2月20日(4名)
小口泰與
ひたひたと渚へ波や春炬燵★★★★
渚の傍の旅の宿であろう。春は名ばかりの寒さに炬燵で寛ぐとひたひたと渚に波が寄せている。春炬燵に過ごす至福の時。(高橋正子)
店頭に煮貝並ぶや甲斐の春★★★
淡雪を弾き飛ばせし高速路★★★
多田有花
海峡を望む山頂梅開く★★★★
目を閉じて露天ジャグジー春夕べ★★★
雨水ゆえ黒豆ご飯を炊きました★★★
廣田洋一
きゅつきゅつと音立てて踏む雪の道★★★
雪乗せて木の芽膨らむ山の道★★★★
山は芽吹きつつも雪が降る日もあって、膨らむ木の芽に雪が積もっている。木の芽を包む雪が柔らかい。(高橋正子)
そりに乗り喚声上げる爺婆ら★★★
桑本栄太郎
木屋町の青空あおく柳の芽★★★★
木屋町の音の響きがいい。京都、高瀬川沿いの通りを思うが、青空が青く、柳の芽の浅緑がことに映える。京都へ旅を誘うような句だ。(高橋正子)
耕さる畝乾き居り風光る★★★
せせらぎの芽柳青む風生忌★★★
2月19日(4名)
小口泰與
ばらの芽のとびとびに出づ青き空★★★★
一弁を鳥の啄ばむ梅の花★★★
淡雪の踏まれては消ゆ畷かな★★★
多田有花
<雄岡山・雌岡山登山三句>
神出し山へと早春を登る★★★★
紀州へと続く山並春きざす★★★
ため池のさざなみのうえ風光る★★★
桑本栄太郎
送電線はるか遠くに春の山★★★
春日さす天井川や土堤の草★★★★
芽柳の少し青むと覚えけり★★★
廣田洋一
冴え返る山の稜線くっきりと★★★
雪山のトンネル抜けてまた雪山★★★
梅のごと氷の花咲く蔵王かな★★★★
梅と氷を結び付けたところがいい。樹氷の蔵王。(高橋正子)
2月18日(4名)
小口泰與
犬ふぐり田川の水の流れ出づ★★★
魚釣は坊主や土産蕗の薹★★★★
春愁や未だ奴雁の我なりし★★★
廣田洋一
国中を沸かせし春の金銀メダル★★★
梅の香にふるさと偲ぶ元使塚★★★
紅白の枝絡み合ふ梅の花★★★
桑本栄太郎
自転車の轍つづくよ春の雪★★★★
春の雪に自転車の轍がつづく。一台自転車の轍ではなく、二三台の轍と見る方が面白い。春の雪のまた違った一面を見せてくれた句。(高橋正子)
春光やバギーに投げ出すくびれ足★★★
土堤草の芽の青みをり京都線★★★
多田有花
風強く吹けど春風今日の風★★★
畦焼の炎に向かい歩きけり★★★
一瞬に畦火大きく立ち上がる★★★★
畦焼の火が、一瞬大きく燃え上がる。一瞬の風をはらんだ火は強烈な驚きだ。このようにして、畦が焼かれ春草が芽生えるのだ。(高橋正子)
2月17日(4名)
廣田洋一
たらの芽やいかにも春を食したり★★★★
春最初に市場に出る山菜が蕗の薹とたらの芽だろうが、たらの芽のみどりの朴訥さを天麩羅などで食べると春そのものを食べている感がするのだ。(高橋正子)
たらの芽の緑に惹かれ買ひにけり★★★
たらの芽や空を掴みて伸び上がる★★★
小口泰與
紅灯の清搔消ゆや朧月★★★
楤の芽や鳶はゆったり輪を描き★★★★
楤の芽が採れる山。青空には鳶がゆったりと輪を描き、まさに春である。(高橋正子)
下萌や土かく犬の後ろ足★★★
多田有花
春浅しボルサリーノの老紳士★★★
車窓には須磨と明石の春の海★★★★
春の海といえば、筝曲の「春の海」が思い浮かぶが、「須磨」「明石」の海には源氏物語を忍ばせる、のどかで優美な「春の海」がある。須磨明石の眺めの車窓が素敵だ。(高橋正子)
春昼の電車空席の多し★★★
桑本栄太郎
梅ひらく白きメゾンの芦屋かな★★★
鴨残るつがい寄り添う芦屋川★★★
土手草の青む家路や京都線★★★★
2月16日(4名)
小口泰與
蒼天の一朶の雲や犬ふぐり★★★★
青空に一朶の雲。地には空の青のような犬ふぐり(おおおいぬのふぐり)。日本の、のどかな春の風景。(高橋正子)
湖の波風に押さるや落椿★★★
薔薇の芽の競いて数多付きにけり★★★
多田有花
チョコレート大人買いして春はじめ★★★
寺壁にさす木の影の春めきぬ★★★★
木の影が大抵は白い寺の漆喰壁に映る。その淡い影にどことなく春めいたものを感じる。寺というのは季節をよく感じさせる建造物だと日頃思う。(高橋正子)
布団干す家を従え山笑う★★★
廣田洋一
溜まりたる雨水氷る春の朝★★★
薄氷や日差しを返す道の端★★★
登校子の滑りて遊ぶ薄氷★★★★
桑本栄太郎
七段の堰水光り風光る★★★★
いのちあるものの讃歌や木の芽張る★★★
鉄さびの赤き鉄路や余寒風★★★
2月15日(4名)
廣田洋一
春暁の足音高き勤め人★★★★
コーーランの目覚まし時計春の夜明★★★
春は曙コーヒー豆を炒りにけり★★★
小口泰與
雛菊や大志抱きし幼き日★★★★
雛菊からイメージされる幼き日は、幼稚園や小学生の低学年であろう。そのころ抱いた大志を思い起こして、自分自身が微笑ましく思えるのである。(高橋正子)
春苺何処に行くにも妻と犬★★★
熱海にも定宿あるや梅の園★★★
多田有花
春めきてスケッチブックを買いにけり★★★★
春曇終わらぬ更新プログラム★★★
(春遅し終わらぬ更新プログラム)より初めの句のほうが詩情があってよいです。「春遅し」と「終らぬ更新」では、「春遅し」のイメージが湧きにくく、理詰めの感じがします。
この春の歩みゆっくりとして確か★★★
桑本栄太郎
まんさくの日射し紡ぎて花あかり★★★★
佐保姫の吾を嘉する日差しかな★★★
スカイプの孫と会話や春きざす★★★
2月14日(4名)
小口泰與
山茱萸の光の中の園児達★★★★
山茱萸は花は澄んだ色の黄色。早春の光を浴びて山茱萸の花は輝く。園児達も「光の中」でかわしらしさを弾かせる。(高橋正子)
気色立つ森や木の芽の沸沸と★★★
牧場の日照雨のほぐす木の芽かな★★★
多田有花
球深く打ち込む余寒のテニスコート★★★★
オリーブ油とろり固まる余寒かな★★★
チョコレートひとかけ食べるバレンタイン★★★
廣田洋一
駅一つ過ぎる間に止む春の雪★★★★
春の雪ははかなさ。駅一つ過ぎる間に止んでしまう。それだけに美しさが心に残る。(高橋正子)
牡丹雪重げに降れど積もらざり★★★
春の雪竹しなやかにやり過ごす★★★
桑本栄太郎
いのちあるものの讃歌や木の芽張る★★★★
若枝の色めき立つや木の芽吹く★★★
佐保姫の日差し統べ居る山河かな★★★
2月13日(5名)
小口泰與
白梅やあれこれ悩む事多し★★★
落椿蘂に水滴付きにけり★★★★
夕映えのローソク岩や牡丹の芽★★★
多田有花
きらきらと森に舞いけり春の雪★★★
雪しぐれ春陽の下を通りけり★★★
海に向く斜面に紅梅咲き初める★★★★
海と紅梅の取り合わせが晴れやかだ。暖かい日差しが海と紅梅に降り注ぐ景色が目に見える。(高橋正子)
廣田洋一
葱刻み青さ加へる蜆汁★★★★
酒終えて蓋を取りたる蜆汁★★★
古の夢を掻き出す蜆かな★★★
桑本栄太郎
春水の川面下りて歩みけり★★★
堰水の春の岸辺やきらめける★★★
畝間ごと水のきらめき風光る★★★★
川名ますみ
多摩川に今年も梅よ来年も★★★
チューリップ芽が出て客もベランダに★★★★
チューリップの芽が出たうれしさ。その嬉しさを来客とつい分かちたくなる。私も、ものの芽が出るときは特にうれしい。(高橋正子)
早春の一番星を人と見る★★★
2月12日(4名)
●小口泰與
春遅しおつ切り込みの沸沸と★★★
鯉こくの信州味噌や雪解風★★★★
カールの髪肩へなびかせ風光る★★★
●廣田洋一
春の日やきらきらきらと波静か★★★
木々の芽をふんわり包む春日差★★★
春の日や車光れる海岸線★★★★
湘南海岸であろうか。春の日差しを受けて車が走る。海岸線なので、走る車はよく見えて、海からの反射光もけて光っているのだ。春の光が存分な海岸線が素敵だ。(高橋正子)
●多田有花
春の雪舞い初めしなか護摩を焚く★★★
春の霜ソーラーパネルに残りけり★★★
薄氷の水にかえりしところかな★★★★
●桑本栄太郎
畝間ごと水のきらめき風光る★★★★
スカイプの孫と会話や建国日★★★
風船を待つて富山の薬売り★★★
2月11日(4名)
●小口泰與
紅梅や浅間は見えず赤城見ゆ★★★
朝の日の差すやミモザの花の下★★★
春ショール靡かせ湖の展望台★★★★
春ショールと湖の展望台で物語性が生まれた。春ショールを靡かせる麗人の姿が想像できるが、読み手により春ショールの人は様々だろう。(高橋正子)
●廣田洋一
点々と打ち上げられたる若布かな★★★
湯がきたる緑の若布干されけり★★★★
砂浜の若布干場となりにけり★★★
●多田有花
<増位山随願寺・鬼追い式>
鬼追いの太鼓余寒に響きけり★★★★
鬼追いは、腹に響くような太鼓で追っ払ってもらいたい。余寒の空気を震わして太鼓が鳴り響く。「余寒」が効いて、鬼もさほどに憎めない。(高橋正子)
鈴鳴らし余寒の闇を鬼が来る★★★
鬼が持つ松明寒の戻りかな★★★
●桑本栄太郎
堰水の光りきらめく春となる★★★★
梅林のみんな違つてみんな良し★★★
愛づるより餅の急かるる梅見かな★★★