猿みの
晋其角序
誹諧の集つくる事古今にわたりて
此道のおもて起べき時なれや。幻術
の第一としてその句に魂の入ざれば
ゆめにゆめみるに似たるべし。久し
く世にとゞまり長く人にうつりて
不変の變をしらしむ。五徳はいふに
及ばず心をこらすべきたしなみ
なり。彼西行上人の骨にて人を作り
たてゝ声はわれたる笛をふくやうに
なん侍ると申されける。人には成て侍れ
ども五の聲のわかれざるは反魂の法
のおろそかに侍るにや。さればたまし
ひの入たらばアイウエオよくひゞきて
いかならん吟声も出ぬべし。只誹諧
に魂の入たらむにこそとて我翁行
脚のころ伊賀越しける山中にて
猿に小蓑を着せて誹諧の神を入
たまひければたちまち断腸のおも
ひと叫びけむあだに懼るべき幻術
なり。これを元として此集をつくり
たて猿みのとは名付申されける。是
が序もその心をとり魂と合せて
去来凡兆のほしげなるにまかせて
書。