新古今和歌集の部屋

増鏡 第一 おどろのした 慈円長歌

この僧正、世にもいと重く、山の座主にて物し給ふ事も年久しかりしその程に、やんごとなき高名数知らずおはせしかば、あがめられ給ふさまも、二もなく物し給ひしかど、猶あかず思すことやありけん。

院に奉られける長歌

さてもいかに わしのみ山の月のかげ鶴の林に入りしより経にける年を数ふれば二千年にも過ぎはてゝ後の五つの百年になりにけるこそかなしけれ あはれ御法の水のあわの消えゆく頃になりぬればそれに心を澄ましてぞ我が山川に沈み行く 心あらそふ法の師はわれも/\と青柳のいと所せくみだれきて花も紅葉も散り行けば木ずゑ跡なきみ山邊の道にまよひて過ぎながらひとり心をとゞむるもかひもなぎさの志賀の浦跡垂れましゝ日吉のや神のめぐみを頼めども人の願ひをみつかはの流れも淺くなりぬべし 峰の聖のすみかさへ苔の下にぞむもれゆくうちはらふべき人もがな あなうの花の世の中や 春の夢路は心なしくて秋の木ずゑを思ふより冬の雪をもたれかとふ かくてや今はあと絶えんと思ふからにくれはとりあやしき夜のわが思ひ消えぬるばかりを頼みきて猶さりともと花の香にしひて心を筑波山しげき嘆きのねをたづねしづむ昔の魂をとひ救ふ心は深くしてつとめ行くこそあはれなれ 深山のかねをつくづくと我が君が代を思ふにも峰の松風のどかにて千世に千とせをそふるほど法のむしろの花の色 野にも山にもあすか川あすより後や我が立ちし杣のたつきのひゞきよりみねの朝霧晴のきてくもらぬ空にたち帰るべき

 反歌

さりともと思ふ心ぞなほ深き絶えでや絶え行く山川の水 


元久二年四月の作

 

※鷲の御山の月影 霊鷲山

鷲の山隔つる雲や深からむ常に澄むなる月を見ぬかな 康資王母 後拾遺

今日ぞ知る鷲の高嶺に照る月を谷川汲みし人の影とは 藤原師時 金葉

※鶴の林 沙羅双樹

薪尽き雪降りしける鳥野辺は鶴の林の心地こそすれ 法橋忠命 後拾遺

※あな卯の花

世の中をいとふ山への草木とやあなうの花の色にいでにけむ 読み人知らず 古今集

※水の泡の消え行く

水の泡の消えて憂き身といひなから流れて猶も頼まるるかな 紀友則 古今集

※花も紅葉も散り行きて梢の跡

降る雪は消えても暫し留まらなん花ももみちも枝に無きころ 読み人知らず 後撰集

※かひもなぎさ

忍ぶれどかひもなぎさの海人小舟波は掛けても今は恨みじ 読み人知らず 金葉集

※心を筑波山

筑波山端山繁山しげけれど思ひ入るにはさはらざりけり 源重之 新古今

われならむ人に心をつくば山したに通はむ道だにやなき 大中臣能宣朝臣 新古今

※我が立ちし杣の 

阿耨多羅三藐三菩提の佛たちわがたつ杣に冥加あらせたまへ 傳教大師 新古今

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