だぼ鯊の戯言
政府が領海管理強化のため全国158の離島に名称を付けたという8月1日の発表は、尖閣問題に端を発する時流の産物とはいえ「南紀伊古木の
瀬島、見老津のソビエト、通夜島のホーラクが、我が国領海の起点として海図に正式記載される」というビッグニュースで、関西の釣り人の間に大きな話題を呼びました。
とりわけ「ソビエト」の磯名が物議をかもした それはもう、過熱というほかなく、ネットの掲示板も8月1日から2日未明にかけて「昔、ソビエトの人が住んでいたからじゃない?」「町起こしができそう、行ってみたいね」などなどスレッ
ドが目白押し…。新聞もスターリンの肖像写真に「最果ての島?」の吹き出しまで入れたものですから謎が謎を呼びました。
昔話で恐縮ですが僕が三木武夫会長のもとで「いそつり」の編集者時代、今回話題のこの「ソビエト」名の由来がやはり気になって当時の磯釣り
の重鎮に取材、「あぁ、あれは聳(そび)えている、の転訛でしょう」と教わり、その後、近畿方言の一部で「〇〇している→○○しとー」(例・
釣れつづいている→釣れつづいとー)と「ている」を「―(長音)」の省略形で表すことを知るに至り、なるほど「そびえている→そびえとー=ソ
ビエト」だと自分なりにロシアの旧国名ソビエトとは無関係だと解決済みでした。但しあくまでも推測で、物的証拠はございませんので為念。
しかし、どんな小さな島、岩礁にもその形状や色、さまざまな特徴、歴史的流れから名前があることを、当たり前のように承知し、話題にし、共有してきた、釣り人の常識であり文化であったものが、今回の一件で、大きくフットライトを浴び
、再認識されたことは、うれしいことです。
何がうれしいか?って。今回、日本の領海を決める基点となる全国22都道府県158の無人島に名称をつけたわけですが「すでに呼び名があるものはそのままの名称を付与」した、というのがうれしかった。奇異な語感のソビエトも、現在国土
地理院の電子版地図に明確に記載されています。
だぼ鯊としては釣り人の伝統文化、地域性を尊重してくれたことがうれしかったのです。
磯に名前がない場合はどうしたの?…新聞によると「近くの地名」プラス「方角」プラス「小島」のルールにのっとって名前を付与したそうです
。このルールを編み出した我が国政府官僚の明晰な頭脳に僕は舌を巻きました。
尖閣諸島で新たに名を付与された5島をご覧ください。「久場島の西北西小島」、「南小島の南東小島」などなどルールに則って見事に整理され
ています。16方向、いや「微」(南東微南など)を入れると32方向の小島にすべて名がつく仕掛けです。
でも、釣り人の先祖の名付けた「聳えと~の語感からのソビエト」や「素焼きの焙烙土鍋の連想からのホーラク」などなどユニークな磯の名前は
方位コンパスをあててルールに従って機械的に名付けたものとは、またちがった味わいがあるように思いますがいかがでしょうか。
ご存知、愛媛宇和海・御五神島の名礁ピラミッドやスフィンクスはまあ、明治以来のものでしょうが、潮岬のツナカケ(綱掛け)、アシカ(海驢
)、エボシ(烏帽子)などはン百年の年代ものかも。コメツブ(米粒)にいたっては、なんとお洒落なネーミングじゃありませんか!
イラストも・からくさ文庫主宰)