百首歌の中に 式子内親王
花はちりその色となくながむればむなしき空に春雨ぞ降る
√くれがたき夏の日くらしながむればそのことゝなく物ぞかな
しき、こゝの二句の句は、此三四の句により玉へる也。初句、花ち
りてといはずして、花はとあるはもじに、あはれなる所あり。
二の句は、花の有りしほどは、花の色をながめしに、今は何の
色をながむとはなしになり、四の句、空は、ながむといふに
よせ有。結句、さびしきさまにて、花を思ふ情深し。
千五百番歌合に 寂蓮
おもひたつ鳥はふるすもたのむらんなれぬる花の跡のゆふぐれ
二の句ももじは、鳥は古巣にかへる頼みもあらんをといふ意也。三
の句の下に、をもじを添て心得べし。下句は、なれたる
花の散にし跡の、夕暮のさびしさは、何をたのみにして、なぐ
さめんかたもなしといふ意を、いひのこしたるなり。
散にけりあはれうらみのたれなれば花の跡とふはるの山風
初句、けりといへる詞かなはず。ちりにしもなどあらば、事もなからん
を、しひていきほひあらせんとてや、かくはいりけん。一首の
意、花をかくちらしたるものは、誰なるぞ。おのれみづからちらし
たるにあらずや。然れば恨みは、おのれにある物を、花の散りたる
を恨みがほに、跡の梢をとふはいかにと、風をとがめたる也。二の句より
下はめでたし。
百首歌奉りし時 摂政
はつせ山うつろふ花に春くれてまがひし雲ぞ峯にのこれる
家隆朝臣
よし野川岸の山吹さきにけりみねのさくらはちりはてぬらむ