ホワイトレディーとマティーニ(後編)
高層階から望む展望もよいが、閉ざされた異空間は格別だ。
秘密めいており、展望よりも、会話と酒に夢中になる。
窓外の眺望は時として、二人の距離を広げてします。
女が飲むホワイトレディーは、甘味と酸味が程よく調和している。
適度のアルコール度数が女性に人気を得ている。
この酒の生まれは、約100年前、ロンドン「シローズ・クラブ」で
産声を上げた。
その後、「ハリーズ・ニューヨーク・バー」で、ベースを
ジンに変えたことから人気を博した。
つまり、ベースのジンをブランデーに変えれば、「サイド・カー」、ウォッカに
変えれば「バラライカ」ラムに変えれば「X・Y・Z」になる。
特に卵白をくわえたレシピが日本では人気である。
今、女が飲むのもこの卵白入りである。
さて、目の前の女は、まさに、ホワイトレディーであった。
色白で、言葉遣いも体全体から醸成される色香も淡いレモンの色が立ち込め
そうで、洗練された味わいを印象付ける女である。
無論、顔のパーツ一つ一つは、平凡である。
しかし、全体の印象と、伸びた背筋、服と雰囲気は、洗練されたものである。
ホワイトレディーが人間の形をして出てきたようだ。
ふと、バーテンダーは我に返った。
女が声をかけたからだ。
「ナッツをいただけますか」
バーテンダーは、男の注文と感じた。
しかし、食したのは女であった。
「わたし、これ好きですの。」
女は、“好き”にイントネーションをかけて、男の横顔を覗きながら、
甘くささやく。
バーテンダーには、以外であった。
やはり、現代女性だ。
それでも、なぜか嫌味はない。
むしろ、人間味があり、好感を抱いた。
女は、男との会話を続ける。
「自信の話ですが、朝晩の“夢”だけではないでしょう。」
「教えてくださらない。私も、実践したいから。」
男は、はにかみながら、呟いた。
「君は昔、剣道をしていたから、知っていると思う。剣道三段だったね。」
「想像というかイマジネーションと普段の積み重ねかな。」
「相手の動作を読む。それは、普段の練習あればこそ。」
「最初はうまくいかない、継続すれば同じことも上手にできる。」
「そのうち、考えなくても、体が動く。自然に対応できる。」
「自然体になった自信は強いと思う。ちがうかな?」
「そうね。判るわ。」と女が答え、続けて、
「なんにでも、言えることですね。」
バーテンダーは、剣道三段の話だけ脳裏に残った。
なるほど、女の背筋の伸びと凛とした雰囲気は、それが原因か。
ふと、防具の面を脱いだ瞬間を想像してしまった。
面タオルを外した瞬間の長い黒髪が、なんともすがすがしく、
周囲を圧倒する美しさをかもし出す。
女剣士か。なるほど、顔を隠しても美しい。
(女は美人ではないが、美しい。)
ホワイトレディーが実は、女剣士か。
和服の似合う女剣士。
男を立てるすべを持つ、芯のある強い女か。
またまた、手より頭を動かしていたバーテンダーは、酒の注文に我を取り戻した。
きっちり、二杯を飲み終えた二人は、席を外す。
「ありがとうございました。」・・・
「お世話になりました。」という男の声は楽しい時間を過ごした店へのお礼でもあった。
バーテンダーは、ふと、また来られることを望んだ。
「お待ちいたしております。」と聞こえない後姿に声をかけた。
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本作品は、すべてフィクションです。登場人物及び店名・バーテンダー
についても同様です。
悪しからず、ご了解願います。
高層階から望む展望もよいが、閉ざされた異空間は格別だ。
秘密めいており、展望よりも、会話と酒に夢中になる。
窓外の眺望は時として、二人の距離を広げてします。
女が飲むホワイトレディーは、甘味と酸味が程よく調和している。
適度のアルコール度数が女性に人気を得ている。
この酒の生まれは、約100年前、ロンドン「シローズ・クラブ」で
産声を上げた。
その後、「ハリーズ・ニューヨーク・バー」で、ベースを
ジンに変えたことから人気を博した。
つまり、ベースのジンをブランデーに変えれば、「サイド・カー」、ウォッカに
変えれば「バラライカ」ラムに変えれば「X・Y・Z」になる。
特に卵白をくわえたレシピが日本では人気である。
今、女が飲むのもこの卵白入りである。
さて、目の前の女は、まさに、ホワイトレディーであった。
色白で、言葉遣いも体全体から醸成される色香も淡いレモンの色が立ち込め
そうで、洗練された味わいを印象付ける女である。
無論、顔のパーツ一つ一つは、平凡である。
しかし、全体の印象と、伸びた背筋、服と雰囲気は、洗練されたものである。
ホワイトレディーが人間の形をして出てきたようだ。
ふと、バーテンダーは我に返った。
女が声をかけたからだ。
「ナッツをいただけますか」
バーテンダーは、男の注文と感じた。
しかし、食したのは女であった。
「わたし、これ好きですの。」
女は、“好き”にイントネーションをかけて、男の横顔を覗きながら、
甘くささやく。
バーテンダーには、以外であった。
やはり、現代女性だ。
それでも、なぜか嫌味はない。
むしろ、人間味があり、好感を抱いた。
女は、男との会話を続ける。
「自信の話ですが、朝晩の“夢”だけではないでしょう。」
「教えてくださらない。私も、実践したいから。」
男は、はにかみながら、呟いた。
「君は昔、剣道をしていたから、知っていると思う。剣道三段だったね。」
「想像というかイマジネーションと普段の積み重ねかな。」
「相手の動作を読む。それは、普段の練習あればこそ。」
「最初はうまくいかない、継続すれば同じことも上手にできる。」
「そのうち、考えなくても、体が動く。自然に対応できる。」
「自然体になった自信は強いと思う。ちがうかな?」
「そうね。判るわ。」と女が答え、続けて、
「なんにでも、言えることですね。」
バーテンダーは、剣道三段の話だけ脳裏に残った。
なるほど、女の背筋の伸びと凛とした雰囲気は、それが原因か。
ふと、防具の面を脱いだ瞬間を想像してしまった。
面タオルを外した瞬間の長い黒髪が、なんともすがすがしく、
周囲を圧倒する美しさをかもし出す。
女剣士か。なるほど、顔を隠しても美しい。
(女は美人ではないが、美しい。)
ホワイトレディーが実は、女剣士か。
和服の似合う女剣士。
男を立てるすべを持つ、芯のある強い女か。
またまた、手より頭を動かしていたバーテンダーは、酒の注文に我を取り戻した。
きっちり、二杯を飲み終えた二人は、席を外す。
「ありがとうございました。」・・・
「お世話になりました。」という男の声は楽しい時間を過ごした店へのお礼でもあった。
バーテンダーは、ふと、また来られることを望んだ。
「お待ちいたしております。」と聞こえない後姿に声をかけた。
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本作品は、すべてフィクションです。登場人物及び店名・バーテンダー
についても同様です。
悪しからず、ご了解願います。