1月31日(1句)
★厳寒に斎庭の砂の白々と/廣田洋一
斎庭(ゆにわ)は、神を祀るために清められた庭。斎庭に敷かれた砂は、ただでさえ、清らかであるが、厳寒には、特に、ものみな、清められた感覚になるので、白々とした砂に一層の清らかさを思った。(高橋正子)
1月30日(1句)
★榛名富士雪さやかなり湖に映ゆ/小口泰與
写真のようにくっきりとした景色。雪を冠った榛名山が湖に映り、「さやかな」様子。寒さの中にある清々しさ。(高橋正子)
1月29日(2句)
★青空にかすかな赤み冬芽かな/廣田洋一
冬木はまだ枯れたように立っているばかりと思いきや、青空に透けた枝先には、かすかに赤い冬芽が見えた。冬木は春の気配に動き始めたようだ。(高橋正子)
★風花や時に無風の青空に/桑本栄太郎
風花のする空であるが、時に風が止んで、驚くような青空が広がる。風花は遠い雪山からの風に乗って来たのだから、風花もぴたっと止んでしまった。(高橋正子)
1月28日(2句)
★葉牡丹や渦巻く日差し取り込みぬ/廣田洋一
日差しが渦巻くのではないが、葉牡丹の葉が巻く渦が日差しを渦巻き状に巻き込んでいる。そんな印象を句にした。(高橋正子)
★日脚伸ぶ車窓過ぎ行く福山城/桑本栄太郎
福山は私の郷里であるので特別な感懐が湧くが、福山城は、駅のすぐ傍に立つ小さい城で、漆喰の白壁が季節季節の光を反射して、それが特徴的で印象的なのだ。日脚伸ぶ感懐も実感として伝わる。(高橋正子)
1月27日(1句)
★駅前の青き空より風花す/廣田洋一
駅前の少し広い青空から、風花が舞う。風花の儚さと美しさが目に見える。(高橋正子)
1月26日(2句)
★赤城より冷気とどくや凍豆腐/小口泰與
凍豆腐は、家庭では、水を切った豆腐を夜は氷点下にもなる戸外に吊るして作る。赤城からの冷気に美味しい凍豆腐が出来上がる。厳しい寒さを利用し、工夫して人は生活している。(高橋正子)
★炭熾り時にぱちんと弾けたり/多田有花
炭火が燃える様子は、見ていて飽きない。炭火が熾って、時にぱちんと弾ける。ぷんと炭の匂いがする。どんな具合のときに弾けるのか知らないが、炭火も時に小さな声を出している。とてもいい時間がある。(高橋正子)
1月25日(2句)
<北摂妙見山・台風21号の爪跡残る>
★傷みつつ寒晴へ立つぶなの木々/多田有花
「傷みつつ」は具体的にどのような状態かな、と思う。ぶなは落葉するが、枯れた葉が落ちないで枝に付いたままのもある。そんな木々のことだろうか。ぶなの大木は寒晴の空へと傷みつつも毅然と立っている。そんな姿に心を打たれた。(高橋正子)
★ぽつぽっと草生え出ずる冬田道/廣田洋一
冬田道を歩き、ふと足元をみると、「ぽつぽつと」緑の草が生えている。枯草の中のささやかな緑にうれしい気持ちになる。(高橋正子)
1月24日(1句)
★春を待つ櫟林を登りゆく/多田有花
櫟林の空は、寒中とは言え、空の光は意外にも強くあかるくなっている。そこを登れば、待春の思いになる。(高橋正子)
1月23日(3句)
★息白し神と仏の居りし部屋/小口泰與
民家で客間として使われる部屋には、仏壇があり、神棚が祀られていることがある。私の生家もそうであったが、朝などは、火もまだ入れず、畳も冷たかった。家の中ながら吐く息も白い。神仏の部屋の緊張感が伝わる。(高橋正子)
★寄れば香に触れるが如し寒の梅/多田有花
ぽつぽつと咲き始めた寒中の梅であるが、近寄れば、いい匂い。香りに触れる感じがする。寒中の貴重な香りだ。(高橋正子)
★風花とみえしばかりに風に消え/古田敬二
風花は、遠方の山岳付近に風雪が起き、それが上層の強風に乗って風下にひらいする現象といわれる。晴れていながら雪片が舞う。その風花が舞うのが見えたと思うと、もう、風に消えている。はかなく、美しいものの一つだ。(高橋正子)
1月22日(1句)
★大根抜くありったけの力もて/古田敬二
もとの句は、「ありったけ力」と舌足らずな表現になっています。「大地」は省きました。(高橋正子)
大根を抜くには、大根が太くよく育っていれば育っているほど抜く力がいる。大根引きは、人間との力比べだ。(高橋正子)
1月21日(3句)
★大寒の木々に差す陽の力増す/多田有花
「陽の力増す」に実感がある。大寒で寒さは厳しいが、日差しは、明るく、力強ささえ感じる。(高橋正子)
★冬深し堂の柱の黒光り/小口泰與
堂の冷え冷えとした中に堂々とした柱が黒光りしている。それを見ると、今こそ「冬深し」なのだと感じる。(高橋正子)
★我が寝屋の中天高く冬の月/古田敬二
冬月が中天高くのぼり、月の光に照らされている我が寝屋。寒いながら、静かな眠りが保証される。(高橋正子)