きゝなれし山おろしの音も秋になるより
かはわりきこゆるなり。げにも風のすがたは
めに見えねども音にもしられぬるよときこえ
たる哥なり。
本哥
秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚ぬる
同
よるの雨聲ふりのこす松風にあさけの袖は昨日にもにず
家隆
○昨日だに訪と思ひし津の国の生田のもりに秋はきにけり
名所の中にも花のおもしろき所もあり。又もみぢ
の面白きところもあり。或は月或雪など色々
所によりて昔よりもてはやしきたる也。いはん
や秋のはじめは涼しく木々の色ももよふし
色々の虫のこゑをあらそふ折節一しほ生田
の杜はさぞあるらんとおもひやらいたるところ
難及事也。きのふにとはんと思ひしにけふ
ははつ秋になればとひ侍らではと云こゝろ也。
沙弥満誓が哥に 清胤僧都
引
君住まばとはまし物を津の国の生田のもりの秋の初風
はつ風といふ云事此名所の縁なり秋立と云題にて
引
津の国のいくたのもりに宿からん秋風吹て後もとふやと
頓阿もよめり。又家隆卿
同
津の国の生田のもりのほとゝぎすをのれ住ずば秋や問まし
校異
涼しく→いづくも涼しく
きのふに→きのふだに
いくたのもりの→いくたのもりに 加筆訂正
金葉集三奏本 秋歌
大江為基摂津の任果ててのぼりけるのち
初秋の日つかはしける
僧都清胤
詞花集 秋歌
津の国に住み侍りけるころ、大江のため
もと任果ててのぼり侍りにければいひつ
かはしける
僧都清胤
君住まば訪はましものを津の国の生田の杜の秋の初風
後十五番歌合
草庵集 巻第八 恋下 頓阿
津の国の生田の杜の宿にからん秋風吹きて後も訪ふやと
壬生二集 光明峰寺摂政家百首 家隆
津の国の生田の杜の時鳥をのれ住ずば秋や訪はまし