新古今和歌集の部屋

絵入横本源氏物語 賢木 白馬節会 蔵書

  藤
  おほかたのうきにつけてはいと

へどもいつか此よをそむきはつへき。

かつにごりつゝなど、かたへに御つかひの
           源心
心しらひなるべし。哀のみつきせねば、

むねくるしうてまかで給ぬ。とのにても

わが御かたにひとりうちふし給て、御めも

あはず世中いとはしうおぼさるゝにも、
                  藤
春宮"御ことのみぞ心ぐるしき。母

宮をだにおほやけがたにとおぼし

をおきてしを、よのうさにたへずかく

なり給ひにたれば、もとの御位にても

えおはせし。我さへみ奉りすてゝはなど、

おぼしあかすことかぎりなし。今は

かゝるかたざまの御でうど共"をこそ

はとおほせば、としのうちにもいそがせ

給。命婦"の君も御ともになりにければ、

                 地
それも心ふかうとふらひ給。くはしう

いひつゞけんにこと/\しきさまなれば、

もらしてげるなめり。さるはかうやう

のおりこそ、おかしきうたなどいで
                   源ノ
くるやうもあれ、そう/"\しや。参り

給もいまはつゝましさうすらぎて、

御身づから聞え給おりも有けり。思

しめてしことは、さらに御心にはな

れねど、ましてあるまじきこと
      源廿四才
なりかし。年もかはりぬれば、うち

わたり花やかに、ないえん、たうかなど
       藤心
きゝ給にも、物のみ哀にて、御をこ

なひしめやかにし給つゝ、のちの世

のことをのみ覚すにたのもしく、む

つかしかりしことはなれておぼさる。

つねの御ねんずだうをばさるものにて、

             三条宮ノ旧
ことにたてられたる、みたうのにしの

南にあたりて、すこしはなれたるに

わたらせ給て、とりわきたるをこな
        源
ひをさせ給。大"将まいり給へり。あ

らたまるしるしもなく、宮の内の

どかに人めまれにて、宮づかさ共"

のしたしきばかり、うちうなたれて、

みなしにやあらん、くしいたげにお
       中宮へひく也
もへり。あをむまばかりぞ、猶ひき

かへぬものにて、女房"などのみける。

所せうまいりつどひ給し上逹"部

なども、みちをよぎつゝひきすぎ
       二条右大臣也
て、むかひのおほいとのにつどひ給を
藤心
かゝるべきことなれと、哀におぼさるゝ
  源
に、千人にもかへつべき御さまにて、

ふかうたづね参り給へるをみるにあひ

 


  おほかたの憂きにつけては厭へども

  いつかこの世を背き果つべき

「かつ濁りつつ」など、かたへに御使ひの心しらひなるべし。哀

れのみ尽きせねば、胸苦しうて、まかで給ひぬ。

殿にても、わが御方に独り打ち伏し給ひて、御目もあはず、世の

中、厭はしうおぼさるるにも、春宮御事のみぞ心苦しき。母宮を

だに、公方にと、おぼし置きてしを、世の憂さに堪えず、かくな

り給ひにたれば、元の御位にても、えおはせし。我さへ見奉り捨

ててはなど、おぼし明かす事限りなし。今は、かかる方樣の御調

度共をこそはと、おほせば、年の内にも急がせ給ふ。命婦の君も、

御供になりにければ、それも心深うとぶらひ給ふ。詳しう云ひ続

けんに、ことことしき樣なれば、漏らしてげるなめり。さるは、

かうやうの折こそ、おかしき歌など、出で来るやうもあれ、騒々

しや。参り給ふも、今は慎まましさ薄らぎて、御自ら聞こえ給ふ

折りも有りけり。思ひしめてし事は、更に御心に離れねど、まし

て、あるまじきことなりかし。

年も替はりぬれば、内わたり、花やかに、内宴、踏歌など聞き給

ふにも、物のみ哀れにて、御行ひ、しめやかにし給ひつつ、後の

世の事をのみ覚すに頼しく、むつかしかりし事離れておぼさる

常の御念誦堂をば、さるものにて、ことに建てられたる、御堂の

西の南にあたりて、少し離れたるに、わたらせ給ひて、とりわき

たる行ひをさせ給ふ。大将、参り給へり。改まるしるしもなく、

宮の内、のどかに人目稀れにて、宮司共の親しきばかり、うちう

なたれて、見なしにやあらん、屈しいたげに思へり。白馬ばかり

ぞ、猶、引き変へぬ物にて、女房などの見ける。所狭(せ)う参

り集ひ給ひし上逹部なども、道をよぎつつ、ひき過ぎて、向ひの

大殿のに集ひ給ふを、かかるべき事なれど、哀れにおぼさるるに、

千人にも変へつべき、御樣にて、深かう尋ね参り給へるを見るに

あひ

 

 

宇治市宇治橋

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