八雲抄巻第二作法部
一 哥書様
御製書様
一首時は、三行三字吉程也。及五六首は
詠其題和歌 二行、三首已上は三行。
春日秋夜など書事は、詩には有例。哥には普通には
不書給。但又詩書も非難。寛治月宴白河院令書給様
八月十五夜◯池上月和哥云々。於其所と書も両説也。又院
御時も柿下一老など令書給。是は可随時歟。二首三首已
上は詠何首和哥、又始には題を書、両様也。是不限公
所作法惣万人如此。又内々御会作名尋常事也。高倉
御時右衛門佐經仲、院御時左馬頭親定、建暦比左少将親
通など也。殊に其道達人の名を書事也。近作者中
也。如此事不及先例可随時儀歟。天子上皇不書同の字
大臣已下書様
禁中 仙洞
大納言以下などは或應大上皇製。万葉應詔。近代不用自之。
應製 應製也。中殿会以前者密儀也。仍不書之。
院号 后宮 應会 小一条院匡衡和哥序應令卜書
東宮 應令 但匡房和哥序應と書。可為両説歟。
内親王 應令 斎院 義忠 應令と書
摂関應教
大臣已下惣可然家同之。清輔説、数字は家礼人書は
云々。必不然只未座輩書ゐる也。可然家会には殿上人時も
書也。 已上様如此。但后宮以下会、納言已上などは
必應令と不書之也。
大治五年無御製應製臣上字如何。人々相議、為御前事
御製有無兼不知とて皆書應製臣上字。於殿上蜜々
御覧時は、不書之。 早春 暮春 終日 冬夜木事
可随時。八月十五夜、九月九日なども書。陪中殿、陪清涼殿、
陪弘徽殿、陪宴、樣々也。凡時節多書之也。序者加一首字、
或不知(両説)。作者は一首字不加。匡房記、序者之外不加之。位
署者、加應製臣上字之日皆書之。土御門右大臣云、菅
丞相碧玉装箏時被書二行。兼帯多人或書二行。但
近日不見。前官は書位。四位已下は加散位字。而堀河院御
時京極前関白散位従一位と書、非普通事。書唐名内々
事頗宿徳事歟。公継公前右大臣之時、上柱国と書(正二位東
名云々)時人不甘心。公宴には不可然、但被公などは有何事
哉。内々私所などには不可有其憚。私所にも同官同姓
不書之。大将家には権中将某など也。同省同之。同姓は
藤原人許ならば不書姓。他姓は可書之。又源平已下人
具平々々
家同之。親王も有臣字 如此。 雖禁中内々事又中殿
以前には唯詠其題、詠何首和哥など書て権大納言
藤原某、左衛門督源某也。或書兼官、或書本官。多は本官
也。又参議左近中将なども書。普通には参議某也。或略姓
如法。當座などに納言已上などは可従時。上字は通光
卿常書。但應製臣上は一を不書といへり。兼行も不書
之。蔵人頭、蔵人なども不書。国司は前加賀守など書。他官
は不然。又朝臣不可然事也。大臣は不書姓。左大臣某、内
大臣某也。関白は雖中殿、不書陪宴、陪中殿等字。只秌
夜詠云々也。序者外書同字両説歟。保安花見行幸太政
大臣雅実不書同字。或説臨時宴には陪宴とは不
書。是不用例也。諸社抜披講哥には書官位兼行朝臣也。
不可書臣上。無披講哥進奥に書官姓名是一説也。哥
合屏風障子等哥也。大嘗会作者は不可然歟。
暮春陪中殿同詠竹不改色應。製和哥一首 并序
従一位左大臣源朝臣俊房上
中殿御会序書樣如此。後三月侍中殿翫新成桜
花 師房
春日侍中殿同詠花契多春 經信
春日侍中殿同詠花契千年 匡房
初冬侍中殿詠松樹久緑 師頼
秋夜侍中殿同詠池上月久明 道家
皆中殿と書、皆同字有。和哥一首(并序也)。非序者人は多は
秋夜陪宴詠池月久明、應製和哥也。
又陪中殿陪清涼殿。家々両説也。陪宴は多普通説也。
初冬扈従行幸遊覧大井河應製々々 師房上
春日侍太上皇城南水閣同詠池上花應製々々 宗忠上
八月十五夜侍太上皇鳥羽院同詠翫池上月應製々々
經信上
已上序者如此。只作者略同字。大略同之。又或同字書之。假
令以此等為例。公家仙洞已下臨幸所を書。常事歟。
如然事可依時儀。院中多陪太上皇仙洞、又侍鳥羽院也。
匡房、松影浮水時、應太上皇製と書、一列也。
初冬於大井河翫紅葉和哥
國成、義忠は遊覧大井河 實綱は遊従大井河
實政、有綱は遊流大井河
於禁中同詠池上落葉和哥 實綱
於陣座翫桜花和哥 康保例
夏夜於秘書閣守庚申同詠雨中早苗々々 時綱
春日陪博陸書閣々々
秋夜侍左相府尊閣々々 尊閣書閣水閣皆常事也
晩秋於高陽院直廬同詠池上落葉々々 通俊
餞奥州橘使判々々
春日遊朱雀院々々
秋日於長樂寺 秋夜於遍照寺言志
秋夜守庚申々々 八月十五夜於戸部大卿水閣々々
秋日侍 住吉社壇同詠々々
正二位行権中納言兼左衛門督藤原朝臣某
歳暮侍、北野聖廟々々
神社、仏寺、勝地、名所等於其所と書之也。唯一切貴賎普
通詠何首和哥。又始は書題て詠其題和哥とて、其後
毎哥書題、普通事也。清輔朝臣曰、一首哥は三行三字、
墨黒に可書。但或三行も吉程歟。五首已下は一枚。及十
首は可續。皆用高壇紙。若有障不参者、加一紙可封。其
上は或封、或片名也。如哥合之。乍去無披講、或奥に可書
名於奥。然而只一身大嘗會哥、又近代被召御書哥など
樣事は不可加名。 僧は唯一官也。法印、和尚位など
は不可書。凡僧は唯名斗。又沙弥は或は可書。女哥薄
樣若壇紙一重、五首已上は、面の方へ引返て可書也。
俊頼朝臣、法性寺入道会、卯花のみのしらがともみゆ
るかなしづがかきねもとしよりにけり。詠て不書名。
時人感之云々。凡詠名事、有先規。憶良、万葉也。多題を
遅参之時、詠一首。公任卿会、範永天橋立詠以後、高倉
一宮會にも有例。顕輔も詠之。
和哥注不可然事歟。但、源起日本紀寛治宴哥。近、
崇徳院御時、顕輔卿書注。又上皇御哥有注と被付。
近日人々勧進哥、稱花族之由、或作者など不書。尤不知
子細事也。於哥道者更無其儀。況諸社会などには雖
乞食之勧進、可書名。
仰置白紙には、題目、位階、官職、名皆書て哥許を不書、
行平卿
置て逐電也。寛平宮瀧御覧目、在原友于 子 又源
善有此事。友于は白紙作法如注。善有は書上句許云々。
昔侍臣講哥、于時泰憲自然参。泰憲被勧之、書之退下。
披見書題并位暑、奥に於哥者追て進と書り。時人尤
感。不堪人は不可然。近日憗連卅一字還懐恥。尤見苦事也。
近代不書位暑題。唯退下。多有恐事也。不詠は須用白紙
作法。中山内府は家中興遊酒宴などの次には毎度古
哥の上句をかきてといひし人もおもひいでらると毎
度に書。尤優にやさしき事也。誠可足。中々見苦新
哥、左道事歟。たとへば、君が代はつきじとおもふ神
風やといひし人も思ひいでらるゝ也。其哥は随時景気
也。不詠人は中々さは/\と不詠也。花見御幸通季
卿題にこひのうたを書、又八十嶋實教も令書、家隆
書。是非恥、優事也。
※読めない部分は、国文研鵜飼文庫(62コマ以降)を参照した。
※卯花の 散木奇歌集 源俊頼。無名抄 同人名字讀事
※君が代は 後拾遺集巻第七 賀歌 源経信
君が代は尽きじとぞおもふ神風や御裳濯河のすまむかぎりは