6月30日(5名)
小口泰與
郭公や湿原靄の只中に★★★
「湿原靄」は、無理があります。
真昼間の東の空へ夏満月★★★
素袷やビア樽腹を曝け出し★★★
多田有花
<橿原神宮三句>
絵馬の寅大きく梅雨を歩みおり★★★
神宮を吹き抜けてゆく青葉風★★★
巫女歩む梅雨ある国の装束で★★★★
日本の夏の巫女の白と朱の装束が、神宮の板廊下を歩くときなど、意外にもさっぱりと涼しげなので、目をひいたのであろう。(髙橋正子)
廣田洋一
友達と声掛け合ひて茅の輪くぐり★★★
夏服の学校帰りバスに乗る★★★
夏服や首にかけたる濡れタオル★★★
桑本栄太郎
初蝉の鳴き初め黙の朝かな★★★
何処までも青き空なり六月尽★★★
夕映えの嶺の奥まで赤きけり★★★
「赤きけり」が問題です。「けり」は、活用語の連用形に接続します。
弓削和人
夏の蔓軒から空へ巻きのぼり★★★
照りつける屋根に並ぶや雲の峰★★★
夏の寺大樹がそそり立ちにけり★★★★
景色がそのまま大きく堂々と描写されて夏の寺の雰囲気がよく分かる。(髙橋正子)
6月29日(5名)
小口泰與
村道の潦なり二重虹★★★
夕さりの植田を翔るピーヒョロロ★★★
沢蟹や車激しき九十九折★★★
廣田洋一
古池の木立を占めし女郎蜘蛛★★★
浜茄子や国後までの潮の道★★★
浜茄子の香に送られてバス旅行★★★
桑本栄太郎
夕暮れの川に水輪や宵涼し★★★★
涼しいと思うのは、夕暮れの風が立つころ、川にできる水輪。こう書き始めると清少納言の枕草子が思い出される。この句の夏の涼しい景色に加えて欲しいものに思える。(髙橋正子)
嶺の端の奥の茜や宵涼し★★★★
晩涼や塒(ねぐら)すずめの姦しき★★★
多田有花
<吉野神宮駅>
人もなしポスターもなし夏の駅★★★★
<橿原市>
昼食へ柏葉紫陽花咲く道を★★★
<橿原神宮>
六月の青空少し鳥居の上★★★
弓削和人
水豆腐夕べの風が風味添え(原句)
「風味添え」が問題です。
水豆腐夕べの風が木立より(添削例)
風薫る洞水門の水の琴★★★
熱帯夜掛けしベルトの項垂れり
「掛けしベルト」は、どこに(何に)掛けたベルトでしょうか。また、「ベルトの項」とはどういったことでしょうか。
6月28日(5名)
小口泰與
濃紺の今朝の赤城や花萱草★★★
朝焼や仁王立ちたる浅間山★★★
梅雨明けや携帯電話鳴り初める★★★
廣田洋一
裳の裾を広げて立ちし花魁草★★★
夏服の二の腕白き受験生★★★
夏服の腿眩しかり女学生★★★
多田有花
<吉野神宮二句>
風鈴や風の緩急報せけり★★★
振り向けば鳥居の上の梅雨青空★★★
梅雨の晴れ声かけられて車に乗る★★★
桑本栄太郎
想い出の夢の巡りぬ昼寝覚め★★★
梅雨明けと聞き̪し在所の茜空★★★
芙美子忌の明日の銭を数えけり★★★
弓削和人
ひそやかに百合が咲きけり軒の陰★★★
★印4個でない理由は、「ひそやかに」と「軒の陰」が、雰囲気として似ていて、付きすぎ(似合いすぎ)なのです。この句はこれで良しとして、新たに句を作るときは、こういったことに気をつけて、句を推敲してください。
草いきれ古びた柵へ蔓絡み★★★
6月27日(5名)
小口泰與
先の事知らず蔓薔薇囲い解く★★★
水嵩の増しくる川や額の花★★★
山神の挿頭は雲よ花榊★★★
廣田洋一
蜘蛛の囲のきらきら光る雨上がり★★★
サイドミラーに蜘蛛の囲つけてドライブす★★★
蜘蛛出づる風呂場の虫の消えにけり★★★
多田有花
<吉野神宮三句>
風鈴の数多や風に応え鳴る★★★★
後醍醐天皇を祀る吉野神宮には、禰宜さんが風鈴掛けを作り、たくさんの風鈴を吊るして涼を呼んで観光客にも喜ばれていると聞く。ガラスの風鈴は涼やかで、風の流れに合わせ音を響かせている。まさに「風に応えて鳴る風鈴なのだ。(髙橋正子)
吉野神宮紫陽花の色の濃し★★★
京望み青葉茂れる社殿かな★★★★
桑本栄太郎
蒼ざめて見える四葩や病院に★★★
雨を待つ青き吐息や額の花★★★
黄金色すでに褪せたる小判草★★★
弓削和人
若葉吹く風の鳥居や多度大社★★★
夏山を越えるや雲の一筋に★★★★
蟷螂の子とはいえども鎌をあげ★★★
6月26日(4名)
小口泰與
生臭き山道へ入るサングラス★★★
白鷺や猶遡上する魚の数★★★
奥瀞へ光差しけり川蜻蛉★★★★
写真の風景として、光の具合と、かそけき存在の川蜻蛉の取り合せが良さそうな感じがする。それを俳句で表現したと言えるような句。(髙橋正子)
廣田洋一
夏服は霜降り柄と決まりをり★★★
夏服の赤が似合へる媼かな★★★
夏服の胸元光るネックレス★★★
桑本栄太郎
朝涼の窓の風吹き目覚めけり★★★
午後からの日射し厳しく炎昼に★★★
西日さす窓の枝葉の透きにけり★★★
多田有花
<吉野駅前>
梅雨に入る吉野のポストさくら色★★★
<吉野神宮二句>
万緑の吉野神宮参道を★★★
狛犬は青葉を仰ぎ吉野神宮★★★
6月25日(5名)
小口泰與
無造作に茄子を切たり雨後の朝★★★
栗の花落ちるや忽と雨もよい★★★
滔滔と田川流るや二番草★★★
廣田洋一
袴のごと皮を残して今年竹★★★
麻暖簾白く連ねし老舗かな(原句)
麻暖簾白きを連ねし老舗かな★★★(正子添削)
新しき菓子の名染めて麻暖簾★★★
多田有花
<吉野荘湯川屋三句>
早朝の青葉を望む湯殿かな★★★
さらさらと茶粥一杯夏の朝★★★
朝涼の吉野葛入り卵焼き★★★★
吉野らしい宿の朝食としての吉野葛入りの卵焼き。普段の卵焼きに片栗粉を入れることもあるが、舌触りも滑らかでふわっとしたものであろう。「朝涼」がいい。(髙橋正子)
桑本栄太郎
黒南風の葉擦れの枝の重きかな★★★
ワクチンの予約を取りに青あらし★★★
鳴りやみて夕の茜やはたた神★★★
弓削和人
暑き日の鉄路へ吹くや若葉風(原句)
「暑き日」と「若葉風」と季語二つあります。これを「季重なり」と言って、さけなければいけません。「暑き日」を詠みたいのか、「若葉風」を詠みたいのか、決めて詠んでください。
通い路垣根越しには柿若葉★★★
雨宿り露に映えたる蝸牛(原句)
「露に映える」はどんな情景かを具体的に表現してください。
雨宿り露にいきいき蝸牛★★★★(正子添削)
6月24日(5名)
小口泰與
夕焼やはるか浅間の隠れなし★★★★
捩花の影の巨大や夕間暮れ★★★
蚊の声や待合室の黙の椅子★★★
廣田洋一
ぽろぽろと落ちたる実梅光りをり★★★
お手製の甘酒啜る昼下り★★★
甘酒に一息つきぬ御神前★★★
桑本栄太郎
木々の枝の葉の透けて居り青嵐★★★
下校児の声の響けり青あらし★★★
帰宅せし途端の汗や玉しずく★★★
多田有花
<金峰山寺蔵王堂三句>
青葉して朝勤行の蔵王堂★★★★
豪壮な蔵王堂は、東大寺の大仏殿とも比べられるほどの大きさ。その蔵王堂から勤行の声が漏れ聞こえるのだろう。「青葉して」が吉野を感じさせてくれる。(髙橋正子)
法螺貝が夏の空気を震わせる(原句)
法螺貝が震わす夏の山気かな(正子添削)
雨あがり万緑を霧立ち昇る(原句)
万緑を霧立ち昇る雨あがり★★★(正子添削)
弓削和人
ハンカチを浸して抗す炎夏かな★★★
炎天に樹の与えたる日影かな(原句)
炎天に樹のつくりたる日影かな★★★(正子添削)
遠き橋蟻の列ごと車輪かな
意味がよくわからないですが。(髙橋正子)
6月23日(5名)
小口泰與
青鷺や利根の白波限りなし★★★
あけぼのの利根かぐわしき鮎遡上★★★
郭公の隠ろう大樹丘の宮★★★★
廣田洋一
夢の中結論出ずに明易し★★★
さくらんぼアメリカ産の濃紫★★★
みちのくの光を零しさくらんぼ★★★★
みちのくから届いたさくらんぼ。丸い実は輝いて、みちのくの光をそのまま連れて来たような感じだ。「みちのくの光」に、みちのくの人たちの生活風景が見えて来る。(髙橋正子)
多田有花
<吉野荘湯川屋三句>
吉野葛たっぷり使い夏料理★★★★
鮎泳ぐ姿のままに塩焼きに★★★
会席の終わりに笹巻き葛餅を★★★
桑本栄太郎
凌霄花の天に噴きだす炎とも★★★★
午後よりの急に日差しの溽暑かな★★★
日盛りの病院よりの徒歩の道★★★
弓削和人
花瓜の露や始まる朝勤め★★★
夏の蔓巻きつつ群るる明やしき
「明やしき」の意味は?
十薬に招かれたるや古館★★★
6月22日(5名)
小口泰與
単線の鉄路かがやく夕立かな★★★★
「単線の鉄路」で、辺りの景色が見えて来る。夕立が一降りして、さびしかった鉄路が蘇るようにかがやいた。うれしいような瞬間がある。(髙橋正子)
鉄線花垣穂の空へ限りなく★★★
ふりふりと腹をふりつつ目高かな★★★
廣田洋一
茄子の花小さき茄子に映りをり★★★★
夕暮れの明るき庭に夏至の雨★★★
採れたての胡瓜を貰ふ垣根越し★★★
多田有花
東南院青葉の中の多宝塔★★★
<吉野荘湯川屋二句>
通されし床の間に鮎の掛け軸(原句)
5-7-5に整えた方がいいと思います。(髙橋正子)
通されし床の間に掛かる鮎の軸★★★★(正子添削)
露天の湯に入りて青葉を眺めやる★★★
桑本栄太郎
夏つばめ低き陸橋素潜りけり★★★
堰水の怒涛となりぬ梅雨晴間★★★
玉葱や帰省の妻の早や戻り★★★
「玉葱」と「帰省の妻の早や戻り」の取り合せは切れすぎです。もう少し、丁寧なほうがいいと思います。恣意的な解釈しかできなくなります。(髙橋正子)
弓削和人
夏出水落花の影を失せにけり(原句)
「影を失せ」は「影の失せ」にします。「影がなくなる」意味です。
夏出水落花の影の失せにけり(正子添削)
「夏出水があって、落花の影がなくなってしまいました。」の意味になります。「落花の影」が具体的ではありません。
「夏出水落花の面影失せにけり(正子添削)」なら、意味は通ります。
池の端や夾竹桃の一樹居り(原句)
「居り(る)」は夾竹桃を擬人化することになります。この句で、擬人化する
必要はないと思います。(髙橋正子)
池の端や夾竹桃の一樹在り★★★(正子添削)
夏至雲の流れ来たりて山陰り(原句)
一か所「切れ」を入れる方が、イメージがはっきりします。
夏至の雲/流れ来たりて山陰り★★★★(正子添削)
6月21日(5名)
小口泰與
反り返る簗の竹材星の夜★★★★
山里は大きく変わり草いきれ★★★
雀らの歩き回るや捩れ花★★★
廣田洋一
苺一つ包み隠せる大福かな★★★
白壁にピタと張り付き黒揚羽★★★
夏薊丸き頭の蕾寄せ★★★
弓削和人
朝涼の起きて筍流しかな★★★
卯の花の曇りて雨の音かすか★★★
短夜の雨音遠くなりにけり★★★★
多田有花
<吉水神社三句>
義経の潜みし一間梅雨の雲★★★
義経と静の別れカラー咲く★★★
青葉してただ静かなり吉野山★★★★
吉野山は桜のころは全山桜に覆われる。ほとんどが山桜と聞く。吉野の山は葉桜を始め青葉となって、人でにぎわうこともなく、「ただ静かなり」の山となっている。前書きにある吉水神社は、もとは金峯山寺の格式高い僧坊。明治の神仏分離によって神社となり、源義経が弁慶らと身を隠したこと、後醍醐天皇の行宮であったこと、豊臣秀吉が花見の本陣とした等の逸話が残る。静かさに吉野の歴史に思いを馳せることもあるだろう。(髙橋正子)
桑本栄太郎
木槿咲く雨の団地の朝かな★★★
豆ご飯炊いて待ちたる妻帰る(原句)
「待ちたる」にすると「妻」にかかります。妻が豆ご飯を炊いて待っていることになります。(髙橋正子)
豆ご飯炊いて待ちたり/妻帰る★★★★(正子添削)
夏至の日の雨の一日に終りけり★★★