かくやうろうは西北のかたちやうしやは,どうていのみなかみのみつのはてゆへかくやうろうのあるところよりは
まだみなみじや。とうていこのさたの方には江水つゞきなかるゝがかくやうろうより見れはとうていの
こうすいかせりひろしのかたくつらなりつゞきて、やう/\とせんりにうしをがみちてある。このところ
を舟にのりゆかるゝがおりふし青雲のそらをあをいて此地のみやこの方をのそめは、みやこのそらにあたる
しびゑんのほしなとが、とをく見へてどこともしれぬ。とも/\にみやこからとをいところへきている
われもそなたも、とをいところへきている
空洞となにもない西の方からきたの方まてさわりはない員外かいゝふんにして、かくやうから、ちやうしや
までなにもない湖すいつゝきじやから朝舟にのりはんかたゆらるゝといわるゝがかくやうあたりでさい。さびしい
にこれよりひかしの長砂南畔のあたりへ行たらばいよ/\都はとをくなりこゝろほそかろふとなり
かくようろうにして
岳陽樓
かさねてゑんへつす
重宴別
おうはちいん
王八員
くはいがへんせらるにちやう
外貶長
しやに かし
沙 賈至
こうろひんかしにつらなる
江路東連
せんりのうしを
千里潮
せいうんきたにのそめは
靑雲北望
しびはるかなり
紫微遙
なかれいふをはりやう
莫道巴陵
こすいひろしと
湖水濶
ちやうしやなんはん
長沙南畔
さらにせうしやう
更蕭條
岳陽楼にて重ねて王八員外の
長沙に貶(へん)せらるる
を宴別す
賈至
江路、東に連なり千里の潮。
青雲北に望めば紫微遥かなり。
道(い)ふ莫かれ、巴陵、湖水闊(ひろ)しと。
長沙は南畔、更に蕭条たらむ。
意訳
揚子江の川筋は東へ、千里の汐路が続く。
更に、青空の向こうを北に望めば、長安の都は遥かに遠い。
この岳陽の地から見える洞庭湖は、果てしない荒涼とした場所だと言わんでくれ。
君の行く長沙は、更に南の果て、更に侘しい所だろうから。
※岳陽楼 岳陽城の西門に有り、洞庭湖が良く見えた。
※王八員外 不詳。八は排行。員外は、尚書省の員外郎の役職。
※宴別 送別会。「別」字を欠く本も有る。
※紫微 皇居。
※巴陵湖水 岳陽の事で洞庭湖を指す。
※長沙 湖南省長沙市。岳陽から約130km南に有る。
唐詩選畫本 七言絶句 巻四