血液が。
噴水のように、溢れ出る。
首から離れた頭部は、ゆっくりと地面に落ちて酷く醜い音を立てた。
僕は愛刀に染み付いた汚れを丁寧に拭き取ると、鼻歌交じりにその場を離れた。
殺し屋のお仕事はここまで。
後は、掃除屋のお仕事だ。
「終わったよ」
近所のカフェでコーヒーを飲みながら、僕は携帯で報告を入れる。
『お疲れ様』
上司は淡々と答える。
上司といっても、相手の年齢はおろか容姿も知らない。
声から察するに多分女性。
だが、少しハスキー気味な少年と言われたら信じる。
基本的なやり取りは、電話とメールだ。あと、毎月の給料の振り込み。
「・・・で、今日僕が殺した相手だけど」
名前は葛宮車輪、27歳。
男性。
会社員。
僕が知るのはその程度だ。
「何者なの?」
『答える必要はない』
「何で殺す必要があったの?」
『依頼だからだ』
「だから、その依頼主は何であの男を殺して欲しかったのかって話」
動機も、関係性も、知らない。
僕は何も知らない。
いつもそうだ。ただ、あいつを殺せと言われてハイハイと殺すだけ。
そんなの、機械にだってできる。
僕の不満を知ってか知らずか、
『知る必要はない』
上司は変わらず、冷静にそう答えた。
あまりのクールさに、腹も立たない。
もしかしたら、この上司も何も知らないのかもしれない。
雇われの管理者で、依頼の情報をただ下へ――つまり僕へと流すただのパイプ。
殺したい、殺して欲しい。
そんな依頼者の願いは、欲望は。
幾人かの仲介を経て、磨耗して劣化して。
最終的にはただの記号になっている。
そういうことなのかもしれない。
僕は、そんな劣化した情報で。
モザイクのような情報で。
ただ、人を殺す機械になる。
それがどうにも居心地が悪かった。
せめて依頼の背景でも分かればなあ。
そうしたら、僕は自分の仕事に誇りを持てるかもしれないのに。
殺し屋として、胸を張っていきていけるのかもしれないのに。
僕は今日も、諦めて通話を切り携帯をポケットにしまう。
ああ、もういっそ転職でもしようかな。
殺ししかできない僕に、他の仕事ができるとは思えないけれど。
そんなことを思って、だけどすぐに自分で否定して。
カップに残った、冷めたコーヒーを飲み干した。
噴水のように、溢れ出る。
首から離れた頭部は、ゆっくりと地面に落ちて酷く醜い音を立てた。
僕は愛刀に染み付いた汚れを丁寧に拭き取ると、鼻歌交じりにその場を離れた。
殺し屋のお仕事はここまで。
後は、掃除屋のお仕事だ。
「終わったよ」
近所のカフェでコーヒーを飲みながら、僕は携帯で報告を入れる。
『お疲れ様』
上司は淡々と答える。
上司といっても、相手の年齢はおろか容姿も知らない。
声から察するに多分女性。
だが、少しハスキー気味な少年と言われたら信じる。
基本的なやり取りは、電話とメールだ。あと、毎月の給料の振り込み。
「・・・で、今日僕が殺した相手だけど」
名前は葛宮車輪、27歳。
男性。
会社員。
僕が知るのはその程度だ。
「何者なの?」
『答える必要はない』
「何で殺す必要があったの?」
『依頼だからだ』
「だから、その依頼主は何であの男を殺して欲しかったのかって話」
動機も、関係性も、知らない。
僕は何も知らない。
いつもそうだ。ただ、あいつを殺せと言われてハイハイと殺すだけ。
そんなの、機械にだってできる。
僕の不満を知ってか知らずか、
『知る必要はない』
上司は変わらず、冷静にそう答えた。
あまりのクールさに、腹も立たない。
もしかしたら、この上司も何も知らないのかもしれない。
雇われの管理者で、依頼の情報をただ下へ――つまり僕へと流すただのパイプ。
殺したい、殺して欲しい。
そんな依頼者の願いは、欲望は。
幾人かの仲介を経て、磨耗して劣化して。
最終的にはただの記号になっている。
そういうことなのかもしれない。
僕は、そんな劣化した情報で。
モザイクのような情報で。
ただ、人を殺す機械になる。
それがどうにも居心地が悪かった。
せめて依頼の背景でも分かればなあ。
そうしたら、僕は自分の仕事に誇りを持てるかもしれないのに。
殺し屋として、胸を張っていきていけるのかもしれないのに。
僕は今日も、諦めて通話を切り携帯をポケットにしまう。
ああ、もういっそ転職でもしようかな。
殺ししかできない僕に、他の仕事ができるとは思えないけれど。
そんなことを思って、だけどすぐに自分で否定して。
カップに残った、冷めたコーヒーを飲み干した。