雪のうへにたなびきしが、春に成たれば山と
かすみて雪はかくれ、かすみたるうへに、一村けぶり
がたなびきたる心といえへり。春のいろの霞と
いふ、いろといふ、いろと云字を味へば、まじる心も有べし。
冬のゆきのいろをかへたるこゝろあり。
一 崇徳院に百首哥たてまつりける時
藤原清輔朝臣 左亰太夫顕輔
男。前太皇太后宮大進。正四位下 十首入。
一 朝霞ふかくみゆるや煙立むろの八しまのわたり成らん
増抄云。上二句に不審して、下三句にてことわり
たる躰也。外の所よりかすみふかくみゆるが、霞と
いふものに、深き淺きはあるべらず。よくおもへば
むろの八嶋のけぶりのたつ所なるべしと。すいし
たる也。わたりとはあたりなり。渡にあらず。室
八嶋は、下野にあるひろき野也。そこに
水ありて、八所にしまあり。その水より煙が
たつとなり。朝霞を浅字にとりなし
深くみゆるやとよみたるあんり。かやうのところ
哥のいのち成となり心をつくべし。
頭注
としよりの
のむろのやし
まのことこひと
よめるはかまど
の事なり。名所
にはあらずとぞ。
※としよりののむろのやしまのことこひ
散木奇歌集(源俊頼) 巻第四 冬歌
さらひする室の八嶋のことこひに身のなり果てむ程を知るかな