一 百首歌たてまつりし時 摂政太政大臣
一 常盤なる山の岩ねにむす苔のそめぬみどりに
春雨ぞ降
増抄云。ときはの山と云名所をよめるなるべし。
春になれば春雨ふりて、山がみどりに成を
染るといふなり。苔といふものは、冬もあほくして、
雨をまたずして、みどりに成ものなるなれば、
そめぬみどりとよめり。ときはとは、常住不
變の義なるゆへに、ときわの山の苔なる故
に、そめぬみどりと取あわせてよめり。そめぬ
みどり、此哥にかぎるべきにや。
頭注
むすとは生る事
なり。
※常盤の山 山城の名所。京都市右京区常盤の歌枕。「五代集歌枕」「八雲御抄」にあげられる(「能因歌枕」は常陸とする)。