冬の日
田家眺望
荷兮
霜月や鸛の彳々ならひゐて
冬の朝日のあはれなりけり 芭蕉
樫檜山家の体を木の葉降 重五
ひきずるうしの塩こほれつゝ 杜國
音もな◯具足に月のうす/\と 羽笠
酌とる童蘭切に いて 埜水
秋のころ旅の御連歌いとかりに 芭蕉
漸くはれて冨士みゆる寺 荷兮
寂として椿の花の落る音 杜國
茶に糸遊をうむる風の香 重五
雉追に鳥帽子の女五三 十 野水
庭に木曽作るこひの薄衣 羽笠
なつふかき山橘にさくら見ん 荷兮
麻かりといふ哥の集 あむ 芭蕉
江を近く獨楽菴と世を捨て 重五
我月出よ身はおほろなる 杜國
たひ衣笛に 落花を折拂 羽笠
篭輿ゆるす木瓜の山あい 野水
骨を見て坐に泪くみうちかへり 芭蕉
乞食の蓑をもらふしのゝめ 荷兮
泥のうへに尾を引鯉を捨ひ得て 杜国
御幸に進む水のみくすり 重五
ことにてる年の小角豆の花もろし 野水
萱屋まはらに炭團つく 臼 羽笠
芥子あまの小坊交り折むれて 荷兮
おるゝはすのみたてる蓮の實 芭蕉
しつかさに飯薹のそく月の前 重五
露をくきつね風やかなしき 杜國
釣柿に屋根ふかれたる片庇 羽笠
豆腐つくりて母の喪に 入 野水
元政の草の袂も破ぬへし 芭蕉
伏見木幡の鐘はなをうつ かけゐ
いろふかき男猫ひとつを拾かねて 杜國
春のしらすの雪はきをよふ 重五
水干を秀句の聖わかやかに 野水
山茶花匂ふ笠のこからし うりつ
【初折】
〔表〕
しもつきやかうのつくづくならひゐて 荷兮(発句 霜月:冬)
ふゆのあさひのあはれなりけり 芭蕉(脇 冬)
かしひのきさんかのていをこのはふる 重五(第三 冬)
ひきずるうしのしほこぼれつつ 杜国(四句目 雑)
おともな◯ぐそくにつきのうすうすと 羽笠(五句目 秋月)
しやくとるわつはらんきりにいで 埜水(六句目 秋)
〔裏〕
あきのころたびのごれんがいとかりに 芭蕉(初句 秋)
やうやくはれてふじみゆるてら 荷兮(二句目 雑)
じやくとしてつばきのはなのおつるおと 杜国(三句目 春)
ちやにいというをうむるかぜのか 重五(四句目 春)
きじおひにえぼしのおんなごさんじふ 野水(五句目 春恋)
にはにきそつくるこひのうすぎぬ 羽笠(六句目 夏恋)
なつふかきやまたちばなにさくらみん 荷兮(七句目 夏)
あさかりといふうたのしふあむ 芭蕉(八句目 夏)
えをちかくどくらくあんとよをすてて 重五(九句目 雑)
わがつきいでよみはおぼろなる 杜国(十句目 春)
たひごろもふえにらつかをおりはらふ 羽笠(十一句目 春花)
ろうごしゆるすぼけのやまあい 野水(十二句目 春)
【名残の折】
〔表〕
ほねをみてそぞろになみだぐみうちかへり 芭蕉(初句 雑)
こじきのみのをもらふしののめ 荷兮(二句目 雑)
どろのうへにををひくこいをひろひえて 杜国(三句目 雑)
みゆきにすすむみづのみくすり 重五(四句目 雑)
ことにてるとしのささげのはなもろし 野水(五句目 夏)
かややまばらにたどんつくうす 羽笠(六句目 夏)
けしあまのこばうまじわりおりむれて 荷兮(七句目 雑)
おるるはすのみたてるはすのみ 芭蕉(八句目 秋)
しづかさにめしだいのぞくつきのまえ 重五(九句目 秋)
つゆをくきつねかぜやかなしき 杜国(十句目 秋)
つりがきにやねふかれたるかたびさし 羽笠(十一句目 秋)
とうふつくりてははのもにいる 野水(十二句目 雑)
〔裏〕
げんせいのくさのたもともやれぬべし 芭蕉(初句 雑)
ふしみこはたのかねはなをうつ かけゐ(二句目 春)
いろふかきおねこひとつをすてかねて 杜国(三句目 春)
はるのしらすのゆきはきをよぶ 重五(四句目 春)
すいかんをしうくのひじりわかやかに 野水(五句目 雑)
さんさくわにほふかさのこがらし うりつ(挙句 冬)
※鸛の彳々 コウノトリ。彳々(つくづく)は佇む様子。
※樫檜 新古今和歌集巻第六 冬歌 春日社歌合に落葉といふことをよみ奉りて 祝部成茂
冬の来て山もあらはに木の葉降りのこる松さへ峰にさびしきを踏まえ、松を同じ常緑樹の樫と檜とした。
※糸遊 陽炎や蜘蛛の糸。
※泥のうへに 荘子「曳尾塗中」を踏まえる。
※元政 伏見深草に庵を結んだ僧
※木幡 伏見区桃山から宇治市御蔵山付近。