渡辺武著 わかりやすい漢方薬
第三章 漢方薬は何に効くか
3 コレステロールがたまらぬ法
p181 紅花の紅より種子から油を
アメリカのカリフォルニア州といえば、テキサスに次ぐ広大な面積をもつ州です。
南北を走る山脈と山脈の間に、砂漠のように乾燥した大地があります。
この砂漠の水の少ない地域には、乾燥に耐え得る植物が必要でした。その一番にあげられるのはピーナッツですが、もっと耐えられる植物はないかと、カリフォルニア大学では、世界を股にかけて探したところ、東洋のアザミの花が乾燥地に耐える植物だとわかって、アザミの種子を輸入して植えました。
このアザミの花は、日本では紅花といい、昔から山形が主産地で、化粧の口紅、菓子などの着色料に使われてきたキク科の一年草、漢方では腫瘍や口内炎の薬草といわれています。
もともと、この紅花はエジプト産。
英国に渡りインドに行き、シルクロードを通って唐時代に中国に入りました。
そして朝鮮を通って日本に入った植物ですが、大西洋は渡れませんでした。
アメリカ大陸にはない植物だったのです。
カリフォルニア大学がこの紅花に注目したのは、着色料としてではありませんでした。
花より種子である実に興味を持ったのです。
この実からとれる植物油は、リノール酸が七〇%もあり、人間が食べた動物脂肪を溶かす植物油としては、最高の効果のある油だったわけです。
いわゆる美容ビタミンとか、肥満、脂肪太りをスマートにするビタミンFといっていますが、ゴマ油にも五〇%以上入っています。
実は日本でもこの紅花の研究はお茶の水女子大学教授の黒田ちか先生が、師弟三代にわたって研究されていましたが、種子まで及んでいなかったのです、戦後すぐにカリフォルニア大学が紅花を荒野に植えつけ、いち早く油を採ることを考えて、すっかり研究のお株をうばってしまいました。
紅花はいまではカリフォルニア州の百万ドル作物として栽培されているのです。
中国では、文献によると、宋時代にすでに、紅花からとれる油は、高血圧の薬として発見されています。
現在、アメリカではこの紅花の植物油は、食用、塗料などに広く使われています。
東京のてんぷら屋さんでは、アメリカからこの植物油を輸入して「コレステロールに一番いい油ですよ」と使われていますが、もとは日本からはるばるカリフォルニアに渡った紅花だったわけです。
アメリカ人は、日本人のてんぷら料理から、植物油が脂肪を溶かすことを知り、日本から紅花の種子を持ち帰り、広大な荒野に植えて、油をしぼり取り、逆に日本にその油を輸出しているのですから、江戸時代から営々と着色料として紅花を栽培してきた山形の人たちにすれば、とぼけた話というほかはありません。
しかし、日本人は生活の知恵で、魚や肉やエビを植物油で揚げていたわけですが、これがコレステロールの蓄積を防ぎ、高血圧にかからない食物だったとは、食べている御当人はとんと御存知なかったことではないでしょうか。
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