新古今和歌集の部屋

美濃の家づと 四の巻 恋歌三2

 

 

 

 

 

 

 

二條院の御時暁かへりなむとする戀といふことを

                  其院讃岐

明けぬれどまだきぬ/"\になりやらで人の袖をもぬらしつるかな

題しらず             西行

面影の忘らるまじきわかれかななごりを人の月にとゞめて

人のといへる詞、いかにぞや聞ゆ。袖のとあらば、難なく、心も深か

るべし。其故は、袖の月といへば涙にうつれる月なるが、そ

の月をとゞめてといへば、いつまでも涙のかわかぬ意もこもれば也。

後朝戀              摂政

又もこむ秋をたのむの鳫だにも鳴てぞかへる春のあけぼの

めでたし。 だにもといへるにて、戀の哥になる也。

たのむは、頼むに田面をかねたり。 一首の意は、春の曙

に、又來む秋を頼みて別るゝ、田面の鳫すら、かなしとて

鳴て帰るものを、まして又いつ逢むといふ頼みなき此

わかれはとなり。 さて此御歌は、すなはち春の曙に

別るゝをりしも、歸る鳫の聲をきゝてよみたる意に見ば

下句のさまいよ/\感情深かるべし。

題しらず            藤原知家

これも又長きわかれになりやせむ暮をまつべき命ならねば

これもは、此今朝の別も也。 又とは、此別がやがて又ながき

別にもなりやせむといふ意なり。

                  西行

有明はおもひ出あれやよこ雲のたゞよはれつるしのゝめの空

四の句は、横雲の縁に、たゞよはれといへるにて、意はやす

らはれつる意なるべし。 此歌三の句より下は、はやく有

し事にて、初句は、それを今有明の空に思ひ出たる意なるべし。

                  定家

あぢきなくつらき嵐の聲もうしなど夕暮にまちならひけん

初句は、三の句の次へうつして心得べし。 一首の意は、まづ

人の來ぬ夕暮には、嵐の音まで、つらくうきにつけて、我は

何とてあぢきなくかやうに人をまちならひつることぞとなり。

  つらき嵐といひて、又うしとは、わづらはしきいひざま也。

  すべてあぢきなくといふは、俗言に、いらざること、無益の

ことといふ意也。此哥にては、とてもきもせぬ人をまつは、いらざ

るむやくのことゝいへる也。 下句を古き抄に、いかなる人の

夕にはまちならひけむといへるは、ひがごとなり。

戀御哥とて            太上天皇

たのめずは人をまつちの山なりとねなまし物をいざよひの月

三の句と°は、ともの意也。 結句は、やすらひてねぬことを

山の縁に、いざよひの月とよませ給へるなり。

 

 

※古き抄に 不明。
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