9月30日(4名)
廣田洋一
熱々の番茶を酌みし夜寒かな★★★
休業の張り紙を見る夜寒かな★★★
大切に籠に入れられ菌かな★★★
小口泰與
誘われて犇めく蝶や藤袴★★★
沛然と雨や湖畔の秋桜★★★
大沼の波も静かや山粧う★★★
多田有花
ここは白あちらは桃色貴船菊★★★
よき日和腰赤燕も去りにけり★★★★
葉月は別名燕去月とも呼ばれるようで、燕が去る季節でもある。燕の生態に詳しくはないが、燕の去るときは、外敵から身を守るため、小雨や曇の日、日が落ちてから空高く舞い上がり飛んで行くとのこと。腰赤燕は、繁殖のために九州以北、西日本で夏を過ごし子燕とともに南へ帰る。この句では、腰赤つばめもすっかり旅立った様子がうかがえる。そんな日和である。穏やかな、真実よい日和であることが嬉しい。(髙橋正子)
その先は河原へ続くすすきかな★★★★
桑本栄太郎
朝顔の種の乾ぶるフェンスかな★★★
ぎんなんの黄色襤褸や図書館前★★★
一木へ塒すずめの九月尽★★★
9月29日(4名)
小口泰與
水切りの五つ数ぞうや秋の虹★★★
名にし負うチャッボミ苔や露の玉★★★
秋の野や望遠レンズ肩にかけ★★★
廣田洋一
天心の半月白き朝ぼらけ★★★
駅中のピアノ鳴りたる秋の昼★★★
理髪師の母となりたる秋の昼★★★
多田有花
夕闇の迫る速さや秋半ば★★★
朝ごとに夕ごとに刈田増えてゆく★★★
快晴のすすき光るだけ光り★★★★
「光るだけ光り」に頷く。快晴の青空からの光は強く、すすきの穂に陰影さえ作らない。すすきの輝く穂が美しい。(髙橋正子)
桑本栄太郎
乙訓の丘の風呼ぶ草もみじ★★★
咲き残る花のありたり萩は実に★★★
朝日さす穂の金色やゑのこ草★★★
9月28日(4名)
小口泰與
掛け終えし稲架は赤城を隠しけり★★★★
普段はいつも見えている赤城山。稲を掛けおえた稲架は高くなり、赤城山を隠してしまった。赤城を隠すほどの豊かな実り稲が、視線の通る景色を変えた面白さ。(髙橋正子)
去ぬ燕洞の石仏黙のまま★★★
山道のバスを包みし霧襖★★★
廣田洋一
肌寒し明の明星光りをり★★★
肌寒し上着を取りに戻りけり★★★
秋空にすそ野広がる富士の山★★★★
多田有花
単線の鉄路に沿いて彼岸花★★★
高らかに始動の朝や稲刈機★★★★
泉水の傍らに揺れ萩の花★★★★
萩の小さな花と揺れやすい枝が泉水の水の様子と重なり合って、静かでやさしい景色を見せてくれている。(髙橋正子)
桑本栄太郎
月代や詠い尽くせず眺め居り★★★
穭田や風の色なす大原野★★★
添水鳴る山風つづく天龍寺★★★★
9月27日(4名)
小口泰與
木道の果てや銀漢澄みにける★★★★
雨粒の蕊に列なす曼殊沙華★★★
曲がり行く貨物列車や雁の列★★★
廣田洋一
明星や三日月かかる夕間暮れ★★★
秋天に高層ビルの窓光る★★★
秋の雲流れ流れて古都の海★★★★
多田有花
朝の月稜線にいま沈みゆく★★★
朝の陽に光りしものは薄なり★★★
今朝晴れて鵙の高音の聞こえ初む★★★★
桑本栄太郎
紅葉初む葉より落ちたり唐楓★★★
病院の庭の明るく秋日差す★★★
蒼天の村の梢や鵙高音★★★★
秋晴の雲一つない青空が広がる村。村の梢からは鵙の高鳴く声が聞こえる。蒼天を抜ける鵙の声に、村は秋またっだ中。(髙橋正子)
9月26日(4名)
小口泰與
窓開くや微かにながる金木犀★★★
木道の蛇行や尾瀬の草紅葉★★★
農機具を小屋に仕舞いし鰯雲(原句)
「仕舞いし」の「し」は、過去の助動詞「き」の連体形なので、鰯雲を修飾し、口語で表現すれば、「農機具を小屋に仕舞った鰯雲」となります。(髙橋正子)
鰯雲小屋に農機具仕舞われし★★★★(正子添削)
廣田洋一
貝殻の塔を立ち上げ秋彼岸★★★
義妹の墓も洗ひし秋彼岸★★★★
薄雲の覆ひたる墓地や秋彼岸(原句)
薄雲の覆へる墓地や秋彼岸★★★(正子添削)
多田有花
本堂の上に広がり羊雲★★★★
白粉花や一夜の明けて清々し★★★★
白粉花は、夕方四時ごろ開き芳香を放ち、翌朝まで咲いて午前中にはしぼむ。一夜が明けると、夜気に触れた花は、覚めたような清々しさとなっている。上品な芳香があるせいか、白粉花ならでの風情と言える。(髙橋正子)
艶なれど俗にはあらじ秋の薔薇★★★
桑本栄太郎
歩みつつ畦道撮るや彼岸花★★★
鶏頭の供花の植えらる辻地蔵★★★★
そう云えば今朝は聞かざる秋の蝉★★★
9月25日(5名)
廣田洋一
秋うらら亀渡り行く滑走路★★★★
秋彼岸車治して墓参り★★★
野菜売場明るくしたる馬鈴薯かな★★★
多田有花
三回忌彼岸の寺へ向かいけり★★★
法要の寺には白き彼岸花★★★
句碑立ちぬ枝垂桜の初紅葉(原句)
句碑に添い枝垂桜の初紅葉★★★★(正子添削)
句碑の傍に添うように枝垂桜が植えられ、うっすらと紅葉している。春は花を、夏は木陰を、秋には紅葉をと枝垂桜が句碑に趣を添えている。今は初めて紅葉を見る季節になったのだ。(髙橋正子)
小口泰與
線香の煙かたむき稲光★★★
臈たけし寺の白菊盛りかな★★★★
コスモスの叢を統べたり山の風★★★
桑本栄太郎
うす闇の朝の静寂やつづれさせ★★★
椎の実の笑みて弾ける予感かな★★★
来て見ればすでに刈田や大原野★★★★
川名ますみ
撫子の折りたたまれし花弁咲く★★★
撫子のひとたたみよりひらきそむ★★★
桔梗の莟にわれめ入りし朝★★★★
9月24日(4名)
小口泰與
庭草を刈りて蜻蛉の寄る辺なし★★★
来世また蜂の子飯を君と食む★★★
田の色の田ごと違(たが)う渓の風★★★
廣田洋一
残月や雲を払ひて照らしをり★★★
団栗の毬を抜け出し道の端★★★
どんぐりころころ道を渡りけり★★★★
桑本栄太郎
畦一面爛れたるかに彼岸花★★★
煽られてとんぼ飛び行く風の朝★★★★
とんぼが風に煽られて飛んでゆく。それも風が吹く朝のこと。「風の朝」のとんぼが透き通って見える。(髙橋正子)
来て見れば今朝は刈田や風の丘★★★
多田有花
快晴のこれが秋分の日差し★★★
立待月洗い髪にて見上げおり★★★
裏戸開けすぐの畑に大根蒔く★★★★
大根は野菜のなかでも日本人にとっては昔からの生活に密着した野菜。芽生えやすく、土をよく作っておけばよく育つ。裏戸を開けてすぐの畑に蒔いたりする。(髙橋正子)
9月23日(4名)
小口泰與
稲妻の青眼の太刀浴びにけり★★★
二千キロ翔る途中や藤袴★★★
ライト点け山小屋を出づ星月夜★★★★
多田有花
十六夜やほのかに雲を纏いおり★★★
彼岸花に揚羽蝶が来ている★★★
鐘楼の上に広がり秋の空★★★★
廣田洋一
新米の豊かな甘み嚙みしめる★★★
ふるさとの今年米買ふ夕べかな★★★★
「夕べかな」の詠嘆がよく効いている。ふるさとは懐かしいもの。ましてそこで出来た新米は心の底からほのぼのとした嬉しさを湧き上がらせてくれる。人恋しさのつのる秋の夕べには特に。(髙橋正子)
田舎道雅にみせる実紫★★★
桑本栄太郎
街中を抜けて田道へつづれさせ★★★
歩みゆき無人店にて秋なすび★★★
秋分の日差し眩しく濯ぎもの★★★
9月22日(4名)
小口泰與
丁寧に芝刈る吾やきりぎりす★★★
白波の岸を離るる渡り鳥★★★
一心に鳴く蟋蟀の厨かな★★★★
夜も更けて来ると静まった厨で蟋蟀が鳴き続ける。「一心に」としか言いようのないような鳴き方に、秋の夜のわびしさが募る。(髙橋正子)
廣田洋一
名月や一目確かめ酒を酌む★★★
名月や見とれていたる道の端(原句)
名月や見とれて立てる道の端★★★★(正子添削)
ご自分の姿がはっきりするように添削しました。
満月に負けずに光る明星かな★★★
多田有花
名月がはや山の端を離れたり★★★
両側に曼珠沙華咲く道をゆく★★★★
次々と犬連れし人秋の朝★★★
桑本栄太郎
名月や孫の写メール拝み居り★★★
香り来る匂いに気付く銀木犀★★★★
哀しみの色とし思う水木の実★★★
9月21日(4名)
多田有花
底紅や今朝も変わらずその家に★★★
秋野菜いろいろ入れてカレーを作る★★★
時おりは白きもありぬ曼珠沙華(原句)
「ありぬ」と完了(~た、~してしまった)にするより、今、赤も白もあるとする方が景色がよく見える思います。
時おりは白きもありて曼珠沙華★★★★(正子添削)
あちこちの曼珠沙華を見ていると、時には白い曼珠沙華に出会うこともある。燃え立つ赤い曼珠沙華の中の少しの白曼珠沙華は赤とは違う世界を感じさせ、それもいい。(髙橋正子)
小口泰與
迫り来るコスモスの群雨の鶏屋★★★
正眼に構えし太刀や秋燕★★★
お早うと同時や秋茄子賜りし★★★★
廣田洋一
新米や名は福笑い福島産★★★
一片の雲も見えずに月上る★★★★
後から吾につき来る名月かな★★★
桑本栄太郎
吾が影の長き刈田や田道行く★★★★
宵闇の雲をやきもき月今宵★★★
風雨など負けぬ気概や賢治の忌★★★