※本作は、楽曲「ピノキオピー/ラヴィット」の二次創作です。
あーしのあだ名は「ウサギちゃん」。
可愛くない? 可愛いよね。
「可愛い」は最強だと思ってる。
だからあーしは最強。
みんなも「ウサギちゃん可愛いね」って言ってくれる。
仲のいい男の子も、女の子も。
だからあーしはみんなと仲良し。
みんなとデートするし、みんなとエッチする。
大好きだから発情するのは当たり前。
色んなヒトがいて、色んな「大好き」がある。
あーしにないものを持ってればみんな大好き。
顔が良いから大好き。
有名だから大好き。
みんな好きだから大好き。
スタイル良いから大好き。
才能あるから大好き。
お金持ってるから大好き。
性格が大好き。
よく知らないけど大好き。
みんなのすべてが大好き。
ほんとに大好き。
それってそんなにダメなこと?
・・・うん、ちょっと、怖いトキもあるよ。
でも、それもキモチイイかなって思う。
あんまりさ、考えなくてもいいんじゃない?
アブナイことって、キモチイイじゃん。
痛くしてくれるともっとイイ。
ぶっちゃけ、無茶苦茶にして欲しい。
そんなふうに思うよ。
「ウサギちゃん、ちょっといいかしら」
その日は、珍しく予定のない日だった。
「あー、いいんちょさん」
クラス委員長に話しかけられ、何かなと振り向く。
メガネにおさげの女の子。
そんな印象しかなかった。
確か頭も良くって、学年1位を争う成績だったはず。
同じくらいの成績の男の子が言ってた。
いいんちょさんには勝てないよ、って。
そんな人が向こうから話しかけてきてくれたのは、素直に嬉しかった。
放課後の教室。
もしかして告白かな?
ちょっと期待した。
あーしは自分からガンガンいく方だけど、告白されることもある。
もしそうだったらいいな。
頭の良い人は大好きだから。
いいんちょさんは、特に雰囲気作りをすることもなく、事務的に言う。
「貴方、パパ活してるでしょ」
「え」
「・・・お金を貰って、男の人と付き合ってるでしょ」
「いや、パパ活の意味くらいは知ってる・・・」
びっくりした。
いいんちょさんの口からそんなセリフが出てくるとは思わなかった。
怒られるのかな?
でも、特に怒ってるような口ぶりじゃないなあ。
「そんなことしてないよ」
あーしは正直に言った。
お金目的でどうこう、といったことはしたことがない。
あーしが付き合うのは、あーしが大好きになった人だけ。
「言い訳しなくていいわ」
いいんちょさんは、プリント提出を促すトキみたいにそう言う。
「裏は取れてるから」
「いや、そんな、知らないってば」
何か疑われてる?
心外だな、と思う。
「私のパパ――父親じゃない方のパパのひとりから聞いたのよ」
更に似合わないことを言い出すいいんちょさん。
私のパパ?
「ウサギちゃんと会って、1回1万円でセックスしてるって」
「何のこと・・・?」
言いながら、ふと思い当たる。
1万円。
エッチした後にお小遣いをくれるヒトが、たまにいる。
その額が、大体1万円くらい。
多いときで3万円。
お金持ちだなあって、嬉しくなって貰ってる。
「困るのよ」
いいんちょさんはクールな顔つきで続ける。
「相場は1回5万円。女子高生の値段なんだから当然よね?」
あーしは、ちょっとずつ、いいんちょさんの言ってることが分かってきた。
もしかして、あーしがお金のために売春してると思ってる?
「あーし、そんなつもりじゃないよ!」
「貴方がどんなつもりでも」
こちらの言い分は聞かないとばかりに跳ね除けられる。
「1回1万円なんて額でやられたら、相場が下がる」
相場・・・?
「私達は、キッチリと相場を決めて、それ以下では受けないことにしているの」
つまり。
いいんちょさんは、グループで、組織的に売春をしている・・・?
あのお堅そうないいんちょさんが?
「ち、違う! あーしは売春なんかしてなくて・・・」
「『パパ活』って言ってくれるかしら。そこら辺、センシティブなのよね」
「言葉なんてどうでもいいじゃない!」
とにかく、違うって説明しないと。
「あーし達は、大好きだからエッチしてるだけ」
「恋人だとでも言うの?」
「そうだよ」
「その割に、何人もの人達と関係を持っているようだけど?」
「それは、みんな大好きだから!」
「くだらない」
いいんちょさんは、そこで初めて笑った。
「男達にとって、私達は公衆便所でしかない」
「そんな・・・!」
強くて、猥雑な言葉に戦慄する。
「やりたくなったら連絡して、お手軽に性欲を処理する。それだけよ」
だから、公衆便所。
「いいんちょさんは、そんなことしてるの?」
「ええ、お金のためにね。Win-Winの良いシステムでしょ?」
だから、といいんちょさんは言う。
「私達が作ったシステムの邪魔をしないで」
最後に見せた顔は、明らかにあーしを嫌っていた。
そんな、嫌悪感や軽蔑や侮蔑の目で見られたのは初めてだった。
・・・いや。
初めて、それを意識したんだ。
可愛い可愛いウサギちゃん。
誰からもそう言われてきた。
自分でも、そんな自分が大好きだった。
だけど、今までも――いいんちょさんみたいな目で見てくるヒトはいたのかも。
あーしが、バカで、お気楽で、気付かなかっただけで。
「彼氏」のひとりに電話をかけてみる。
たまにお小遣いをくれるヒトのひとり。
「どうしたの、ウサギちゃん」
「ねえ、あーしのこと、『愛してる』?」
「・・・あれ、ウサギちゃん。そんな面倒くさいこと言う子だったっけ?」
あーしは無言で電話を切る。
大好きだけど、愛してない。
多分それは、お互いに。
あーしは・・・私は。
誰も愛してないし、誰からも愛されてないんだ。
私にどんな価値がある?
愛し愛されるだけの理由がある?
何もない。
私には、きっと、何もない。
可愛いだけの私には。
途端に、今までの宝物まで、酷く価値のないものに思えてきた。
私の人生に、価値はない。
――そのまま、夜になる。
私は暗い学校の屋上へと登っていく。
今日は綺麗な満月だった。
月にはウサギがいるという。
だけど、私にはそんなものは見つけられなかった。
ウサギのいない満月。
それは、多分、多くの大好きな人たちがいる世界。
いいんちょさん達が、必死に回している世界。
全部、他人事にしか見えないな。
私のいていい場所じゃない。
そう、ウサギのいない満月は、私抜きでこそ完結する世界。
いいんちょさんは、私が邪魔だと言った。
確かにそうだ、ごもっとも。
私は、この世界にいない方が良い。
本当にやるべきことを見つけたような気がして――
ありもしない羽を広げたウサギが、夜の空に落ちていく。
あーしのあだ名は「ウサギちゃん」。
可愛くない? 可愛いよね。
「可愛い」は最強だと思ってる。
だからあーしは最強。
みんなも「ウサギちゃん可愛いね」って言ってくれる。
仲のいい男の子も、女の子も。
だからあーしはみんなと仲良し。
みんなとデートするし、みんなとエッチする。
大好きだから発情するのは当たり前。
色んなヒトがいて、色んな「大好き」がある。
あーしにないものを持ってればみんな大好き。
顔が良いから大好き。
有名だから大好き。
みんな好きだから大好き。
スタイル良いから大好き。
才能あるから大好き。
お金持ってるから大好き。
性格が大好き。
よく知らないけど大好き。
みんなのすべてが大好き。
ほんとに大好き。
それってそんなにダメなこと?
・・・うん、ちょっと、怖いトキもあるよ。
でも、それもキモチイイかなって思う。
あんまりさ、考えなくてもいいんじゃない?
アブナイことって、キモチイイじゃん。
痛くしてくれるともっとイイ。
ぶっちゃけ、無茶苦茶にして欲しい。
そんなふうに思うよ。
「ウサギちゃん、ちょっといいかしら」
その日は、珍しく予定のない日だった。
「あー、いいんちょさん」
クラス委員長に話しかけられ、何かなと振り向く。
メガネにおさげの女の子。
そんな印象しかなかった。
確か頭も良くって、学年1位を争う成績だったはず。
同じくらいの成績の男の子が言ってた。
いいんちょさんには勝てないよ、って。
そんな人が向こうから話しかけてきてくれたのは、素直に嬉しかった。
放課後の教室。
もしかして告白かな?
ちょっと期待した。
あーしは自分からガンガンいく方だけど、告白されることもある。
もしそうだったらいいな。
頭の良い人は大好きだから。
いいんちょさんは、特に雰囲気作りをすることもなく、事務的に言う。
「貴方、パパ活してるでしょ」
「え」
「・・・お金を貰って、男の人と付き合ってるでしょ」
「いや、パパ活の意味くらいは知ってる・・・」
びっくりした。
いいんちょさんの口からそんなセリフが出てくるとは思わなかった。
怒られるのかな?
でも、特に怒ってるような口ぶりじゃないなあ。
「そんなことしてないよ」
あーしは正直に言った。
お金目的でどうこう、といったことはしたことがない。
あーしが付き合うのは、あーしが大好きになった人だけ。
「言い訳しなくていいわ」
いいんちょさんは、プリント提出を促すトキみたいにそう言う。
「裏は取れてるから」
「いや、そんな、知らないってば」
何か疑われてる?
心外だな、と思う。
「私のパパ――父親じゃない方のパパのひとりから聞いたのよ」
更に似合わないことを言い出すいいんちょさん。
私のパパ?
「ウサギちゃんと会って、1回1万円でセックスしてるって」
「何のこと・・・?」
言いながら、ふと思い当たる。
1万円。
エッチした後にお小遣いをくれるヒトが、たまにいる。
その額が、大体1万円くらい。
多いときで3万円。
お金持ちだなあって、嬉しくなって貰ってる。
「困るのよ」
いいんちょさんはクールな顔つきで続ける。
「相場は1回5万円。女子高生の値段なんだから当然よね?」
あーしは、ちょっとずつ、いいんちょさんの言ってることが分かってきた。
もしかして、あーしがお金のために売春してると思ってる?
「あーし、そんなつもりじゃないよ!」
「貴方がどんなつもりでも」
こちらの言い分は聞かないとばかりに跳ね除けられる。
「1回1万円なんて額でやられたら、相場が下がる」
相場・・・?
「私達は、キッチリと相場を決めて、それ以下では受けないことにしているの」
つまり。
いいんちょさんは、グループで、組織的に売春をしている・・・?
あのお堅そうないいんちょさんが?
「ち、違う! あーしは売春なんかしてなくて・・・」
「『パパ活』って言ってくれるかしら。そこら辺、センシティブなのよね」
「言葉なんてどうでもいいじゃない!」
とにかく、違うって説明しないと。
「あーし達は、大好きだからエッチしてるだけ」
「恋人だとでも言うの?」
「そうだよ」
「その割に、何人もの人達と関係を持っているようだけど?」
「それは、みんな大好きだから!」
「くだらない」
いいんちょさんは、そこで初めて笑った。
「男達にとって、私達は公衆便所でしかない」
「そんな・・・!」
強くて、猥雑な言葉に戦慄する。
「やりたくなったら連絡して、お手軽に性欲を処理する。それだけよ」
だから、公衆便所。
「いいんちょさんは、そんなことしてるの?」
「ええ、お金のためにね。Win-Winの良いシステムでしょ?」
だから、といいんちょさんは言う。
「私達が作ったシステムの邪魔をしないで」
最後に見せた顔は、明らかにあーしを嫌っていた。
そんな、嫌悪感や軽蔑や侮蔑の目で見られたのは初めてだった。
・・・いや。
初めて、それを意識したんだ。
可愛い可愛いウサギちゃん。
誰からもそう言われてきた。
自分でも、そんな自分が大好きだった。
だけど、今までも――いいんちょさんみたいな目で見てくるヒトはいたのかも。
あーしが、バカで、お気楽で、気付かなかっただけで。
「彼氏」のひとりに電話をかけてみる。
たまにお小遣いをくれるヒトのひとり。
「どうしたの、ウサギちゃん」
「ねえ、あーしのこと、『愛してる』?」
「・・・あれ、ウサギちゃん。そんな面倒くさいこと言う子だったっけ?」
あーしは無言で電話を切る。
大好きだけど、愛してない。
多分それは、お互いに。
あーしは・・・私は。
誰も愛してないし、誰からも愛されてないんだ。
私にどんな価値がある?
愛し愛されるだけの理由がある?
何もない。
私には、きっと、何もない。
可愛いだけの私には。
途端に、今までの宝物まで、酷く価値のないものに思えてきた。
私の人生に、価値はない。
――そのまま、夜になる。
私は暗い学校の屋上へと登っていく。
今日は綺麗な満月だった。
月にはウサギがいるという。
だけど、私にはそんなものは見つけられなかった。
ウサギのいない満月。
それは、多分、多くの大好きな人たちがいる世界。
いいんちょさん達が、必死に回している世界。
全部、他人事にしか見えないな。
私のいていい場所じゃない。
そう、ウサギのいない満月は、私抜きでこそ完結する世界。
いいんちょさんは、私が邪魔だと言った。
確かにそうだ、ごもっとも。
私は、この世界にいない方が良い。
本当にやるべきことを見つけたような気がして――
ありもしない羽を広げたウサギが、夜の空に落ちていく。