磯の名前で判りやすいのが大バエ、小バエなど「大きさ」に関するものです。ちょっと言い方を変えて○○親とか○○子もあります。ほか、丸バエ、平バエ、長バエ、三角などは「かたち」に因んだものです。いずれもハエを島に置き換えますと、日本国中どこの海にでも見つけることが出来そうな名前です。
民話が伝える
大猿島、小猿島の哀話
大きさやかたちのほか、赤、黒、黄など「色」に関する磯名もあります。ナベ、焙烙(ホウロク)、釜などは「食器」です。「鳥」の名前もあります。例えば鵜(ウ)、鷗(カモメ)、鵯(ヒヨ)、スズメなど。「動物」も馬、牛、象(ゾウ)…ほかひでさん、宮本バエ、校長バエなど、人名や肩書まで被せたものまで、「漁業」だと、綱掛け、網張り、舟かくし、などなど、思いつくだけでもさまざまです。
こうして磯の名前をジャンル別に分類しますと、磯の名前調べも、なかなか面白い展開になりそうです。子ども達にも興味を持ってもらえそうな気がします。
ところで、今回は、「猿」の名前のついた磯をご紹介したいと思います。
地理的には少し遠いですが、愛媛県南宇和郡の由良半島の先端付近は潮通しがよく、南端の「由良のハナ」から「大猿」「小猿」「沖釣」、「地釣」にかけては大型グレ、大型イシダイのA級磯として五〇年以上も前から四国路の釣り人はもちろん、関西の釣り人に知られる超有名磯なのです。
大猿は標高81m、小猿は標高64mと、磯というよりれっきとした島の風格で、だぼ鯊ははじめて航空写真を見た時、島の姿がなんとなく猿の姿、仕草に似ているという印象を持っていました。大きい方は四つん這いで覗き込んでいるような仕草です。小さい方は小猿で母猿に甘えているようなのでこんなイラストを描いてみたのです。
身近な動物の名のついた磯が愛媛のこの地に有った、と思うだけでうれしく、猿の姿に似た大きいほうを「大猿」小さいのを「小猿」と呼んだ、と単純に、額面通り受け取ったものの、だぼ鯊ならではの「なぜ?」という疑問符が欠けているのに気づき、早速愛南町柏崎の「みなとや渡船」の若船長に尋ねてみたところ、大船長や古老に聞いてもイマイチ明確にわからず、役場の「内海村史」で、こんなのを見つけました、と目からウロコの「民話」をコピーして送ってくださいました。
民話は《むかしむかしの話ですらい》と地元の言葉でかたられ、由良の岬で遊んでいた小猿が海に落ち、潮流の激しいこのあたりの海を知っていた親猿が半狂乱になり、大騒ぎになるが如何ともしがたくついには親猿も流されてしまった。やがて、親猿の化身は海を覗きこむような姿の島になり、小猿の化身も、天真らんまんに空を見上げるような形の島になった、というのです。
民話は、涙なくして読めない悲しいお話に出来上がっていますが、たとえ動物とは言え、子を思う親の心はそれほどに崇高だ、という、戒めが込められているようにだぼ鯊は感じました。
みなとや渡船の若船長松本賢一さんにはこの場を借りて御礼申し上げます。(イラストも・からくさ文庫主宰)
いつもながらの楽しい
八木禧昌さんのお話です、次回を楽しみに。