一 百首哥よみはべりける時、春の哥とてよめる
殷富門院大輔 式部大輔藤原ノ在良ガ孫。
式部大輔がまごなる故、大輔と云也。殷富
門院の官女なり。
一 春風の霞吹とくたえまより亂てなびく青柳の糸
増抄云。霞ふかくとぢて、なにの分もみえぬ
方に、春風がぬいあはせたる物をとくやうに
さつと吹分たる間に青柳が打なびき
てみゆる景氣なり。かすみの衣といふにより
て、吹とくといへり。衣をぬいあわせたるをとく
には、糸があるべきゆへに、とけたるたえまに、
やなぎの糸があるよし也。こまかき也作意也。
かやうの哥かゝるとり合がおもしろきといふには
あらず。これは哥のかざりなり。これにこゝろ
をつけて哥よむ人はあしきとなり。景氣
心をよく案じたるうへにて、詞を如此た
くみにあるべき事とぞ。不可説者也。
頭注
このよりも依て也。
又はいとの縁語也。
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