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My essay,My life
エッセイを書き続けることが、私のライフワーク

シーズ・レイン

2007年09月06日 23時32分18秒 | 映画

神戸を舞台にした青春映画で、『シーズ・レイン』という作品があります。友達以上恋人未満の微妙な関係を続ける少年少女の話です。高校最後の夏休みに、二人の仲は急接近。しかし、その後に待っていたほろ苦い結末・・・


原作は、平中悠一の小説『She's Rain』。映画は1993年の作品で、阪神淡路大震災前の貴重な風景が収められているようです。ポートタワーやホテルオークラをバックにしたメリケンパーク(波止場です)の夕景、三宮(さんのみや)のちょっと小粋な町並みなどオシャレな要素だけでなく、神戸~芦屋(あしや)~西宮(にしのみや)の、地元民もおっと反応するようなスポットも、上手く拾っています。一種独特の文化圏を形成する阪急沿線の雰囲気がとってもよくでていて、それを知ってる方なら「うんうん」と納得の世界。なんでも監督(白羽弥仁)は、芦屋市出身だそうで・・・だから’地元目線’があるのですね。(あ~ただし少年少女のお坊ちゃま&お嬢様ぶりは、かなり大袈裟ですよー!)


個人的には、主人公の二人が電車の乗り換えをする阪急夙川(しゅくがわ)駅や、買い物をする芦屋のいかりスーパーに、とってもノスタルジーを感じます♪ 何故って私、6歳~15歳まで夙川に住んでいたんですよ。沿線に桜並木があって、春の眺めは最高でした。落ち着いた環境でねぇ・・・今も帰省の度に、もう一度あの道をたどってみたいという衝動に駆られます。いかりスーパーは、ハイソな奥様ご用達という印象かしら。当時としては珍しく、輸入食品なども置いていました。近くには小粋なレストランがあり、何かのご褒美にそこでエスカルゴを食べさせてもらうのが、ちょっとした贅沢でした。どんなお嬢様かとお思いでしょうが、実は社宅住まいの庶民でして・・・ホホ。


主人公(小松千春)が通う、女子校の制服。白地のワンピースの胸の所に、学校名のイニシャルが赤い刺繍で入ってるんですが、これは神戸にある私立校の制服(夏服)をモデルにしたもの。めっちゃ可愛いんです。地元の女の子たちのちょっとした憧れヨ。ちなみにこの学校は、南野陽子の母校でもあるのですが、彼女はこんな制服を着ていたんですね~もし映画を見る機会があれば、そんなことも想像してみてください。


さて話はストーリーに戻り、主人公の二人。レイコは、はじけるような笑顔が印象的な明るい女の子。ちょっと背伸びをして、ハンサムな青年歯科医と付き合っています。(ただし妹的な存在)その青年歯科医が他の女性と結婚する事になり、交際を解消。それを機に、以前からなんとな~く意識し合っていたユーイチと急接近するのです。周囲から見たら、お互いに好き合ってるのがバレバレ。だけど当人同士は、友達以上恋人未満の距離を保っていた。(歯がゆい~)そんな彼らが急接近するのと時を同じくして、海外からユーイチの幼なじみが帰国。(清楚なお嬢様なのでございます♪)ちょっとドキドキの展開に・・・


主人公の二人を見ていると、やるせないですね。こんなに想い合っているのに、何でうまくいかないんだろうって。でもそれは、客観的に二人を見ている側だけがわかる事実で、当人にはお互いの気持ちが響いてないんですよね。’君がすきだよ’って気持ちが届いて、お付き合いが始まって・・・幸せなひとときばかりではありません。不穏な空気が流れることもあります。映画では、ある出来事をきっかけに、それまでの信頼関係がガラガラと崩れていく訳ですが、その崩れゆく中で最後の信頼関係を取り戻すチャンスを活かせない。その為に、さらに決定的な亀裂が入ってしまう・・・大事な局面で肝心な言葉を吐けないユーイチと、ユーイチを信頼し切れなかったレイコ。どちらもイタいのでしょう。


レイコはね、ずっと求め続けてるんですよ。「それでも君がすき」っていうユーイチの言葉を。究極のラブソング(ピアノでの弾き語り)を贈られていても、それを拠り所にできない。場面場面で彼の心を確認し、愛の言葉を引き出そうとしている。彼女にとって、愛は永遠ではなかったのかな・・・うつろいゆくもの。だからこそ、大事な局面ではとりわけ確認したい。相手というより、愛そのものに対する信頼の問題なのかもしれません。でもその根底にあるのは、それでも愛を信じたいという気持ち。


関係が破綻してから1年後に再会した時の彼女のセリフが、それを物語っている気がします。「あなたは今思っていることがすべてでしょうけど、私もあなたのことをそんなふうに思ったことがあったけど。 私は、あれからいろんなことがあったし、いろんな人と出会ったのよ。」 以前のままの想いを口にしかけるユーイチに、こうたたみかけます。彼は、そんな事を考えてもみなかったんですね。愛は永遠。ある意味、純粋なのかもしれません。でも、そこにあぐらをかくのは危険かな。相手はそう解釈してないのだから。


どちらが正しいという問題ではないのでしょう。けれど、お互いがその解釈の違いを意識していれば、いろんな局面で相手の行動が理解できたかも・・・と思うのです。


ラストシーンで、彼との初デートの思い出の傘を手にして歩いていく彼女が映し出されます。それが今も変わらぬ彼女の気持ち・・・どうしてユーイチのいいかけた言葉を受けられなかったんでしょうね。わざわざ遮って。きっと、「それでも、君がすき」っていう言葉にこだわったんじゃないのかな。この言葉がユーイチの口から出るのを待っている時の彼女の祈るような表情と、引き出せなかった時の辛い表情が忘れられません。たとえ愚かであろうと、彼女にとっては、それが大切なことだったのね。


お互い、素直に自分の気持ちを伝え合えればいいのでしょうが、ここ一番で素直に受けられなかったり、ここ一番で素直に言えなかったり・・・そんな繰り返しのような気がします。


タイトルの『シーズ・レイン(She's Rain)』。ユーイチの視点ですよね。彼にとって、彼女はどんな女性だったのでしょうか。心に雨を降らせた女性?潤いを与えた女性? 映画でユーイチがレイコに贈る歌には・・・   


     ’君が雨なら、体中ずぶぬれになるほど受け止めよう’ (染谷俊「同じ空を見ていた」より)


受け止められなかったんだよね~ 実は私も、笑っちゃうくらい似たような経験が・・・ そうして、彼の心にたくさんの雨を降らせてしまいました。


      世界中の時計を 止めてしまおう


      どんなに 離れていても すきになってく


      きみのすべてに ぼくは生きてる


                        大江千里「砂の城」 (主題歌です)


本当に大好きな彼でした。彼に向かって駆け続けて、いっぱいになるまで想い続けて。あーまたこの映画見て泣いちゃったよ。何度目だよ~ チクショウ!