鴨着く島

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寅さんの「恋愛界隈」の終焉

2025-02-13 09:41:52 | 日記
最近の流行語に「界隈」というのがある。

「界隈」とはもともと「近所・近隣」を表す地理的な用語だったのだが、流行語としては「近い関係」的な意味で使われているようだ。

例えば「猫界隈」「犬界隈」などペットの話題を共通の趣味とするSNS上のコミュニティなどが挙げられるらしい。

自分などはもう18年になるこのブログに載せるテーマが趣味上最大の「界隈」だが、中心の話題に絞れば「邪馬台国界隈」となろうか。

邪馬台国界隈にハマる人は枚挙にいとまがないが、先日の朝のNHKテレビ小説「おむすび」を見ていたら、主人公一家が福岡県の糸島から両親が結婚直後に理髪店を開いていた神戸市のとある商店街の場面で、登場した「ヒミコ」という名の謎めいた女性(俳優のピーター)が次のように言っていた。

――邪馬台国が九州に在ろうが、近畿に在ろうが、そんなことはもうどうでもいいじゃない・・・。

配役名のヒミコからして訳ありなのだが、そんなヒミコをしてこう言わしめたのは、原作者の初めからの意図だったのか、それとも福岡県糸島という例の「伊都国」と絡めた邪馬台国論を念頭に置いた述懐なのか、分からないでいる。

(※もちろん私の邪馬台国は九州説で、筑後の八女市「界隈」なのだが、その論拠についてはここでは触れないでおく。)

さて近頃、3作連続してあの「寅さん」(男はつらいよ)を鑑賞した。

具体的に言えば、第46作「寅次郎の縁談」・第47作「拝啓車寅次郎様」・第48作「寅次郎紅の花」で、例によって寅次郎の「恋愛界隈」を彩るマドンナを挙げておくと「松坂慶子」「かたせ梨乃」「浅丘ルリ子」である。

この作品の封切り年は46作が平成5年12月、47作が平成6年12月、48作が平成7年12月であった。

特にシリーズ最後の48作目は、封切りの年の初めに阪神淡路大震災が起きており、映画の中に神戸の被災地を歩く寅次郎が、さくらたち「とらや」の茶の間のテレビの中に映り込んでいるというちょっとしたドキュメンタリー仕立てになっていて、興味がそそられた。

46作でついに寅次郎も長年の「恋愛界隈」(独身生活)に区切りをつけるのかと思ったら、そうではなく、47作目に持ち越し、さらにとうとう最後の48作目で、北海道で知り合った地方回りの歌手「リリー」に再々会し、どうやら大団円を迎えることになった。

そのリリーが住んでいたのは鹿児島県の奄美大島の離島「加計呂麻島」だった。

そこに寅さんの甥っ子の諏訪満男(妹さくらの子)が失恋の挙句に加計呂麻島にやって来て寅さんと出会うのだが、満男は初恋の「泉」の結婚式を手荒いやり方でぶち壊した果てに傷心のまま島に渡って来たのだった。

こんなところは寅さんの恋談義とは全く違うところだ。

では満男が初恋の泉と結ばれたかというと、どうもそうではなかった。それは2019年に上映された『男はつらいよ50・お帰り寅さん』で明らかになる。満男は娘一人と暮らしている小説家になり、泉は国際機関の職員になっていたというのだ。

『男はつらいよ50』の「50」とは、第1作から50年後という意味で、昭和44(1969)年8月に発表されてから満50年経っていたのである。

寅さん役の渥美清という人は昭和3(1928)年生まれで、平成8(1996)年に亡くなっているが、もとは浅草の芸人だった人(46作にちょい役で出ていた関敬六という人は仲間だった)で、40歳を間近にしてテレビ映画に出てから人気を得、監督山田洋次のアイデアにより諸国放浪の役柄に充てられて花開いた俳優である。

諸国放浪者とは江戸時代に見られた無宿者(やくざ)の代名詞で、どうやら山田洋次があの「瞼の母」の番場の忠太郎をモデルにしたようなのだが、それを昭和の時代に置き換えたのがミソで、そのため寅さんシリーズでは色濃く昭和の風景が登場する。

例えば昭和50年に国鉄から蒸気機関車の運行がなくなったのだが、それを記録に残しておこうとする配慮があったのだろう、昭和50年上映の16作まで各地の国鉄路線が登場し、中でも蒸気機関車の走る場面が頻繁に出ていた。

また平成元年(1989年)の第42作までは一年に2作が封切られ、そのうち二回目の12月のは正月の凧揚げの風景や祭りが取り入れられているのが多い。

さらに旧街道のような街並みが残っている所を、山田洋次監督は好んで撮影場所にしているようだ。

しかし平成2年以降は俳優渥美清も60歳を超えたため、1年1作となりついに平成7年の48作を以てシリーズは終焉を迎えた。

平成7年1月17日に発生した阪神淡路大震災の時、さすがの寅さんも角型の皮のトランクを下げて被災地を歩くのに精彩がなくなっていたのを見ると胸苦しくなった。

ありがとう寅さん、ビデオでまた会おう!

さくらもひろしも(まだ存命だ)、おじちゃん、おばちゃん、たこ社長もな。

マドンナとして寅さんの「恋愛界隈」に登場した女優たちにも敬意を払いたい。特に浅丘ルリ子(4回登場)、竹下景子(3回)、吉永小百合(2回)、栗原小巻(2回)、松坂慶子(2回)、大原麗子(2回)、光本幸子(2回)、その他28名の女優は1回。錚々たる女優群である。

(※また甥の満男(吉岡秀隆)の初恋の泉役の後藤久美子は母役の夏木マリとともに5回も出演している。)



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