絵入自讚歌註 宗祇
具親朝臣
なにはがたかすまぬなみもかすみけり
うつるもくもるおぼろ月夜に
おぼろなる月にゑひしてしろたへのなみさへ
かすむよしなり。
ときしもあれたのむの鳫の別さへ
花ちるころのみよしのゝさと
時しもあれにこゝろをよくつけてみ侍るべし。
こゝろはあらはなり。
しきたへのまくらのうへを過ぬなり
つゆをたづぬる秋のはつかぜ
心あらはなり。たゞまくらのつゆ大かたの露に
さきだちてをくよしなり。
今は又ちらでもまがふしぐれかな
ひとりふり行にはのまつかぜ
ちらでもまがふとは木葉の時雨ならねどふり行
庭の松風は時雨にまがふよし也。尤其かん有にや。
はれくもるかげをみやこにだきだてゝ
しぐるとつくる山のはの月
見るやうのていなり。心はあきらかなり。
とをざかる雲井の鳫のなごりさへ
かすめばつらきなには江の月
なには江の月のかたぶきてゆかん。月もかすみ
もたゞならぬに雲ゐのかりのなごりさへとをざ
もたゞならぬに雲ゐのかりのなごりさへとをざ
からんおりふしいはんかたなく哉。
ながめよと思はてしもやかへるらん
月まつうらのあまのつりぶね
これは海邊眺望のこゝろなり。月待なみの夕
ぐれふかきころしもおきよりこきかへるふねの
あはれそへたるを我にながめよとては帰らしを
作りあはせたるやうなるさまをいひのべ侍る也。
ある註につり舟や月にさほさすあま人をたの
みてもこぬたびのねざめに定家卿の哥なり。
かくのごときの哥其類あり。尋べし。