[8月30日]
★稲干して古き時代を語りけり/河野啓一
刈りとった稲を干して、昔の稲刈りのことなど話たのであろう。今は刈りとりと同時に脱穀までしてしまうほど機械化されて、あっけない感じがする。昔ながらの方が、稲に対する思いが清らかなように思う。(高橋正子)
[8月29日]
★霧の朝子はしんしんと眠りけり/福田ひろし
「霧」は秋の季語。子は、秋となって、「しんしん」と静かに深く眠り、安らかである。特別なことではないが、平和な、いい生活がある。(高橋信之)
[8月28日]
★白波の立ちし榛名湖荻の声/小口泰與
榛名湖に白波を立たせて吹く風は、また荻を吹く風でもある。荻を吹く風はすでに秋のわびしさを感じさせる風なのだ。(高橋正子)
[8月27日]
★霧動き白樺静かに現われり/古田敬二
白樺と霧の実景に詩情がある。それを「静かに現われり」と、合唱の幕が徐にあがるように詠んだのが魅力。(高橋正子)
[8月26日/2句]
★時折は硬き音たて秋雨降る/小川和子
秋雨の降る音を聞いておれば、静かな音のなかに、時折、硬くものを叩いて降る音が聞こえる。一様でない秋雨の降り方に、聞く心も心なし揺らぐ。(高橋正子)
★手のとどく丈に椎の実弾け居り/桑本栄太郎
幼いころ椎の実を食べた思い出のある作者だろう。手を伸ばせば届く位置に椎の実が弾けている。あまりの懐かしさに、また、この秋という感傷的な季節に、一句となった。(高橋正子)
[8月25日]
★野の草をしとどに浸し秋出水/河野啓一
大雨のあとの川をのぞくと、出水が川辺の草を水草のように巻き込み、浸して流れている。災害をもたらすほどの雨でないのが幸いで、勢い流れる出水に「野の草をしとどに浸す」風情を見た。(高橋正子)
[8月24日/2句]
神戸の港湾
★秋澄むや港湾跨ぎ大橋梁/桑本栄太郎
港湾に架かる橋梁は硬質の力と美がある。大気が澄み、海の水も青さを増して、港湾の景色が魅力を増す。(高橋正子)
広島土石流災害
★秋出水乾かぬ泥の匂い立つ/佃 康水
このたびの広島の土石流の災害は、まったく酷い。「泥の匂い立つ」が罹災された人たちの悲しみと、現場の生々しい惨状を伝えている。(高橋正子)
[8月23日]
★子らの絵の行灯並び地蔵盆/黒谷光子
地方によって地蔵盆の送り方はいろいろであろうが、光子さんの地方は、行灯に子どもが絵を絵を描き、それを幾灯も灯しているようだ。微笑ましい行灯の絵に囲まれた本当に子どものための地蔵盆だ。(高橋正子)
[8月22日/2句]
★蝶のせて女郎花揺る万博の森/祝恵子
女郎花に蝶がのって揺れる可憐な姿は、山にある女郎花とは趣の違った、万博の森の女郎花。女郎花は意外にも強い花だが、目にはいかにもしなやかだ。(高橋正子)
★荒れ畑の野鳥の声や野分晴/小口泰與
野分が去ったあとの、すっきりと晴れた空。その晴れた空の下に荒れた畑があるが、野鳥が嵐が去ったことを喜び鳴き交わしている。荒れた畑は野鳥たちの喜ぶ自然の野なのだ。(高橋正子)
[8月21日/2句]
★燕すでに去りにし空の飛行機雲/多田有花
残暑の暑さに空を見るのを忘れていたが、空の燕はいつの間にか去って、さびしくなった空には飛行機雲が線を描いて伸びている。もう秋が来ているのだ。(高橋正子)
★街の灯の清らに見ゆる秋の夜/小西 宏
まだ暑さが残る頃、昼間の空気は澄んでいるとは思えないが、夜になると、街にともる灯は、清らかに澄んで見える。街の灯がきれいな夜は気持ちも爽やかになる。(高橋正子)