中国語学習者のブログ

これって中国語でどう言うの?様々な中国語表現を紹介します。読者の皆さんと一緒に勉強しましょう。

紅楼夢 第一回 (その5)

2009年11月03日 | 紅楼夢

 さて、第一回も終盤に入り、賈雨村は出世の糸口をつかみ、甄士隠は不幸のどん底に突き落とされます。

 士隠聴了,大叫:“妙哉!吾毎謂兄必非久居人下者,今所吟之句,飛騰之兆已見,不日可接履于云霄之上矣.可賀,可賀!”乃親斟一斗為賀.雨村因干過,嘆道:“非晩生酒后狂言,若論時尚之学,晩生也或可去充数沽名,只是目今行囊路費一概無措,神京路遠,非頼売字撰文即能到者。”士隠不待説完,便道:“兄何不早言.愚毎有此心,但毎遇兄時,兄并未談及,愚故未敢唐突.今既及此,愚雖不才,‘義利’二字却還識得.且喜明歳正当大比,兄宜作速入都,春闈一戦,方不負兄之所学也.其盤費余事,弟自代為処置,亦不枉兄之謬識矣!”当下即命小童進去,速封五十両白銀,并両套冬衣.又云:“十九日乃黄道之期,兄可即買舟西上,待雄飛高挙,明冬再晤,豈非大快之事耶!”雨村收了銀衣,不過略謝一語,并不介意,仍是吃酒談笑.那天已交了三更,二人方散.

[訳]士隠はそれを聞くと、大声で叫んだ。「すばらしい。私はいつも、あなたはこんな所に長く居られる人ではないと言っていましたが、今吟じられた句には飛翔の兆しが見てとれ、近いうちに踵を接して雲の上に上がって行かれましょう。いやめでたい、めでたい。」そして自ら一斗の酒を注ぎお祝いをした。雨村はそれを飲み干し、嘆いて言った。「酒の上での暴言ではないのですが、今流行りの学問を論じるのであれば、私も或いは員数合わせに名を連ねることもできるかもしれません。ただ、今のところ旅装を整えたり旅費の一切が準備できておらず、都への道は遠く、売字撰文に頼る者が到底できることではありません。」士隠は話が終わるのを待って、言った。「兄上、どうしてもっと早く言ってくれなかたのですか。愚弟はそのつもりがありましたが、いつも兄上に会っても、兄上が切り出されないので、愚弟の方からは敢えて失礼になることは申しませんでした。今ここに及びましては、愚弟は不才といえども、「義理」の二文字は知っております。しかも喜ばしいことに来年はちょうど会試の年に当たっており、兄上は速やかに都へ入られ、試験を受けられてこそ、兄上が学んで来られたことに申し訳が立ちましょう。旅費その他のことは、愚弟が代わって対処しますので、それで兄上と誤って知り合いになったことも無駄にならずにすみましょう。」すぐに小僧に命じて、五十両の銀子を包ませ、また冬の着物も二着用意させ、言った。「十九日は黄道の日に当たっていますから、兄上はすぐに船を雇って西に向かってください。雄飛高挙を期待しています。来年の冬にまたお目にかかれれば、すばらしいではありませんか。」雨村は銀子と衣料を受け取ると、簡単にお礼を言っただけで、別段気にするふうでもなく、酒を飲んだり談笑したりしていたが、その日も三更(夜中の12時頃)になり、二人は別れた。

● 不日 bu4ri4 ちかいうち
● 接履 jiellv3 =接踵 jie1zhong1 踵を接する。次々と
● 云霄 xun2xiao1 空
● 晩生 wan3sheng1 (先輩、または1世代上の人に対する自称)私
● 充数 chong1shu4 員数をそろえる
● 沽 gu1 売る (沽名釣誉:売名行為をする)「充数掛名」とするテキストもある。
● 行囊 xing2nang2 旅行用の袋
● 撰文 zhuan4wen2 文章を書く
● 唐突 tang2tu1 軽率な言動で失礼になる
● 大比 da4bi3 科挙の会試。各省の挙人(郷試の合格者)が3年ごとに首都で受けた。
● 春闈 chun1wei2 科挙の会試。春試とも言う。春に行われたことから。闈wei2とは、科挙の試験場のこと。
● 盤費 pan2fei4 旅費
● 枉 wang3 むだになる
● 謬識 miu4shi2 誤って知りあいになる
● 黄道 huang2dao4 黄道吉日:民間の信仰で、万事順調にいくとされる日。日本の大安吉日に当たる。「黄道日」ともいう。
● 晤 wu4 会う


 士隠送雨村去后,回房一覚,直至紅日三竿方醒.因思昨夜之事,意欲再写両封薦書与雨村帯至神都,使雨村投謁個仕宦之家為寄足之地.因使人過去請時,那家人去了回来説:“和尚説,賈爺今日五鼓已進京去了,也曾留下話与和尚転達老爺,説‘読書人不在黄道道,総以事理為要,不及面辞了.’”士隠聴了,也只得罷了.

[訳]士隠は雨村を見送ってから、部屋に戻って寝た。そして日が真上に来る頃にようやく目覚めた。昨晩の事があったので、さらに二通の推薦状を書いて雨村に都へ持たせ、雨村がお役人にお目通りし、寄宿できるようにしたいと思った。それで家の者に呼びに行かせると、その者が帰って来て言うには、「和尚様が言われるには、賈様は本日五鼓(朝8時頃)にはもう都に向かわれたとのことで、また和尚様に旦那さまへお伝えくださいと言われたことは、「読書人には黄道も道もなく、常に事の道理を以てすることが肝要と存じ、ご挨拶には伺いません」とのことでございました。」士隠はそう聞くと、どうすることもできなかった。

● 三竿 san1gan1 竿三本分の高さ
● 謁 ye4 目上の人、地位の高い人にお目にかかる
● 事理 shi4li3 事の道理

 真是閑処光陰易過,倏忽又是元霄佳節矣.士隠命家人霍啓抱了英蓮去看社火花灯,半夜中,霍啓因要小解,便将英蓮放在一家門檻上坐着.待他小解完了来抱時,那有英蓮的踪影?急得霍啓直尋了半夜,至天明不見,那霍啓也就不敢回来見主人,便逃往他郷去了.

[訳]誠に閑居していると光陰矢のごとしで、たちまち元霄の佳節となった。士隠は召使の霍啓に命じて英蓮を抱いて、出し物や提灯を見に行かせた。夜半に霍啓が小便に行きたくなり、英蓮を一軒の家の敷居の上に座らせ、小用を終えて帰って来ると、どこにも英蓮の影も形も無くなっていた。慌てた霍啓は夜中のあいだ尋ね歩いたが、あたりが明るくなっても見つからず、かの霍啓は戻って主人に会うこともできず、故郷に逃げ帰ってしまった。

● 倏忽 shu1hu1 たちまち
● 元霄 yuan2xiao1 旧暦の1月15日
● 社火 she4huo3 祭りのとき民衆が集団的に行う娯楽演芸
● 花灯 hua1deng1 飾りをつけた燈籠。ランタン
● 小解 xiao3jie3 小便をする
● 門檻 men2kan3 (門や入口の)敷居

 那士隠夫婦,見女儿一夜不帰,便知有些不妥,再使几人去尋找,回来皆云連音響皆無.夫妻二人,半世只生此女,一旦失落,豈不思想,因此昼夜啼哭,几乎不曾尋死.看看的一月,士隠先就得了一病,当時封氏孺人也因思女構疾,日日請医療治.

[訳]かの士隠夫婦は、娘が一晩中戻って来ていないことを知ると、何かよくないことが起こったと知り、もう一度何人かを尋ねに行かせたが、帰って来ても皆何の知らせも無いと言うばかりだった。夫妻は半生でこの娘しか産んでいないので、一旦それをなくすと、そのことばかり考え、昼も夜も泣き続け、危うく自殺するところであった。ひと月みてみると、士隠が先に病気になり、すぐに夫人の封氏も病気になり、毎日医者に来てもらい治療した。

● 不妥 bu4tuo3 適当でない。よくない
● 半世 ban4shi4 半生
● 失落 shi1luo4 なくす。紛失する
● 啼哭 ti2ku1 声を出して泣く
● 構疾 gou4ji2 病気になる

 不想這日三月十五,葫芦廟中炸供,那些和尚不加小心,致使油鍋火逸,便焼着窓紙.此方人家多用竹籬木壁者,大抵也因劫数,于是接二連三,牽五挂四,将一条街焼得如火焰山一般.彼時雖有軍民来救,那火已成了勢,如何救得下?直焼了一夜,方漸漸的熄去,也不知焼了几家.只可怜甄家在隔壁,早已焼成一片瓦礫場了.只有他夫婦并几个家人的性命不曾傷了.急得士隠惟跌足長嘆而已.只得与妻子商議,且到田庄上去安身.偏値近年水旱不收,鼠盗蜂起,無非搶田奪地,鼠窃狗偸,民不安生,因此官兵剿捕,難以安身.士隠只得将田庄都折変了,便携了妻子与両個丫鬟投他岳丈家去.

[訳]思いがけず、この3月15日、ひょうたん廟ではお供えの菓子を油で揚げていて、和尚たちが注意を怠ったため、てんぷら鍋に火がつき、窓の紙を焼き、この地方の人家は多く竹垣や木の壁を用いており、おそらく劫(ごう)の数により、次々と燃え広がり、ひと筋の街路が火焰山のように燃えあがった。この時、軍民が救助に来たが、火に勢いがあり、どうして救い出せようか。一晩中燃え続いて、ようやく火は消えたが、何軒の家が焼けたかわからなかった。気の毒なことに甄家は隣であるので、とっくに焼けて瓦礫の山となってしまった。ただ夫婦と何人かの召使の命は損なわれることもなかった。慌てた士隠が地団太を踏み長嘆するばかりであった。仕方なく妻と相談し、田舎の荘園へ行って身を落ち着けることにした。折悪しく近年は干ばつで収穫ができず、盗賊が蜂起し、田や土地を奪い、こそどろが出て、民心が安定せず、官兵が討伐するも、身を安んじることができず、士隠は仕方なく田畑を売り払い、妻と二人の召使を連れて舅の家に身を寄せた。

● 劫数 jie2shu4 劫(ごう)の数
● 接二連三 =牽五挂四 次々と
● 瓦礫 wa3li4 がれき
● 跌足 die1zu2 地団太を踏む、足を踏み鳴らす
● 田庄 tian2zhuang1 官僚、地主が農村で所有していた田畑、荘園
● 安身 an1shen1 身を寄せる。身を置く
● 値 zhi2 ~に当たる。~にぶつかる
● 水旱不收 shui3han4bu4shou1 旱魃で収穫ができない
● 鼠窃狗偸 shu3qie4gou3tou1 こそどろ
● 剿捕 jiao3bu3 討伐して捕まえる
● 折変 zhe2bian4 売り払う
● 岳丈 yue4zhang4 岳父。妻の父。しゅうと

 他岳丈名喚封粛,本貫大如州人氏,雖是務農,家中都還殷実.今見女婿這等狼狽而来,心中便有些不楽.幸而士隠還有折変田地的銀子未曾用完,拿出来托他随分就価薄置些須房地,為后日衣食之計.那封粛便半哄半賺,些須与他些薄田朽屋.士隠乃読書之人,不慣生理稼穡等事,勉強支持了一二年,越覚窮了下去.封粛毎見面時,便説些現成話,且人前人后又怨他們不善過活,只一味好吃懶作等語.士隠知投人不着,心中未免悔恨,再兼上年驚嚇,急忿怨痛,已有積傷,暮年之人,貧病交攻,竟漸漸的露出那下世的光景来.

[訳]彼の岳父の名は封粛といい、本籍は大如州の人である。農業を生業にしているが、家は豊かであった。今、娘婿らが狼狽して来たのを見て、心中おもしろくなかった。幸いにも、士隠が田畑を売った金がまだ使いきっておらず、それを出してきて彼に託して必要な家や土地を適当に値をつけて買い、これからの暮らしに備えようとした。かの封粛は半ばだまして半ば儲けて、彼に痩せた田んぼとぼろ家を与えた。士隠は読書人で、商売や農業に慣れておらず、なんとか一二年は持ち堪えたが、益々生活に困るようになった。封粛は面と向かっては、あたりさわりのないことを言っているが、彼のいないところでは彼らは暮らし向きも立てられない、食いしん坊の怠け者だと非難した。士隠は舅が信頼できないとわかり、心の中でひどく悔やんだが、前年の事件の恐怖、怒りや悲しみで、既に十分傷ついており、人生の晩年を迎え、貧困と病に交互に攻められ、次第にこの世を去る光景が脳裡をよぎるようになってきた。

● 殷実 yin1shi2 富んでいる。豊である
● 置 zhi4 買う。買い入れる
● 薄田 bo2tian2 やせた田畑
● 稼穡 jia4se4 広く農事を指す
● 現成話 xian4cheng2hua4 部外者の無責任な発言
● 好吃懶作 hao3chi1lan3zuo4 食いしん坊の怠け者
● 上年 shang4nian2 去年
● 驚嚇 jing1xia4 怖がってびくびくする
● 急忿 ji2fen4 いらだち怒る
● 怨痛 yuan4tong4 恨み悲しむ
● 暮年 mu4nian4 晩年
● 下世 xia4shi4 この世を去る

 このように、不幸のどん底に落とされた甄士隠は厭世的になりますが、ここでまた、あのきちがい坊主と再会します。そのくだりは、次回でご紹介します。


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