大宮盆栽美術館
なにしろ、観光資源に乏しいさいたま市に公立では日本で初めて、いや世界で初めてという新しい施設が出来たというのだから、好奇心の塊としては出かけねばなるまい。
”生きた芸術品“盆栽を展示する「大宮盆栽美術館」である。観覧料の安値に魅せられて、10年3月28日の開館日、またママチャリに乗って出かけた。
大宮の盆栽村(通称)には何度も見物に出かけているので、勝手は分かっている。盆栽町(地名)の中ではなく、通り越してすぐの土呂町(北区)に出来ていた。
盆栽村に電車で行く場合は、東武野田線の大宮公園駅から歩くのが普通。ところが、美術館はJR宇都宮線土呂駅の方が近く、徒歩5分。大宮公園駅なら10分だ。
08年2月に閉館した栃木県下野市の高木盆栽美術館から5億円で購入した高級盆栽を中心に盆栽約120点をはじめ、盆器(鉢)、水石(鑑賞石)など660点を所蔵。屋内と屋外に、盆栽は季節に合わせて約50鉢を展示、盆栽を描いた江戸時代の歌川豊国らの浮世絵、歴史資料も見られる。
日本一とも言われる五葉松の「日暮し」(評価額約1億4千万円)も室内で見られる。めったに公開されないが、これが目玉である。一日中見ていても飽きないというので「日暮し」の銘がつけられている。
佐藤栄作、岸信介両元首相が所有し、日本盆栽協会による「貴重盆栽」認定第1号となった花梨(かりん)、大隈重信愛蔵の黒松もある。
盆栽の種類や見方が素人にも分かるように、壁に写真やイラスト入りで説明してある。館に行く通りには「日本の伝統芸術」と英語で書いたノボリがかかっているのに、「厳密に言えば盆栽が芸術として謳われるようになったのは昭和初期」という正直な記述もあって面白い。
ところで、この美術館は開館までにさまざまな話題を提供してきた。ケチの付き始めは、この盆栽を預けた地元の業者のもとで3鉢(購入時評価額計5700万円)が枯死したこと。
開館が迫ると、年間5万人が入場しても収入は約1000万円、運営費が1億2000万円ほどなので約1億円の赤字になることが大きく報道された。
開館当日には、館長に委嘱されていた大熊敏之氏(51)が突然、辞意を表明、清水勇人市長が面談してやっと撤回する騒ぎもあった。大熊館長はさいたま市在住、工芸デザイン史が専門で、富山大准教授、盆栽を美術的な観点から論ずる数少ない研究者という。
来館者は15年6月、開館以来5年3か月で30万人を突破した。16年月10月には来場40万人となった。17年度は4月に世界盆栽大会が開かれたため、前年度より27%多い9万6001人が来館、外国人は82か国・地域から前年度比37%増の6225人に上った。