川越芋太郎の世界(Bar”夢”)

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ホワイトレディーとマティーニ(後編)

2009-05-28 22:09:17 | 短編集バー物語
ホワイトレディーとマティーニ(後編)



高層階から望む展望もよいが、閉ざされた異空間は格別だ。
秘密めいており、展望よりも、会話と酒に夢中になる。

窓外の眺望は時として、二人の距離を広げてします。


女が飲むホワイトレディーは、甘味と酸味が程よく調和している。
適度のアルコール度数が女性に人気を得ている。
この酒の生まれは、約100年前、ロンドン「シローズ・クラブ」で
産声を上げた。

その後、「ハリーズ・ニューヨーク・バー」で、ベースを
ジンに変えたことから人気を博した。

つまり、ベースのジンをブランデーに変えれば、「サイド・カー」、ウォッカに
変えれば「バラライカ」ラムに変えれば「X・Y・Z」になる。
特に卵白をくわえたレシピが日本では人気である。

今、女が飲むのもこの卵白入りである。


さて、目の前の女は、まさに、ホワイトレディーであった。
色白で、言葉遣いも体全体から醸成される色香も淡いレモンの色が立ち込め
そうで、洗練された味わいを印象付ける女である。

無論、顔のパーツ一つ一つは、平凡である。
しかし、全体の印象と、伸びた背筋、服と雰囲気は、洗練されたものである。
ホワイトレディーが人間の形をして出てきたようだ。


ふと、バーテンダーは我に返った。
女が声をかけたからだ。

「ナッツをいただけますか」

バーテンダーは、男の注文と感じた。
しかし、食したのは女であった。
「わたし、これ好きですの。」
女は、“好き”にイントネーションをかけて、男の横顔を覗きながら、
甘くささやく。

バーテンダーには、以外であった。
やはり、現代女性だ。
それでも、なぜか嫌味はない。
むしろ、人間味があり、好感を抱いた。


女は、男との会話を続ける。

「自信の話ですが、朝晩の“夢”だけではないでしょう。」
「教えてくださらない。私も、実践したいから。」


男は、はにかみながら、呟いた。

「君は昔、剣道をしていたから、知っていると思う。剣道三段だったね。」
「想像というかイマジネーションと普段の積み重ねかな。」

「相手の動作を読む。それは、普段の練習あればこそ。」

「最初はうまくいかない、継続すれば同じことも上手にできる。」
「そのうち、考えなくても、体が動く。自然に対応できる。」

「自然体になった自信は強いと思う。ちがうかな?」


「そうね。判るわ。」と女が答え、続けて、
「なんにでも、言えることですね。」


バーテンダーは、剣道三段の話だけ脳裏に残った。
なるほど、女の背筋の伸びと凛とした雰囲気は、それが原因か。

ふと、防具の面を脱いだ瞬間を想像してしまった。
面タオルを外した瞬間の長い黒髪が、なんともすがすがしく、
周囲を圧倒する美しさをかもし出す。

女剣士か。なるほど、顔を隠しても美しい。
(女は美人ではないが、美しい。)


ホワイトレディーが実は、女剣士か。
和服の似合う女剣士。

男を立てるすべを持つ、芯のある強い女か。


またまた、手より頭を動かしていたバーテンダーは、酒の注文に我を取り戻した。

きっちり、二杯を飲み終えた二人は、席を外す。



「ありがとうございました。」・・・


「お世話になりました。」という男の声は楽しい時間を過ごした店へのお礼でもあった。


バーテンダーは、ふと、また来られることを望んだ。
「お待ちいたしております。」と聞こえない後姿に声をかけた。

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本作品は、すべてフィクションです。登場人物及び店名・バーテンダー
についても同様です。
悪しからず、ご了解願います。

マティーニ(前編)

2009-05-28 12:13:03 | 短編集バー物語
マティーニ(前編)

新宿都庁前、「オードヴィー」ホテル3階にたたずむバーは、
外見以上に重厚で静かであった。
店内は黒とオーク色で統一されたシックな装いで、まるで
若者を拒むようである。
まさに、大人の空間といえる。

豪華で大きなシャンデリアをくぐり、3階に上ると「生命の泉」を表明した
異空間が開ける。
男は、ここに女を誘う。


男のオーダーは、「マティーニ」
そう、いつものとは違う。
女は、「ホワイトレディー」
こちらも、いつものとは違う。

マティーニとは、「カクテルの帝王」と称されるカクテル中のカクテル。
男が帝王であるかは、別として、年齢からして、まだまだ帝王とはゆくまい。
さて、このマティーニは、初見えのお客から注文をされたバーテンダー
は、緊張する。

ジンとベルモットというシンプルな材料で組み合わせる。
まさに、バーテンダーの酒選びと技量に大いに味が左右される。
そのことは、初見えのお客とバーテンダーとの勝負でもある。


男は、バーテンダーが用意した大き目のカクテルグラスを眺めている。
オリーブが眠る、透き通る小世界。
口に運ぶと、男が考えたとおり、辛口の大きなうねりが押し寄せる。
美味である。
男は、一言、バーテンダーに向かい「ありがとう。」と微笑む。

マティーニは、チャーチルの酒で有名であるが、これまた、無数のレシピが
あることも事実だ。
今回の酒は、ビフィータジンとチンザノベルモットのカクテルにした。
バーテンダーは通常はタンカレージンを利用しているが。
どうやら、この「ありがとう」は、ビフィータジンを利用したバーテンダー
へ感謝の意を込めたものらしい。

女が、「一口いいかしら」と男にねだる。
細い喉越しに染み透る音がするようだ。
「美味しい」。「また、来ましょう。」
男は、「まだ、来たばかりだよ。」と女の瞳を見つめながら、
「もちろん」という意味を込めていった。

丁度、二杯目を注文した合間に、女が呟く。

「ねえ、今日はどのくらい儲かりました。」
なんとも、現実的な質問である。
夢とロマンと愛を語る異空間には、そぐわない。
しかし、この女が発するとまったく嫌味がない。

むしろ、男の心の奥底に眠る勇気やプライドを刺激する。
男は、何気なく、「今日のこの一杯が飲める程度かな。」とささやきながら、
軽く笑う。
そう、これは、大分利益を得ているときの言い方だ。

女は男のこの“自信に裏打ちされたやさしさ”が好きであった。
女は男に尋ねた。
「自信の秘訣、伝授していただける!」

男は、「秘訣かどうかわからないが、マインドコントロールかな。」
「“夢”だよ。」
男は笑いながら、続ける。
「夜寝るときに、夢を描く。そう、成功した自分をね。」
「朝も、体に芯を入れる。元気マンタン、○○できるとね。」

男はさりげなく続ける。
「そう、昨晩も、君と会えると夢に描き、朝から君とのシーンを想像した。」
そしたら、「朝一番で、誘うことができた訳だ。」


どうやら、この二人は、会社関係の付き合いか。
仕事は、不動産業か。
いや、洗練された雰囲気は、金融関係かも知れない。
バーテンダーは、目の前で交わされたこの一言で空想の世界にいた。
                                 (続く)


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本作品は、すべてフィクションです。登場人物及び店名・バーテンダー
についても同様です。
悪しからず、ご了解願います。

モスコミュール&サントリーウィスキー 山崎18年(後編)

2009-05-26 09:18:56 | 短編集バー物語

モスコミュール&サントリーウィスキー 山崎18年(後編)

いらっしゃいませ。

いつものお席でよろしいでしょうか。

男は、「お願いします。」といいながら、
女の腰に手添えて、軽快にエスコートする。

男はいつもの定席につくと、目線が「山崎18年」のボトルに行く。
目線を感じて、バーテンダーはボトルに手を伸ばす。
男は決してボトルキープをしない。
キープすべき頻度であるが。

バーテンダーは理由を問わない。

女は、やはり、男の左手に席をとる。
バーテンダーの脳裏に探求心が宿る。
バーテンダーは、2つの事をを忌み嫌う。
一つは、お客様の秘密を口外する。
一つは、お客様の話に聞き耳を立る。

まだまだ若いバーテンダーには、好奇心が勝つようだ。
一番最初に来られた時は、確か、奥の落ち着いた列車に
ご案内した。
ボックス席である。
通常、女性はボックス席が好きだ。
手荷物の置き場を求めるため。

最初は、ボックス席に二人並んで腰掛けていた。
重厚な絨毯と豪華なボックスシートが似合う二人である。
女は、男の右側に。

山崎18年をオンザロック。
残念ながら、そのときの女の注文を思い出せない。
いつものとは、違うような気がした。
傍目からも、男が女を酒に招待した雰囲気であった。

食事を経験した仲であろう。
酒は初めてのようだ。
落ち着いた雰囲気のいい感じの女だ。
男との年齢差が醸し出すのか、
ゆったりとした時間が流れている。

記憶を紐解きながら、そんな時間を楽しんだ。
モスコミュールに替わった頃から、女の位置が替わった。
そう、最初はワインだった。
モスコミュールは日本では有名なカクテルだ。
モスクワのラバといわれ、キック力のある酒である。

ウォカ+ライムジュース+ジンジャエール
日本では本来のジンジャービアーが手に入りにくい。
流行はほんのり甘めである。

本来の意味を知っているのか。
その口当たりの強さから、“モスクワのラバ(強情者)”という名前が
つけられたカクテルであることを。

目の前の女は以外と芯がしっかりしているのかもしれない。
バーテンダーは優しい笑顔が似合う女の横顔を垣間見た。
若いが落ち着いた知的な女だ。

今日も、きっかり二杯で二人は店を去る。
「すがすがしくも、優しい空気」を残して。
今日も、いい気分で仕事ができそうだ。
バーテンダーは二人に感謝した。
「ありがとうございます。」

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本作品は、すべてフィクションです。登場人物及び店名・バーテンダー
についても同様です。
悪しからず、ご了解願います。

サントリーウィスキー 山崎18年(前編)

2009-05-25 19:13:47 | 短編集バー物語
サントリーウィスキー 山崎18年(前編)


男はこのバーによく来る。
来るといっても商用や社用に利用することはない。

バーの名前は、「オリエントエクスプレス」
有名な特急オリエントエクスプレスを模して造った店内が
特徴的だ。
池袋には珍しい、雰囲気のある店である。

店内は、3つのブロックに分かれる。
クロークから右手に2台の列車、左手に列車バーカウンターが
配置されている。
一番手前は、少し明るい絨毯とソファである。
奥手の列車は、重厚で落ち着きがある。
また、カウンター席を設えた第三の列車は鏡窓である。

今日も二人でやってきた。
二人は、バーカウンター席が定石だ。
こちらも、列車のカウンターに腰掛けた感じである。

調度品はオークで統一され、大きな鏡が、まるで列車の窓のように
配置されている。

男は、女を左手に案内し、自らは女の右側に席をとる。
いつからであろうか。
バーデンダーは「ふと」思い出してみた。
当初、この二人が来始めた時は、席が逆であった気がした。
そう、女の心臓側に常に男が席を取った。
いまは、逆である。

男は、ウィスキー山崎18年ものを注文し、
女はモスコミュールである。
芳醇な山崎18年が似合う年頃の男である。

男の飲み方は、オンザロック。
オーバーアイスとかオーバーザーロックなどと呼ばれ、
香と繊細さを味わうにはちょうど良い飲み方である。
時間の経過とともに、穀物や樽の味が漂う。
まさに、男の年齢にふさわしい、落ち着きのある飲み方だ。

女は長身で細身であるが、何所となく品位がある。
それでいて、ビジネスウーマンらしく、パンツ姿である。
飛び切りの美人ではないが、その笑顔がバーテンダーも好きだ。

この商売をしていると美人を見ることが多い。
しかし、この女は、美人ではないが、安らぎの笑顔がある。
いい女である。

男と女は、2杯を空けたら、必ず、席を立つ。
二人が離席した後の空気はやさしい。
まるで、二人の気配が残るように。
「また、お越しください。」
空席に向かい、再度、呟いていた。

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本作品は、すべてフィクションです。登場人物及び店名・
バーテンダーについても同様です。
悪しからず、ご了解願います。


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2009-05-24 17:27:05 | 日記
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