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飛ぶ鳥の飛鳥の里をおきていなば君が辺は見えずかもあらむ
897 聖武天皇御歌
いもにこひわかの松原見わたせば汐干のかたにたづ鳴き渡る
898 山上憶良
いざこどもはや日の本へ大伴の御津の浜松待ち恋ひぬらめ
899 柿本人麿
あまざかる鄙のなが路を漕ぎくれば明石のとよりやまと島見ゆ
900 柿本人麿
ささの葉はみ山もそよに乱るなりわれは妹思ふ別れ来ぬれば
901 大納言旅人
ここにありて筑紫やいづこ白雲の棚びく山の西にあるらし
902 よみ人知らず
朝霧に濡れにし衣ほさずしてひとりや君が山路越ゆらむ
903 在原業平朝臣
信濃なる浅間の嶽に立つけぶりをちこち人の見やはとがめぬ
904 在原業平朝臣
駿河なる宇都の山辺のうつつにも夢にも人に逢はぬなりけり
905 紀貫之 ○
くさまくらゆふ風寒くなりにけり衣うつなる宿やからまし
906 紀貫之 ○
白雲のたなびき渡るあしびきの山のかけはし今日や越えまし
907 壬生忠岑
東路のさやの中山さやかにも見えぬ雲居に世をやつくさむ
908 女御徽子女王 ○
人をなほ恨みつべしや都鳥ありやとだにも問ふを聞かねば
909 菅原輔昭
まだ知らぬ故郷人は今日までに来むとたのめしわれを待つらむ
910 よみ人知らず
しなが鳥猪名野を行けば有馬山ゆふ霧立ちぬ宿はなくして
911 よみ人知らず
神風の伊勢の浜荻をりふせてたび寝やすらむあらき浜辺に
912 橘良利
故郷のたびねの夢に見えつるは恨みやすらむまたと訪はねば
913 藤原輔尹朝臣 ○
立ちながら今宵は明けぬ薗原や伏屋といふもかひなかりけり
914 御形宣旨 ○
都にて越路の空をながめつつ雲居といひしほどに来にけり
915 法橋奝然 ○
旅衣たちゆく浪路とほければいさしら雲のほども知られず
916 藤原実方朝臣
船ながらこよひばかりは旅寝せむ敷津の浪に夢はさむとも
917 大僧正行尊 ○
わが如くわれを尋ねばあまを舟人もなぎさのあとと答へよ
918 紫式部
かき雲り夕立つなみの荒ければ浮きたる舟ぞしづごころなき
919 肥後 ○
さ夜ふけて葦のすゑ越す浦風にあはれうちそふ波の音かな
920 大納言経信 ○
旅寝してあかつきがたの鹿のねに稲葉おしなみ秋風ぞ吹く
921 恵慶法師 ○
わぎも子が旅寝の衣薄きほどよきて吹かなむ夜半の山かぜ
922 左近中将隆綱
葦の葉を刈り葺くしづの山里にころもかたしき旅寝をぞする
923 赤染衛門 ○
ありし世の旅は旅ともあらざりきひとり露けき草まくらかな
924 権中納言国信
山路にてそぼちにけりな白露のあかつきおきの木木の雫に
925 大納言師頼
草まくら旅寝の人はこころせよありあけの月も傾きにけり
926 源師賢朝臣 ○
磯馴れぬこころぞ堪へぬ旅寝する葦のまろ屋にかかる白浪
927 大納言経信
旅寝する葦のまろ屋の寒ければつま木こり積む舟急ぐなり
928 大納言経信 ○
み山路に今朝や出でつる旅人の笠しろたへに雪つもりつつ
929 修理大夫顕季
松が根に尾花刈りしき夜もすがらかたしく袖に雪は降りつつ
930 橘為仲朝臣 ○
見し人も十布の浦風おとせぬにつれなく澄める秋の夜の月
931 大江嘉言
草枕ほどぞ経にけるみやこ出でて幾夜か旅の月に寝ぬらむ
932 皇太后宮大夫俊成
夏刈の葦のかりねもあはれなり玉江の月のあけがたの空
933 皇太后宮大夫俊成
立ちかへりまたも来て見む松島やをじまの苫屋波にあらすな
934 藤原定家朝臣 ○
こととへよ思ひおきつの浜千鳥なくなく出でしあとの月影
935 藤原家隆朝臣 ○
野辺の露うらわの浪をかこちてもゆくへも知らぬ袖の月影
936 摂政太政大臣
もろともに出でし空こそ忘られぬ都の山のありあけの月
937 西行法師
都にて月をあはれと思ひしは数にもあらぬすさびなりけり
938 西行法師
月見ばと契りおきてしふるさとの人もや今宵袖ぬらすらむ
939 藤原家隆朝臣
明けばまた越ゆべき山のみねなれや空行く月のすゑの白雲
940 藤原雅経 ○
故郷の今日のおもかげさそひ来と月にぞ契る小夜のなか山
941 摂政太政大臣
忘れじと契りて出でし面影は見ゆらむものをふるさとの月
942 前大僧正慈円 ○
東路の夜半のながめを語らなむみやこの山にかかる月かげ
943 越前
いく夜かは月をあはれとながめきて波におりしく伊勢の浜荻
944 宜秋門院丹後 ○
知らざりし八十瀬の波を分け過ぎてかたしくものは伊勢の浜荻
945 前中納言匡房
風寒み伊勢の浜荻分け行けばころもかりがね浪に鳴くなり
946 権中納言定頼 ○
磯馴れてこころも解けぬこもまくら荒くなかけそ水の白浪
947 式子内親王 ○
行末は今いく夜とかいはしろの岡のかや根にまくら結ばむ
948 式子内親王
松が根のをじまが磯のさ夜枕いたくな濡れそあまの袖かは
949 皇太后宮大夫俊成女 ○
かくてしも明かせばいく夜過ぎぬらむ山路の苔の露の筵に
950 権僧正永縁 ○
白雲のかかる旅寝もならはぬに深き山路に日は暮れにけり
951 大納言経信
夕日さす浅茅が原の旅人はあはれいづくに宿をかるらむ
952 藤原定家朝臣
いづくにか今宵は宿をかりごろもひもゆふぐれの嶺の嵐に
953 藤原定家朝臣
旅人の袖吹きかへす秋かぜに夕日さびしき山のかけはし
954 藤原家隆朝臣
故郷に聞きしあらしの声も似ずわすれぬ人をさやのなか山
955 藤原雅経 ○
白雲のいくへの峰を越えぬらむ馴れぬあらしに袖をまかせて
956 源家長 ○
今日は又知らぬ野原に行き暮れぬいづれの山か月は出づらむ
957 皇太后宮大夫俊成女 ○
ふるさとも秋は夕べをかたみとて風のみおくる小野の篠原
958 藤原雅経 ○
いたづらに立つや浅間の夕けぶり里とひかぬるをちこちの山
959 宜秋門院丹後 ○
都をば天つ空とも聞かざりき何ながむらむ雲のはたてを
960 藤原秀能 ○
草まくらゆふべの空を人とはばなきても告げよ初かりの声
961 藤原有家朝臣 ○
ふしわびぬ篠のを笹のかり枕はかなの露やひとよばかりに
962 藤原有家朝臣
岩がねの床にあらしをかたしきて独や寝なむさよの中山
963 藤原業清朝臣 ○
誰となき宿のゆふべを契にてかはるあるじを幾夜とふらむ
964 鴨長明
枕とていづれの草に契るらむ行くをかぎりの野べの夕暮
965 民部卿成範
道のべの草の青葉に駒とめてなほ故郷をかへりみるかな
966 禪性法師 ○
初瀬山夕越え暮れてやどとへば三輪の桧原に秋かぜぞ吹く
967 藤原秀能 ○
さらぬだに秋の旅寝はかなしきに松に吹くなりとこの山風
968 藤原定家朝臣 ○
忘れなむ待つとな告げそなかなかにいなばの山の峰の秋風
969 藤原家隆朝臣 ○
契らねど一夜は過ぎぬ清見がた波にわかるるあかつきの空
970 藤原家隆朝臣 ○
故郷にたのめし人もすゑの松待つらむそでになみやこすらむ
971 入道前関白太政大臣 ○
日を経つつみやこしのぶの浦さびて波より外の音づれもなし
972 藤原顕仲朝臣 ○
さすらふるわが身にしあれば象潟や蜑の苫屋にあまたたび寝ぬ
973 皇太后宮大夫俊成 ○
難波人葦火たく屋にやどかりてすずろに袖のしほたるるかな
974 権僧正雅縁 ○
また越えむ人もとまらばあはれ知れわが折りしける峰の椎柴
975 前右大将頼朝 ○
道すがら富士の煙もわかざりき晴るる間もなき空のけしきに
976 皇太后宮大夫俊成 ○
世の中はうきふししげし篠原や旅にしあればいも夢に見ゆ
977 宜秋門院丹後
おぼつかな都にすまぬ都鳥こととふ人にいかがこたへし
978 西行法師
世の中を厭ふまでこそ難からめかりのやどりを惜しむ君かな
979 遊女妙
世の中を厭ふ人とし聞けばかりの宿に心とむなと思ふばかりぞ
980 藤原定家朝臣
袖に吹けさぞな旅寝の夢も見じ思ふかたより通ふうら風
981 藤原家隆朝臣
旅寝する夢路はゆるせ宇都の山関とは聞かずもる人もなし
982 藤原定家朝臣 ○
みやこにも今や衣をうつの山ゆふ霜はらふ蔦の下みち
983 鴨長明 ○
袖にしも月かかれとは契り置かず涙は知るやうつの山ごえ
984 前大僧正慈円
立田山秋行く人の袖を見よ木木のこずゑはしぐれざりけり
985 前大僧正慈円 ○
さとりゆくまことの道に入りぬれば恋しかるべき故郷もなし
986 素覚法師 ○
故郷へ帰らむことはあすか川わたらぬさきに淵瀬たがふな
987 西行法師
年たけてまた越ゆべしと思ひきやいのちなりけりさ夜のなか山
988 西行法師 ○
思ひ置く人の心にしたはれて露わくる袖のかへりぬるかな
989 太上天皇
見るままに山風あらくしぐるめり都もいまは夜寒なるらむ
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