軒をあらそひし人のすまゐ日を經
つゝ荒行家はこぼたれて淀川にうか
び地は目前に畠となる。人の心皆あへ
たまりて、たゞ馬鞍をのみをもくす牛車
を用とする人なし。西南海の所領をね
がひ東北国の荘園をば好まず其時をの
づから事のたより有て摂津国今の京
に至れり所の有さまを見るに其地程せ
ばくて條里をわるにたらず北は山にそひ
てたかく南は海に近くて下れり波の音
つねにかまびすしくて〔塩〕風ことにはげしく
軒を争ひし人の住まゐ、日を経つつ荒れ行く。
家はこぼたれて淀川に浮かび、地は目の
前に畠となる。人の心皆あへたまりて、
ただ馬鞍をのみ重くす。牛車を用とする
人なし。西南海の所領を願ひ東北国の荘
園をば好まず。其時自づから事のたよ
り有て、摂津国、今の京に至れり。所の
有様を見るに、其地程せばくて条里をわ
るに足らず。北は山に沿ひて高く、南は
海に近くて下れり。波の音、常にかまび
すしくて塩風ことに激しく
(参考)前田家本
軒を争ひし人の住まひ、日を経つゝ荒れゆく。
家は毀たれて淀川に浮かび、地は目の
前に畠となる。人の心皆改まりて、
ただ皆馬鞍をのみ重くす。牛車を用する
者無し。西南海の領所を願ひて、東北國の荘
薗を好まず。その時、自ずから頼
りありて、津の國の今の京に至る。所の
有樣を見るに、その地、ほど狭くて条里を割
るに足らず。北は山に添ひて高く、南は
海に近くて下れり。波の音、常に喧
し、潮風、殊に激し。
(参考)大福光寺本
ノキヲアラソヒシ人ノスマヒ日ヲヘツゝアレユク
家ハコホタレテ淀河ニウカヒ地ハメノ
マヘニ畠トナル人ノ心ミナアラタマリテ
タゝ馬クラヲノミヲモクスウシクルマヲヨウスル
人ナシ西南海ノ領所ヲネカヒテ東北ノ荘
薗ヲコノマスソノ時ヲノツカラ事ノタヨ
リアリテツノクニノ今ノ京ニイタレリ所ノ
アリサマヲミルニ***********
*****************南ハ
海チカクテクタレリナミノヲトツネニカマヒス
シクシホ風コトニハケシ
るべし。樋口は五條の下の
小路なり。
とかくうつりゆくほどにと
なりかくなり。あなたこ
なたうつりゆくこと也。世の
中は風に木の葉のとり
かへしとなりかくなりく。
映して うつりかゞやく心也。
うつし心ならんや 其中の
人はこの世の心はせまじき
と長明がをしはかりたく也。
からくして 辛労してなり。
からきめなどいへる同じ心也。
七珍万寶 かぎりもなき
たからのことなるべし。
灰燼 燼は左伝註火之
神戸市平野祇園神社と神戸の夜景