8月31日(3句)
★書肆に居りとある夜長を我一人/小口泰與
「我一人」なのだが、充分であり、いい生活だ。(高橋信之)
★露けしや田道の独り吟行に/桑本栄太郎
上五の季題「露けし」がいい。季節をしかと捉えた。(高橋信之)
★澄む秋の山の上には昼の月/多田有花
写生句だが、上五の「澄む秋」がいい。作者の心境を読む。(高橋信之)
8月29日(2句)
★潮風の屋島の酢橘届きけり/小口泰與
酢橘(スダチ)は徳島県を代表する特産物であり、酢橘の花は徳島県の県花。讃岐屋島は、那須与一の扇の的のエピソードで知られる。(高橋信之)
★とりどりの茸愛でつつ森歩く/多田有花
俳句の良さを生かした句。一人歩いていれば、なおいい。読み手を楽しませてくれる。
8月28日(1句)
★新涼の茗荷たっぷり刻みけり/廣田洋一
現代詩とは違う味わいがあって俳句の良さが出た。身近な生活感がいい。(高橋信之)
●8月27日(2句)
★秋の朝くべし小枝の杉匂う/多田有花
「杉匂う」思い出は私にもあり、懐かしい思い出だが、それが何処であったかは、今は記憶にない。(高橋信之)
★産土の満州いづこ去ぬ燕/満天星
私の生まれは、父の勤め先の大阪だが、二歳の時に旧満州(関東州)の大連に移り住み、中学3年時に父が亡くなっていたので、母の実家がある愛媛に引き揚げた。私の生まれは、大阪だが、記憶にあるのは、私にとっても、「産土の満州」である。(高橋信之)
8月26日(5句)
★飛び交うは翅の傷みし秋の蝉/多田有花
秋になって、翅が傷んだにもかかわらず飛び交う蝉は元気な蝉とも言えるが、それが却って淋しい。(高橋正子)
★秋雨に静まりをりぬ休耕田/廣田洋一
休耕田は言ってみれば荒れた田とも言える。秋雨が降り注いで静まっている。わびしくも静かな田だ。(高橋正子)
★生い茂り幹の高さや葛の花/桑本栄太郎
葛の繁茂は旺盛だ。葛の蔓は幹がある限りよじ登り、そこに花を咲かせる。幹が高ければ、花も高く咲く。(高橋正子)
★手に馴染む古るき歳時記秋灯/小口泰與
静かな秋の夜のたのしみに、俳句を作る。いい季節だ。手元に置いている歳時記もしっくりと手に馴染み、もう、作句が日常生活となっている。俳句への愛着。歳時記への愛着は、代えがたいものだ。(高橋正子)
★秋の雲ミントをちぎるティータイム/川名ますみ
ミントの葉をちぎって、紅茶に浮かべてミントティーにしたりして楽しむ。秋の雲を見ながらの、ささやかなことを加えて、いいお茶の時間だとなった。(高橋正子)
8月25日(なし)
8月24日(1句)
★宇品港の入船出船秋暑し/谷口博望(満天星)
広島の宇品港には瀬戸内海を行き来する連絡船が多く発着する。秋の暑さのなかを、入船出船が行き交い、
人々の往来がある。港の光景に親しんだものには、入船出船が遠い景色のようにも思えるのではないか。(高橋正子)
8月23日(2句)
★こんこんと尾瀬に水湧き新豆腐/小口泰與
尾瀬の水は初秋でも手が切れそうになるほど冷たかったことを、思い出した。そんな水に浸された新豆腐が掬われ、食膳に上った。新豆腐の大豆、水のかすかな甘味がうれしい。(高橋正子)
★草原の空とコスモス晴れ渡る/廣田洋一
草原とコスモスの取り合わせは、やさしい風景だ。「晴れ渡る」空が、気持ちを大きくのびやかにしてくれた。そこがいい。(高橋正子)
8月22日(2句)
★秋蝶と隣り合わせて頂に/多田有花
蝶と隣り合わせる、近く同じ空間いる、という楽しさ。「秋蝶」の季語が山頂の澄んだ空気やしなやかで可憐な小さな命ある姿をよく表現している。(高橋正子)
★帰り来て虫の音すだく庭の隅/廣田洋一
街の喧騒から我が家に帰りついて、すだく虫の音に迎えられた。虫の音に包まれたわが家の安心に心が落ち着く。(高橋正子)
8月21日(2句)
★初秋の海の青さを見る頂/多田有花
「初秋」と「海の青さ」に「頂」が加わり、詩が生まれた。頂の見晴らしの良さ、頂に居る快さに気持ちが新鮮に、みずみずしくなった。(高橋正子)
★朝顔や電子編集はかどりし/小口泰與
さわやかな朝に開く朝顔の花は、見えないもの、電子のようものと交歓している感じだ。涼しい朝は、電子文書の編集がおのずからはかどる。(高橋正子)