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銀閣寺
我庵は
月まつ
山の
麓にて
かたぶく
庭の
かげ
をしぞ
思ふ
慈照院義政公
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慈照寺は鹿ケ谷の北にあり一名銀閣寺とも称し禅宗にして夢窓
國師を開祖とす。原此地は足利八代の将軍義政公文明十二年に
政務を譲りて閑居し給ふ別荘なり。故に東山殿と號す(延徳十二年
正月七日に
薨し給ひて慈照院殿喜山公と法名し
遺命によつて此所を寺としたまふ )
東求堂は義政公の持佛堂にして観世音を本尊とす。又慈照院の
像を安置し西のかた上壇にかくる水引は濃紫の印金なり。古渡にし
て世に稀なる奇物とぞ。若松の画は相阿弥の筆叭々鳥は永納の画也。
茶湯の間は四畳半にして東山殿の物数寄なり。茶亭四畳半の濫觴
とぞ。高貴の賓客常に集會ありて茶の道を樂み和漢の奇物を
翫給ふ。これを後世に傳はりて時代物といふ。
二重の高閣あり(北山鹿苑寺の金閣に
准じてこれを銀閣と號す)上を心空殿下を潮音閣といふ。
鎮守八幡宮は護國廟となづく。閣のまへに橋ありて分界橋迎仙橋
濯錦橋臥雲橋といふ巽のかたに飛泉あり。洗月泉と號く。流下の橋
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を龍背橋といふ。仙袖橋仙桂橋は東求堂のまへにあり。落照岡には
躑躅を植られて夕陽を止む。向月臺銀沙灘には白沙、舗いて落
月を惜しむ。細川石。畠山石。山名石は官領職の献にして其英名は後
世に朽ず。浮石坐禅石は池中にありて淡路島山の俤あり。龍蟠
石。蹲虎石。臥牛石。伏虎石。點頭石。布袋石。天柱峯回雁峯香爐
峯は其石の形によりて号る也。北斗石。落星石。壽星石。濯纓石。
謝公塢は故事を以て名とす。其外大内石。爛柯石。釣月臺仙人洲。白
鶴嶋臨湖台臺。仙草壇あり。ひがしの山を月まつやまといふ。抑此庭は
東山殿の好にして茶道相阿弥台命を蒙りて造しなり。庭中の
風光真妙にして山水の法式をもれず四時の壮觀足らずといふ事
なし。末代庭造の軌範とする也。洞庭西湖も掌に握り松嶋象
潟も目前にたくみて壷中に山川を縮め一粒の粟中に日月を
藏したる神仙の術ありとぞ見えにける。
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