鴨着く島

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混迷の鹿児島県知事選

2020-07-13 08:51:12 | おおすみの風景
予想通りというか、意外というか、解釈は様々だが、私としては意外であった。

というのは、49.84パーセントという低い投票率である(総投票数は66万2千票)。

自分の予想では、50パーセント以下だったら、自民・公明両党の推薦を取り付け、それなりの組織票と広がり票を持っている両党の支持票が盤石だろうから、現職の三反園氏が有利と踏んでいた。

しかも、本来なら自民・公明両党の支持を得ていたであろう保守系の二人で、どちらも国家官僚あがりの元職の伊藤氏、新人の塩田氏が結局一本化せずに、並んで立候補したのだ。

確かに自民や公明の保守票の中に「反現職」もいたことはいたが、彼らが二人のどちらに一票を入れても、がっちりした両党推薦の支持基盤の前に、残念ながら結果としては票が割れてしまい二人とも落選だろう、と思っていたのである。

それがどうしたことか。

新人の塩田氏が22万票余り、現職の三反園氏が19万5千票、元職の伊藤氏が13万票余り(4位に新人で元民放の女性アナウンサー青木氏が5万6千票と健闘)と、わずか2万8千票の差で塩田氏が現職を破った。

前回は反保守・脱原発を掲げて戦った三反園氏が、現職で初の4選知事を目指した伊藤氏に8万票の大差をつけて勝ったことと比べると、たった4年とはいえ「今昔の感」がする。

何しろ前回、自民・公明両党は伊藤氏を推薦していながら負けたので、今回は「勝ち馬」に乗ろうと現職の反保守の三反園氏推薦に回ったのも「今昔」だが、三反園氏も三反園氏で、勝つためには組織票だとばかり、反保守だったはずのスタンスを投げうって自公に擦り寄ったのも「今昔」である。

これが裏目に出たのかもしれない。どこでも「変節漢」は嫌われるわけで、そこを嫌った自民支持者が意想外に多く、新人支持に回ったのだろう。

さらに、特に女子層に多い「脱原発・反原発」支持者が、前回は大いに期待して三反園氏に一票を入れたのだが、「脱原発」を掲げた他党連合候補の立候補を断念させ、政策合意したにもかかわらず、知事就任後に彼との約束を全く反故にしてしまったことも、「変節漢」の資格充分で、三反園離れにつながったはずだ。

昨夜は9時半頃に開票率80数パーセントを過ぎても、三反園氏が塩田氏を1万5千票余りリードしていたのだが、10時半になると塩田氏の「当確」が表示された。これは大票田の鹿児島市の開票がどんどん進み、出口調査などの結果を勘案してコンピューターがはじき出したからだろう。

11時半にはほぼ開票が100パーセント近く、すでに塩田氏が2万票余の差をつけて「当選」となった。元職の伊藤氏は意外な「善戦」で、かれがあと3万票を上積みしていたら塩田氏の当選はなかったかもしれない。塩田支持者は冷や冷やものだったろう。「やることはすべてやった。悔いはない」と言ったが、老兵は早くに去るべきだった。

今回の知事選は昭和22年(1947年)に始まった知事の選挙史上、最多の7人という候補者が出たわけだが、それなりに盛り上がるかと思われた。しかし新型コロナ禍が足を引っ張ったのだろう。

立会演説も演説会もほとんど開かれず、それではと民放が主催した「立候補者合同演説会」には、現職の三反園氏が「コロナ対策で多忙」という選挙民をないがしろにしたような理由で一度も参加しなかったが、これも三反園離れに拍車をかけたに違いない。

大票田の鹿児島市で塩田9万3千、三反園4万9千と4万票余りもの差がついたのは、いわゆる浮動票の多くが塩田氏を選んだのだろう。多分同じ浮動票は、前回は三反園氏を選んでいたはず。まさにしっぺ返し。

今度の知事選の現職敗退の原因は、現職の変節が一番大きいが、自民・公明の「不動票」が実は「浮動票」化していたことにある。鹿児島市では本来の「浮動票」に加えて、「不動票」の中の「浮動票化した票」があったのだ。

大隅地区では、どの市町村も現職の三反園氏への票が多かったのも想定外だった。浮動票が一番多いだろうと思われる10万都市鹿屋でも、塩田9800票に対し三反園1万2千票と25パーセントの差であった。「保守王国」なら本来の保守である塩田氏に入れそうなものだが、自民党の推薦を受けた以上「保守に寝返った」にしても、三反園氏に一票を投じたのだろう。

どの候補も鹿児島の地域格差をなくそうという掛け声はするのだが、大隅地区のことを念頭に置いた公約はほぼなかったのは残念だった。

ただ、当選した塩田氏は一箇所「肝付町の県立南隼中高一貫校は全寮制を外し、共学にする」と公約にあり、注目に値する。元職の伊藤知事の時代に50億円をかけて全寮制に新装し、県立でありながら生徒は地元だけでなく全国からも集めるという妙な体制の学校になっている。

私はこの学校を「県立短大か県立大学」に改組できないかと思っている。大隅地区では地元の高校を出ても鹿屋体育大学以外に進学できる上級学校はなく、ほとんどすべての学生は下宿を余儀なくされる他地方・都府県にある学校や専門学校に行かざるを得ない。

進学する子供はいいにしても、送り出す親たちの経済的困難は計り知れない。おまけに出て行った子供たちが卒業後に帰って来るかと言えば、まず10人にひとりだろう。かくして大隅地区からは若者がどんどん流出していくばかりだ。

鹿屋市立女子高も最近リニューアルした。内容はよく分からないが外観は素晴らしい。ここも短大化はできないものか。最低でも専攻科を設置して短大卒程度の資格が得られるようにすれば、親の負担も少なくて済む。

もう一つ言えば、リモート大学の設置だ。コロナ禍でオンライ授業が普通になりつつある。大学の一般教養科目や、専門でも実験を伴わないような科目はオンライン可能だろう。その視点での高等教育機関を設置するのも「with corona」時代のありようではないか。

この辺りは、若い知事に期待したいところだ。