松にふく風なれば花もみぢふくごとくにその
色は見へねども秋のくるとは聲にしられた
るとなり。
摂政殿
○深草の露のよすがをちぎりにて里をばかれず秋は
きにけり
今ぞしるくるしきものと人またん里をばかれず問べかり
けり
此哥の一句をとりてよめるなり。よすがはたより
なり。ふか草なれば露をたよりにかれず秋の
来るとよめり。
※この歌は、聞書に無く、新古今注(京都大学図書館蔵)を書写したもの。
校異(新古今注と)
里をばかれず問べかりけり→里をばかれず
一句をとりてよめるなり→一句とれり
ふか草なれば露をたよりにかれず秋の来るとよめり。→
露のたよりを契にしてと也。里をばかれずとは、里にはいつも
秋のきぬといふ心也。ことに、深草の露を賞したる体也。
※今ぞしるくるしきものと人またん里をばかれず問べかりけり
古今集雑歌下
紀のとしさたか阿波のすけにまかりける時に、
むまのはなむけせむとてけふといひおくれり
ける時に、ここかしこにまかりありきて夜ふ
くるまて見えさりけれはつかはしける
業平
今ぞ知る苦しき物と人またむ里をばかれず訪ふべかりけり
伊勢物語四十八段 業平集 公任三十六人撰