我駒 あがこま 拍子十二 二段各六
いであがこま、はやくいきこせ、まつちやま、あはれ。
まつちやま、まつらむひとを、いきてはや、あはれ。いきてはやみむ
いで我が駒、早くいきこせ、真土山。あはれ。
真土山、待つらむ人を、行きて早。あはれ。行きて早見む。
※真土山 奈良県五條市と和歌山県橋本市の間にある山
沢田川 さはだがは 拍子十三 三段 一段九 二段四
さはだがは、そでつくばかりや、あさけれど、はれ。
あさけれど、くにのみやびとや、たかははしわたす。
あはれ。そこよしや、たかはしわたす。
沢田川、袖付くばかりや、浅けれど、はれ。
浅けれど、恭仁の宮人や、高橋渡す。
あはれ、そこよしや。高橋渡す。
※沢田川 木津川らしい。
※恭仁 天平十二年聖武天皇が遷都した宮。
高砂 たかさご 長生楽破 拍子三十二
七段 一段五、二段四、三段五、四段四、五段六、六段五、七段四
たかさごの、さいささごの、たかさごの。
おのへにたてる、しらたまたまつばき、たまやなぎ。
それもがと、さむ、ましもがと、ましもがと
ねりをさみをの、みそかけにせむ、たまやなぎ。
なにしかも、さ、なにしかも、なにしかも
こころもまたいけむ、ゆりばなの、さ、ゆりばなの。
けささいたる、はつはなに、あはましものを、さ。
ゆりばなの。
高砂の、さいささごの、高砂の、
尾上に立てる、白玉玉椿、玉柳。
それもがと、さむ、汝もがと、汝がもと、
練緒染緒の、御衣架けにせむ、玉柳。
何しかも、さ、何しかも、何しかも。
心もまたいけむ、百合花の、さ、百合花の
今朝咲いたる、初花に、逢はまし物を、さ、
百合花の。
夏引 なつひき 拍子二十二 二段 一段九、二段十三
なつひきの、しらいと、ななはかりあり、さごろもに、おりてもきせむ、ましめはなれよ。
かたくなに、ものいふをみなかな、な、ましあさぎぬも、わがめのごとく、たもとよく、きよくかあたよく、こくびやすらに、ましきせめかも。
夏引の、白糸、七量あり、さ衣に、織りても着せむ、汝妻離れよ。
頑なに、物言ふ女かな、な、汝麻衣も、我が妻の如く、袂よく、着よく肩よく、小領安らに、汝着せめかも。
貫河 拍子二十七 三段各九
ぬきかはの、せぜのやはらてまくら、やはらかに、ねぬるよはなく、おやさくるつま。
おやさくる、つまは、ましてるはし、しかさば、やはぎのいちに、くつかひにかむ。
くつかはば、せんがいのほそしきをかへ、さしはきて、うはもとりきて、みやぢかよはむ。
貫河の、瀬々の、柔らかに、寝ぬる夜はなくて、親放くる夫。
親放くる、妻は、ましてるはし、しかさらば、矢矧の市に、沓買ひにかむ。
沓買はば、線鞋の細底を買へ、さし履ききて、上裳とり着て、宮路通はむ。
東屋 拍子十八
あづまやの、まやのあまりの、そのあまそそぎ、われたちぬれぬ、とのどひらかせ。
かすがひも、とざしもあらばこそ、そのとのど、われささめ、おしひらいてきませ、われやひとづま。
東屋の、真屋のあまりの、その雨そそぎ、我立ち濡れぬ、殿戸開かせ。
鎹も、錠もあらばこそ、その殿戸、我鎖さめおし開いて来ませ、我や人妻。
走井 拍子八
はしりゐの、こかやかりおさめ、かけ、それにこそ、まゆつくらせて、いとひきなさめ
走井の、小萱刈り収め、かけ、それにこそ、繭つくらせて、糸引きなさめ
飛鳥井 拍子九
あすかゐに、やどりはすべし、や、おけ、かげもよし、みもひもさむし、みまくさもよし。
飛鳥井に、宿りはすべし、や、おけ、陰もよし、御水も寒し、御秣もよし。
青柳 長生楽序 拍子十二 二段各六
あをやぎを、かたいとによりて、や、おけや、うぐひすの、おけや
うぐひすの、ぬふといふかさは、おけや、むめのはながさや
青柳を、片糸に縒りて、や、おけや、鶯の、おけや
鶯の、縫ふといふ笠は、おけや、梅の花笠や
伊勢海 拾翠楽 拍子八
いせのうみの、きよきなぎさに、しほがひに、なのりそや、
つまむ、かいやひろはむや、たまやひろはむや
伊勢の海の、きよき渚に、潮間に、なのりそや
摘まむ、貝や拾はむや、玉や拾はむや
催馬楽 伊勢海 Saibara Isenoumi
催馬楽(さいばら)とは、平安時代に隆盛した古代歌謡。元来存在した各地の民謡・風俗歌に外来楽器の伴奏を加えた形式の歌謡である。管絃の楽器と笏拍子で伴奏しながら歌われた「歌いもの」の一つであり、多くの場合遊宴や祝宴、娯楽の際に歌われた。語源については馬子唄や唐楽からきたとする説などもあるが定かではない。