家長日記 「手習ひといふ琵琶を持たりし、尋ねよ」と仰せ侍りしかば、大原へ消息して侍りしかば、使につけて參らすとて、撥に書きつけたりし歌、 かくしつつ峰の嵐のおとのみやつひにわが身を離れざるべき 払ふべき苔の袖にも露しあれば積もれる塵も今もさながら これを御覽じて、「返事せよ」と仰せられしかば、 これを見る袖にも深き露しあれば払はぬ塵はなほもさながら 山深く入りにし人をかこちても半ばの月を形見とは見ん