新古今和歌集の部屋

歌論 無名抄 頼政歌道にすける事


頼政哥道ニスケル事
俊恵云頼政卿はいみじかりける哥仙也。心のそこま
で哥になりかへりてつねにこれをわすれず心に
かけつゝ鳥の一聲なき風のそゝとふくにも
まして花のちり葉のをち月の出入あめ雪な
どのふるにつけてもたちゐおきふしに風情
をめぐらさずといふことなし。まことに秀哥の

いでくるもことはりとぞおぼし侍し。かゝればしかるべき
とき名あげたる哥ともおほくは疑作にてありけると
かや。おほかたの會の座につらなりて哥うち詠じよ
きあしきことはりなどせられたるけしきもふかく
心にいれる事とみえていみじかりしかばかの人の
ある座にはなにごともはゑあるやうに侍し也。

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