新古今和歌集の部屋

美濃の家づと 三の巻 羇旅歌6

  

 

 

 

 

入道前ノ関白ノ家ノ百首ノ歌に旅のこゝろを

                俊成卿

難波人あし火たく屋に宿かりてすゞろに袖のしほたるゝ哉

めでたし。  あし火たくやに、すゝといふことをよ

むは、万葉十一に√なには人あし火たく屋のすしたれど

云々、とあるによれり。すしたるは、煤びたることなり。

こゝの歌は、その煤を、すゞろにといひかけたり。

ふるき抄に、すゝは芦の縁語也といへるは心得ず。

述懐百首ノ哥に旅

世中はうきふししげししの原や旅にしあれば妹夢にみゆ

こは旅のうきに、又妹が夢に見えて、さま/"\うきふし

のしげきといふ意なるべけれど四の句のやう、其意に

かなひがたくや。されど右の意にあらでは、二の句のしげ

しといふこと聞えず。

天王寺にまゐり侍ける時にはかに雨のふりけれ

ば江口に宿をかりけるをかし侍らざりければ

よみ侍りける         西行

世中をいとふまでこそかたからめかりのやどりををしむ君哉

めでたし。  四の句は、旅の宿に、此世をかりの

やどりといふをかねたり。

かへし             遊女妙

世をいとふ人としきけばかりの宿に心とむなと思ふばかりぞ

めでたし。  宿かしまゐらせざるは、たゞしか/"\と

思ふのみにこそあれ。をしむには侍らずと也。

和哥所にてをのこども旅の哥つかうまつり

けるに              定家朝臣

袖にふけさぞな旅ねの夢もみじ思ふかたよりかよふ浦風

めでたし。  さぞなとは、夢もえ見ざらんことを、かねて

おしはかりていふなり。さて夢の、見えんにこそ、風をも

いとふけれ。とても夢は見ゆまじければ、思ふかたより

吹來る風なれば、我袖にふけとなり。  浦といへる、縁な

きがごとし。山にても野にても同じ事なれば也。但し

須广ノ巻に√戀わびてなくねにまがふ浦なみは思ふかた

より風やふくらむ。とあるにより玉へるなるべし。

 

 

※なには人あしひたく屋の~2651
万葉集巻第十一 寄物陳思
             よみ人知らず
難波人葦火燎屋之酢<四>手雖有己妻許増常目頬次吉
難波人葦火焚く屋の煤してあれどおのが妻こそ常めづらしき

※ふるき抄に、すゝは~ 不詳。ただし九代集抄には、「あしは、すゝの類なり」とある。

※須广ノ巻に√戀わびて~源氏物語須磨帖
               源氏
戀詫びて泣く音に紛ふ浦波は思ふ方より風や吹くらむ

大阪 江口付近淀川と江口の君堂

神戸市須磨

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