2月28日(5名)
小口泰與
松風や四つの古墳へ春日影★★★★
日おもてを好む小犬や犬ふぐり★★★
雪岱の余白の挿絵春の波★★★
廣田洋一
ものの芽の緑を秘めし花壇かな★★★
西天に春満月の冴々と★★★★
一人でて春満月を仰ぎたる★★★
多田有花
春寒を戻りて熱きポトフ食ぶ★★★
雨あがる未明の街を春疾風★★★
枝垂梅風を誘いて枝垂れおり★★★★
桑本栄太郎
U・F・Oと見たる思いや土佐水木★★★
かすみ立つ遥か彼方や淀川に★★★
けぶり立つ畑となりたる二月尽★★★
古田敬二
落日にその影はっきり春の雪★★★
さわさわと菜の花に吹く海の風★★★★
菜の花に吹く海の風を「さわさわ」と表現しているので、菜の花の柔らかさ、その匂いが現実感をもって快く伝わってくる。菜の花と海の取り合せが明るい。(高橋正子)
一斉に菜の花なびく海風に★★★
2月27日(3名)
小口泰與
公魚や見えて遥けき湖の舟★★★
大試験家の哀歓ひひめける★★★
茶箪笥に紙の雛の置かれけり★★★★
紙の雛は、思うところに、どこにでも飾れるよさがある。家族がくつろぐ茶の間の茶箪笥に、紙雛を置く。とたんに明るく艶めいて、暮らしを美しく彩ってくれる。(高橋正子)
廣田洋一
妖艶な桃色光る椿かな★★★
小さき木に一輪咲きし椿かな★★★
走り根を紅く挟みて落椿(原句)
「紅く挟み」の「挟み」が気になりす。
走り根の間をうづめ落椿★★★★(正子添削)
桑本栄太郎
こつ然と天の静寂や雲雀落つ★★★
春寒のほつえにありぬ青き空★★★★
もくれんのにつと微笑み咲くばかり★★★
2月26日(3名)
小口泰與
春荒やいつもの事よ上州は★★★
夕食の会話弾みぬ大試験★★★
二階より紙飛行機や春の宵★★★★
思わぬ方向の二階から紙飛行機が飛んできた。ふいのことに驚いた。紙飛行機を飛ばした二階の少年に幼いころの自分を重ねたのだろう。浪漫的な感傷の漂う春の宵のことだから。(高橋正子)
廣田洋一
ものの芽の色に染まりし花壇かな(原句)
「色に染まり」では、読み手は「色」が具体的にイメージしにくいので、句が漠然とします。なにか想像の手がかりが欲しいです。
参考までに草田男の句を挙げます。
「青もかち紫も勝つ物芽かな 中村草田男」
ものの芽の色いろいろに花壇かな★★★★(正子添削例)
着古せし衣類を捨てて2月尽★★★
積まれし本地震にも耐え2月尽★★★
桑本栄太郎
目覚めても追憶つづく朝寝人★★★
竹の枝の支柱立てらる花ゑんどう★★★★
春風のパタパタ叩くトタン屋根★★★
2月25日(4名)
小口泰與
囀りや風吹かぬ日の厩橋★★★
雉啼くや山火事いまた収まらず★★★★
時事の山火事を詠んだ句。栃木県足利市の山火事が5日目となるが、赤城颪の風も吹いてか、燃える区域が広がっている。消火には10日から2週間かかるとみられる。山に棲む雉の鳴き声も哀しげに尾をひいて聞こえる。鎮火を祈る。(高橋正子)
山茱萸の花かたまりて毬の如★★★
廣田洋一
公園を駆けまわる子ら春めきぬ★★★
春めくや名を知らぬ花咲きにけり★★★
マンションの工事の音や春めけり★★★
多田有花
紅梅の後ろも紅梅色さかん★★★
陽を透かす高き梢の藪つばき★★★★
ピアニカを奏でておれば春の鳥★★★
桑本栄太郎
レシピ添え花菜売らるる無人店★★★
揚ひばり畑の真中にいちご園★★★★
春風のトタンの屋根を叩きけり★★★
2月24日(4名)
小口泰與
春眠の中に入りくる猫の声★★★
春泥や次つぎ庭へ群雀★★★
春疾風端山へ対う鳥の群★★★
廣田洋一
庭の草はたと揺れ止み冴返る★★★
濃紅梅白梅に割り込みにけり★★★
枝垂梅一輪残る枝の先★★★
桑本栄太郎
パンジーの蝶となる日か日差しけり★★★
風吹けば風の行方になずな咲く★★★★
風が吹いて行く方へ、歩いて行くとそこになずなが咲いていた。風の案内を受けて歩いた野道がやさしく詠まれている。(高橋正子)
青空を透いて並木や銀杏の芽★★★
多田有花
春の夜懐かしき人の夢を見る★★★
あけぼのの春山ぎわの空を見る★★★
紅梅を仰げば空のみずいろに★★★★
紅梅が咲く空は、真っ青ではなく、みずいろ。春の空は青く見えながらも、霞がかかっていて淡い。紅梅の紅とみずいろの取り合わせが若々しい。(高橋正子)
2月23日(3名)
小口泰與
赤城はや雪解水はも放ちける★★★
自転車の通学女子へ春疾風★★★
雨後の庭朝日賜わる牡丹の芽★★★
廣田洋一
指文字を書きたる水の温みけり★★★
鯉の群広がる淵の水温む★★★
大小の水車廻りて水温む★★★★
流れにある大小の水車。大きい水車はたくさんの水を、小さい水車は少しの水を汲み流している。のどかな光景に水の温みを感じる。遠近感とリズム感があり、景色が生きている。(高橋正子)
桑本栄太郎
花びらの一重楚々たり薮椿★★★
川べりにひそと番いや残り鴨★★★
荷造りの紐の緩みや春菜着く★★★★
荷物は遠くから運ばれ来た。人の手に渡り、車に揺られ、しっかり縛っていた紐が緩んでいる。荷には故郷の春菜がいろいろと。「緩み」と「春菜」の関係がいい。(高橋正子)
2月22日(4名)
小口泰與
浅間刷く霞の波や鳥の声★★★
春の宵土偶の尻の豊かにて★★★
外にも出よ春満月を浴びてみよ★★★
廣田洋一
川の鯉大きく跳ねて春動く★★★
温度差の大きな日々や春動く★★★
根元には日色を残しほうれん草★★★★
ほうれん草の根元の赤い色は、緑濃い葉に対比されて、印象に残る。その赤い色をこの句では、「日色」と言った。太陽のもとに育ち、日の色を溜めたとも言える。生き生きとしたほうれん草だ。(高橋正子)
多田有花
観梅の人の数多に陽のやさし★★★
家島の影ぼんやりと春霞★★★
天をさすまだ枝のみの山桜★★★★
桑本栄太郎
嶺の端に送電塔やかすみ立つ★★★
こつ然と空の静寂や雲雀落つ★★★
菜の花を供華と抱きたる祠かな★★★
2月21日(4名)
小口泰與
着水の禽の飛沫へ春日影★★★
黄水仙朝日含みて向きむきに★★★★
春の日や芝のおちこち醜草よ★★★
廣田洋一
梅祭日帰り旅に出かけたり★★★
光る海遠くに見つつ梅見かな★★★★
この辺で一寸一服梅見茶屋★★★
多田有花
観梅の人の数多に陽のやさし★★★
家島の影ぼんやりと春霞★★★
天をさすまだ枝のみの山桜★★★★
桑本栄太郎
枝垂れ梅しだれ軒端に日差しけり★★★
びょうびょうと風の耳過ぐ揚ひばり(原句)
びょうびょうと風が耳過ぎ揚げひばり★★★★(正子添削)
ひばりが鳴く野に出ると、耳元を風がびょうびょうと過ぎる。野を吹く強い風の中、高揚がるひばりの姿が力強い。(高橋正子)
ほろ苦き菜の花和えの夕餉かな★★★