しようくはうせいしゆんの
上皇西巡
なんけいにうた
南京歌
李白
たれかいふくんのう
誰道君王
かうろかたしとりく
行路難六
りやうにしにみゆきしとはん
龍西幸萬
じんよろこふちてんじて
人歡地轉
きんこうをなしい
錦江成渭
すいとてんめくらしてきよ
水天廻玉
るいをなすちやうあんと
塁作長安
そのに
其二
けんかくのてうくはん
釼閣重關
しよくのほくもんしよう
蜀北門上
くはうのきばことく
皇帰馬若
くものたむろすしやうてい
雲屯少帝
ちやうあんにひらきし
長安開紫
きよくをならへかけてしつ
極雙懸日
けつをてらすけんこんを
月照乾坤
上皇西のかた南京巡りたもう歌 其一
李白
誰道(い)ふ、君王行路難しと。
六龍、西に幸(みゆき)して万人歓ぶ。
地は転じて、錦江、渭水と成り、
天は廻りて、玉塁を長安と作(な)す。
意訳
誰が言うのであろうか?我が陛下が行く道が険しいと。
六頭の名馬が牽く御車が、西に御幸して万民が歓んで迎える。
地は転じて、蜀の錦江の流れは長安の渭水と成り、
天は廻って、成都の山は長安となる。
※上皇 玄宗。玄宗が長安から成都に避難する際、皇太子の李亨(粛宗)は、討伐軍を指揮し朔方節度使の駐屯所である霊武で、玄宗の同意を得ないまま皇位継承を宣言し、玄宗はこれも事後承諾して譲位した。
※西巡南京 756年六月、安禄山の乱で、玄宗は四川の成都に逃れた。南京は成都の事で、長安の南西に有るので、南京とした。避難したのだが、成都巡察の呈を採っている。
※其一 十首作詩し、この詩は第四首。
※難 長安からの道は、難所の蜀の桟道だが、それを否定。
※六龍 皇帝が乗る六頭建ての馬車の事で、馬を龍に見立てている。
※錦江 成都を流れる川。
※渭水 長安を流れる川。
※玉壘 成都の北西の山。
※長安 西安。唐の首都。
上皇西のかた南京巡りたもう歌 其二
李白
剣閣の重関は蜀の北門、
上皇の帰馬、雲の如く屯(たむろ)す。
少帝長安に紫極を開き、
日月を双(なら)ベ懸け乾坤を照す。
意訳
剣閣の山中の幾つもの関所は、蜀の北門で、
上皇陛下が帰京する御車を護衛する軍馬は雲のごとく屯している。
若い帝は、長安で天子の位に登られた。
そうして太陽と月が二つ並んで空に懸かった様に、天子の威光が天地を照らしている。
※剣閣 四川の北の山。蜀桟道の難所。
※其二 十首作詩し、この詩は第十首。
※帰馬 安禄山の乱が治まり、玄宗は長安に帰る途中。
※少帝 幼い皇帝の意味で、粛宗の事。粛宗は44歳なので、実際は幼いとはならないが、玄宗より若いと言う意味。
※紫極 皇帝の位。
※乾坤 天地、陰陽。戌亥(いぬい 北西)の方角と申未(ひつじさる 南西)の方角。
桂花陳酒 麗白
唐詩選畫本 七言絶句 巻一