもう一つには“金陵十二釵又副册”と書いてあった。宝玉は手を伸ばすと、“又副册”の棚を開き、帳簿を一冊取り出すと、開いて見てみたが、最初のページに一幅の絵が描いてあるのが見えただけであった。それは人物でもなく、山水でもなく、ただ紙一面を水墨でぼかした黒い雲と霧であるに過ぎなかった。後ろに数行の字があり、こう書かれていた。
霽月には逢い難く、彩雲は散り易し。心は天より高けれど、身は下賤なり。
風流霊巧は、人の怨みを招く。夭寿は多く誹謗により生じ、多情の公子は空しく念(おもい)を牽くのみ。

※晴霽のことを詠んだもの。多情の公子とは、当然、宝玉のことである。

■ 宝玉看了,又見后面画着一簇鮮花,一床破席,也有几句言詞,写道是:
枉自温柔和順,空云似桂如蘭,
堪優伶有福,誰知公子無縁.

 宝玉が見てみると、また後ろの頁に一群の美しい花と、一枚の破れた蓆が描かれており、またいくつかの詞書きが添えられていた。書かれていたのは、
温柔和順というも枉(むな)しく、桂に似、蘭の如しと云うも空しい。
羨むに堪えたり、優伶に福有るを。誰か知らん、公子に縁無きを。

※襲人のことを詠んだもの。破れた蓆の“席”と“襲”を音が同じ、つまり諧音である。
「公子に縁無き」とあり、襲人は宝玉と結ばれることはなかった。

■ 宝玉看了不解.遂擲下這個,又去開了副册厨門, 拿起一本册来,掲開看時,只見画着一株桂花,下面有一池沼,其中水涸泥干,蓮枯藕敗,后面書云:
根并荷花一茎香,平生遭際実堪傷.
自従両地生孤木,致使香魂返故郷.

・遭際 zao1ji4 境遇。めぐりあわせ

 宝玉は見ても意味がわからず、これを捨て置き、また副册の棚の戸を開き、帳簿を一冊取り出し、頁を開いて見ると、一株の木犀の花が描かれているだけで、下には沼があるが、その水は涸れ泥は干上がり、蓮は葉も根も枯れ果てている。後ろに書があり、こう書かれている。
根は荷花と並び一茎香ばし、平生の遭際、実に傷(かな)しむに堪えたり。
両地に孤木が生じてより、香魂をして故郷に返らしむを致す。

※桂花とは夏金桂、蓮は英蓮、後の香菱のことである。
詩は、香菱のことを詠んだもの。香菱は、甄士隠の娘として生まれたが、人さらいにさらわれ、のち薛潘の妾となったが、本妻の夏金桂にいびり殺される。「両地に孤木が生ず」とは、土ふたつに木ひとつなので、“桂”の字のことで、夏金桂を指す。

■ 宝玉看了仍不解.便又擲了,再去取“正册”看, 只見頭一頁上便画着両株枯木,木上懸着一囲玉帯,又有一堆雪,雪下一股金簪.也有四句言詞,道是:
可嘆停机,堪憐咏絮才.
玉帯林中挂,金簪雪里埋.

宝玉は見ても依然何の事か分からず、また捨て置き、今度は“正册”を取り出して見てみると、最初のページに二株の枯れ木が描かれ、木の上には一本の玉のベルトが懸かり、また雪が積もり、雪の中に一本の金の簪が落ちている。これにも四句の詞書きが添えられていて、それには、
嘆くべし機(はた)を停むるの徳、憐れむに堪えたり絮(わたばな)を咏じるの才。
玉帯は林中に掛かり、金簪は雪里に埋もる。

※「林中lin2zhong1の玉帯yu4dai4」とは林黛玉lin2dai4yu4のこと。「雪xue3の中の金簪」とは、薛xue1宝釵のこと(“簪”zan1も“釵”chai1もかんざしの意味)。
*可嘆停机
 “停机”は《後漢書・列女伝・楽羊子妻》に出てくる話で、楽羊子が遠方に学問を修めに行くが、家が恋しくなり、一年だけで家に戻ったところ、彼の妻はちょうど機で布を織っており、楽羊子が家に戻った訳を知ると、はさみを持って機で織っていた反物を切り裂き、それにより学業の中断は将来の大業成就を放棄することだと諭し、楽羊子に学問を継続し、功名を上げるまで、中途で放棄することのないよう諌めた。
*堪怜咏絮才。
 “咏絮才”は《世説新語》に出てくる話で、晋の王凝之の妻、謝道蘊の詩才にまつわるエピソード。ある冬の大雪の日、謝道蘊の叔父の謝安が雪を吟じる詩を作っていて、“白雪紛紛何所擬?”(雪がはらはらと降る様を何に譬えようか?)と言ったところ、兄の謝朗は“撒塩空中差可擬。”(塩を空中に撒く様に多少似ている)と答えたところ、すぐさま謝道蘊は、“未若柳絮因風起。”(それは柳絮(りゅうじょ)が風により起こる、と言うのに及ばない)と言い、謝安はそれをきいて大いに感嘆したという。

■ 宝玉看了仍不解.待要問時,情知他必不肯泄漏,待要丢下,又不舍.遂又往后看時,只見画着一張弓,弓上挂着香櫞.也有一首歌詞云:
二十年来辨是非,榴花開処照宮闈.
三春争及初春景,虎兔相逢大夢帰.

・香櫞 xiang1yuan2 仏手柑。シトロン
・宮闈 gong1wei2 直訳すると「宮中の脇門」だが、“宮闈”で「宮廷」の意味。
 宝玉はそれを見ても依然何のことか分からず、聞いてみようかと思ったが、警幻が事情を漏らすはずがないことは明らかで、捨て去ろうかとも思ったが、捨てるのも惜しい。そこでまた続けて後ろを見てみると、一張りの弓が描かれ、弓には香櫞が掛かっていた。これにも詞書きが一首添えられ、
二十年来是非を弁じ、榴花(ざくろ)開く処、宮闈を照らす。
三春、いかで及ばん初春の景に、虎兎相逢うて大夢に帰せん。

※ここは、元春のことを言っている。弓に香櫞が掛かった絵というのは、“弓”は“宮”と音が同じ(gong1)なので、宮中のことであり、“櫞”と“元”も音が同じ(yuan2)なので、元春が宮中に入り、妃となることを言っている。
“二十年来辨是非”は、元春が二十歳で宮中に入った時は、もう人情世事に通じていたことを指す。榴花(ざくろ)は火のように赤いので“照”の字を用い、元春が鳳藻宮に入れられ、賢妃に封じられたことを言う。《北史》に北斉の安王高延宗が帝を称し,趙郡李祖収の娘を妃とした。後に皇帝が李氏の家で宴席を設けた時、妃の母親の宋氏が一対の石榴を贈った。石榴は種が多いので、子孫が繁栄するという意味でお祝いしたのである。
“三春”は春の三か月のことだが、迎春、探春、惜春の三人を指している。“初春”は元春を指す。“争及”とは、“怎及”のことで、「どうして及ぼうか」。元春の三人の姉妹は何れも彼女の栄華には及ばない、の意。
“虎兔”の句は元春の死期を言っている。つまり、寅卯の日に元春が亡くなることを暗示している。“大夢帰”とは、死ぬことを指す。またこの部分を“虎兕相逢大夢帰”と書く本もあり、この場合は、兕se4 雌の犀の意味で、猛獣どうしが相争うことから、元春の死後、ふたつの政治勢力が争うことを暗示しているという説もある。

 今回はここまでにします。
 ここは、詩の中で使われていることばの影の意味をひとつひとつ紐解いていかないと、本当の意味が理解できません。ということで、読むのに時間がかかってしまいますが、ご容赦を。また次回にお目にかかりましょう。