聖人其醤を得ざればくひ給はず。是養生の道也。醤と
はひしほにあらず。其物にくはふべきあはせ物なり。
今こゝにていはゞ塩酒醤油酢生姜わさび胡椒
芥子山椒など各其食物に冝しき加へ物あり。
これをくはふるは其毒を製す也。只其味のそな
はりてよからん事をこのむにあらず。
飲食の欲は朝夕におこる故貧賤なる人もあやまり
多し。況冨貴の人は美味多き故やぶられやすし。
殊に慎むべし。中年以後元氣へりて男女の
色欲はやうやく衰ふれども飲食の欲はやまず。
老人は脾氣よはし故に飲食にやぶられやすし。
老人のにはかに病をうけて死するは多くは食傷也。
つゝしむべし。
諸の食物皆あたらしき生氣ある物をくらふべし。ふる
くして臭あしく色も味もかはりたる物皆氣を
ふさぎてとゞこほりやすし。くらふべからず。
すける物は脾胃のこのむ所なれば補となる。李笠
翁も本性甚すける物は薬にあつべしといへり。
尤此理ありされどもすけるまゝに多食すれば必やぶ
られ好まざる物を少くらふにおとる。好む物を小食
はゞ益あるべし。
【感想】
とある。養生訓は論語を詳しく解説している事が分かる。2千5百年前の孔子の時代も4百年前も今も変わらないと言う事か?醤(あえしお)は、醤(ひしお 醤油)だけじゃなく調味料全体を指す。塩、酒、醤油、酢、生姜、わさび、胡椒、芥子、山椒などの調味料は、食材の味や臭いの欠点をカバーして、味を調えてくれるだけじゃなく、料理の毒消しにもなると言う。確かにわさびは殺菌効果も有しているし、塩、酒、醤油、酢は殺菌効果から、食品の保存加工に用いられる。漬物食は日本人の野菜消費の多くを占めるが、食べ過ぎは塩分過多となりがちである。
飲食の欲は、貴賤老若に拘わらず、止む事が無い。慎むべし。特に中年以降、特に老人は、消化力が落ちているので、飲食で病気に成り易く、食欲を抑えて少食にすべき。老人の突然死は食あたりが多かったようで有る。
食材は新鮮な物を選び、冷蔵庫を過信してはならない。異臭変色があったら絶対に食べない事が大事。
好きな物は、自ずと胃腸に優しい物なので、健康に良いはず。明朝末清朝初期の作家、李漁は随筆閑情偶寄の中で記していると言う。しかし好きだからと言って、好きなだけ食べるのは、嫌いな物を少量食べるより健康に悪い。私は餃子(&ビール)が好きだが、多少胃が凭れる。にんにくは健康に良いのだが、消化に難が有る。世の中には辛い物が大好きな連中がいるが、辛いカレーをテレビで見ていても、とても健康に良いとは思えない。
養生訓巻第三 飲食上