5月3日~5日の3日間、静岡エコパアリーナで電動車椅子サッカーの全国大会が3年ぶりに開催された。
初日は制限速度6km競技(パワフル6)、2~3日目は国際ルールに準じた制限速度10km競技であるマックス10=第6回パワーチェアーフットボールチャンピオンシップジャパン2022と、2つのカテゴリーの大会が行われた。
マックス10もパワフル6同様、県外を超えての参加が難しい選手がいて参加人数が少なかったり、練習が満足にできないチームもあったりで、コロナ禍の影響を大きく受けた大会となった。
決勝は、金沢ベストブラザーズとRed Eagles 兵庫の対戦。
金沢ベストブラザーズは初の決勝進出となった。63歳の長瀬義則にとっては、1996年第2回大会で当時所属していた名古屋のAMFCエスカルゴで優勝して以来、実に26年ぶりの決勝進出となった。
金沢が決勝に駒を進めた原動力は、その長瀬と監督も兼ねる城下歩の強烈なセットプレーだった。長瀬が強烈な回転キックで脇にいる城下歩へ、城下がそのボールをうまくコントロール、高速シュートが面白いように相手ゴールを陥れた。
多少2人の距離を空けたツインシュートである。
その威力にレインボーソルジャー(東京)、DKFBCディスカバリー(愛知)、Yokohama Crackersが沈んだ。
一方のRed Eagles 兵庫は2019年大会以来、2大会ぶりの優勝を目指す。1回戦でプログレス奈良に10-0の大量得点差勝利、2回戦ではFCクラッシャーズに1-0、準決勝では3人のNanchester United鹿児島に先制されるものの2-1と逆転勝利し、決勝まで勝ち上がってきていた。
大会には15チームが参加しトーナメント制で日本一が争われた。時計の針を1回戦の第1試合に戻し、振り返ってみることにする。
(記述量に差があるのはご勘弁を。ずっと会場にいましたが観客席から同時キックオフの試合を首を振って交互に観たり、撮影もしたりしなかったり、疲れて頭がぼーっとしていたりで情報にムラがあります。言い訳ばかりですいません。誤りがあればご指摘ください。ちなみに自分にとっては11回目の全国大会でした)
1回戦
●SFCデルティーズと大阪ローリングタートルの対戦。
デルティーズは地元静岡のチーム、近年静岡で大会が開催される場合が多くこのところずっと地元である。
一方の大阪大阪ローリングタートルは公式戦デビューが3人というフレッシュなメンバー。
5人全員がフットガードの色が違うというカラフルなチームでもあった。
開始早々ローリングタートル宮川の右コーナーキックがオウンゴールを誘発し大阪が先制。
しかしデルティーズも石脇将太の左CKを中村康則がシュート、GKが弾くがニアに詰めた石脇が押し込んで同点。前半終了間際にはローリングタートルがカウンターからGKと2対1の状況になり、北村一輝からのパスを中村祐太が押し込んで勝ち越す。中村は映画「蹴る」を観て電動車椅子サッカーを始めたそうで、公式戦初ゴールとなった。
後半、ローリングタートルは宮川がGKとの1対1を制して3-1と突き放す。
その後、デルティーズは石脇と中村で何度かチャンスをつくりだすものの初戦で敗退。
大阪ローリングタートルはなかなかのチームのまとまりを見せ2回戦へ進んだ。
●Safilva(北海道)VS YOKOHAMA Bay Drea
先制したのはYokohama Bay Dream。前半12分高林貴将が中央で競り合い左の菅野正紀へ、菅野のシュートがきまり先制。16分には高林のキックインから菅野が2点目を奪う。Safilvaも後半1点を返すが、Bay Dreamが”2-1で勝利、2回戦に駒を進めた。
北海道からの参加は3名。札幌、帯広、函館とかなり距離が離れているという。
●プログレス奈良VS Red Eagles兵庫
Red Eagles兵庫は、前半は内海恭平が3ゴール、山田貴大の2ゴールで5-0、後半なおも 内海、山田、中村哲智が得点を積み重ね、Red Eagles兵庫が10-0での大量得点差勝利となった
●BLACK HAMERS(埼玉)VS Nanchester United 鹿児島
BLACK HAMERSは制限速度6kmのパワフル6から10kmのマックス10に戦いの場を移してから初の全国大会。
Nanchester United 鹿児島は映画「蹴る」でも中心に描いた東武範が参加できないなどで、大会に参加できたのは3名。さらに安藤心晴が試合前のスピードチェックで引っかかってしまい、2名での先発となった。しかし塩入新也がたった一人で前半に3点を奪ってしまう。
電動車椅子サッカーには2on1(ツーオンワン)というルールがあり、1人にプレーヤ2人で守備にいってはならない。つまり1対1で競り勝てばゴールエリアまで侵入できる。ゴールエリア内ではGKともう1人の選手と2人で守ることができるが、塩入はその2人の間を抜いて先制。そして左サイドのキックインからゴールエリアに侵入しPKを獲得、きっちりと決めて2点目をあげた。さらに今度は2人の間を抜いて3点目。
セットプレーはドリブルで一人で運ぶことはできないが、ゴールに向かうボールを蹴れば相手は触らざるを得ない。そのボールを奪っては一人で攻撃を繰り返す。おそるべし塩入。
ハーフタイムまでに設定スピードを変更し安藤が入り、塩入、前田薫海と3人になったNanchester Unitedがそのまま3-0で逃げ切った。
BLACK HAMERSは Nanchester United対策をいろいろと考えていただろうが、想定外のことでかなり戸惑ったかもしれない。
●FCクラッシャーズ(長野)VS 兵庫パープルスネークス
クラッシャーズは前半3分、左サイドのキックイン森山一樹からサイドライン沿いの太田大皓へ、太田がダイレクトで折り返しファーで山浦吉貴がシュート、太田がゴール前に詰め先制。
さらに19分、飯島洸洋の左CKをニアで太田が前付きで合わせ2点目。
後半には飯島が相手ゴールキックをダイレクトで左の山浦へ、山浦が折り返し、逆サイドの太田が前付きでファーへ蹴りこみ 3-0で勝利。
クラッシャーズが2回戦へ進んだ。
●DKFBCディスカバリー(愛知) VS Yokohama Red Spirits
ディスカバリーは前回大会6km部門で優勝、満を持しての10㎞転身。
そのディスカバリーは、平西一斗の右CKを日坂義哉が合わせて先制。さらには池田恵助が右サイド敵陣深く上がっての折り返しを日坂が決めて2-0と勝利。
マックス10での初勝利となった。
●レインボーソルジャー(東京)VS 金沢ベストブラザーズ
先制点は金沢。前半終了間際2オン1でゴール中央FKのチャンスを得る。長瀬義則が時計回りの回転キックで蹴ったボールを左の城下歩が空いたファーへ蹴りこんだ。前述したツインシュートの強力版だ。
後半12分にも同じようなツインシュート、今度は空いたゴール中央へ蹴りこんで2点目。金沢が2回戦へ。
レインボーはコロナ禍、練習会場がなかなか確保できず2度しか練習ができなかったという。その影響も大きかっただろう。
2回戦
●Yokohama Crackers VS YOKOHAMA Bay Dream
Crackers は1回戦不戦勝。横浜同士の対戦となった3-0でCrackersの勝利。
1点目は三上勇輝のFKから右サイドの中山環へ、ダイレクトで中山が蹴りこみ先制。
2点目は流れのなかから左サイド永岡真理が折り返したボールをBay Dreamがクリア、こぼれ球を三上が右の中山につなぎ中山が2点目のゴール。
3点目は三上から左の永岡へ、永岡が逆サイドへ折り返し石井俊也が押し込んで3点目、横浜対決を制した。
●大阪ローリングタートル VS Nanchester United 鹿児島
3人のNanchester Unitedは、後半14分塩入新也がドリブルでゴールエリアへ侵入しPKを獲得、左隅にきっちり蹴りこみ先制。準決勝へ進んだ。
●Red Eagles兵庫 VS FCクラッシャーズ(長野)
Red Eaglesにとって大きなヤマだと感じていたクラッシャーズ戦。
Red Eaglesが前半のうちに先制点を奪った。
右サイドキックインから内海恭平がシュート、こぼれ球を宮脇太陽が押し込む形となり先制。そのまま1-0で勝利。準決勝へ。
●金沢ベストブラザーズ VS DKFBCディスカバリー(愛知)
金沢が後半4分、エリア内で城下歩が平西、池田との競り合いのなかでゴールラインを割り先制。
10分には長瀬、城下コンビの強烈なツインシュートが決まり2点目。
ディスカバリーも池田が上がったりとダイナミックな展開を見せたがゴールが奪えず敗れ去った。
だが今後もチームの伸びしろを感じるチームだった。
準決勝
●Nanchester United 鹿児島 VS Red Eagles兵庫
3人のNanchester Unitedがどこまで勝ち上がるかと思われた試合、先制したのはNanchester United。
塩入新也が1対1の競り合いの流れで右サイドへ、空いたスペースへ上がってきた安藤心春へパス、安藤は再び塩入へ、Red Eaglesの内海恭平と山田貴大が左右にふられ空いたシュートコースへ塩入がきっちりと蹴りこみ先制。
しかしRed Eaglesは前半のうちに同点に追いつく。山田が塩入との競り合いからボールをかき出しハーフウェイライン付近の内海へ、内海が逆サイドに展開、中村哲智がファーサイドに蹴りこみ同点に追いつく。
PK戦の可能性もみえてきた後半19分、Red Eagles右サイドのキックイン、山田が内海からのリターンを受け、逆サイドの宮脇太陽と大きなワンツー、前付きでゴール右隅に蹴りこむ。
3人が連動したゴールでRed Eaglesが逆転、決勝進出を果たした。
●金沢ベストブラザーズ VS Yokohama Crackers
先制点はまたしても金沢ベストブラザーズの長瀬、城下コンビのセットプレーから生まれた。ツインシュートは威力はあっても精度に欠くことが多いが、今大会の城下歩はファーが空いていればファーに、中央が空いていれば中央にと蹴り分けていた。よほど2人で練習を積みかねたのかと思いきや、県外の選手である長瀬と合わせる機会は少なく、ボールが欲しい位置だけを長瀬に伝え、それぞれが個人練習した合わせ技に近かったのだという。
前半先制点をあげた金沢ベストブラザーズは、城下が個の強さを活かし素早くチェックにいき1対1の局面を作り、相手の展開を封じ込め、パスを回させない。
クラッカーズの選手たちもボールを展開しようとはするものの、1対1の局面で無理にボールをかき出そうとするとファールを取られる可能性も高く思うようにいかない。
以前と違ってフットガード同士がぶつかると、かなり厳しくファールを取られる。
これまでの大会ではフットガードがぶつかる金属音が会場内に響くことが多かったが、今大会では声を出しての応援が禁止されていたことと相まって、タイヤと床面の摩擦音とエンジン音が静かな会場内に響いていた。
後半に入るとCrackersもボールを大きく動かし決定的な場面を作り出す。しかしゴール前では城下由香里(歩の母)が立ちはだかる。
そしてさらにツインシュートによる追加点が金沢ベストブラザーズに入り、2点のリードを奪う。
後がなくなったCrackersはリスクを冒して攻める。
そして後半19分過ぎにようやく1点を返す。左サイドの直接FKから永岡真理がシュート、跳ね返ってきたボールを右サイドの中山環へ、中山がダイレクトでシュート、ゴールを決めた。
だがなんとか金沢ベストブラザーズが逃げ切り、初の決勝進出を果たした。
決勝
Red Eagles兵庫 VS 金沢ベストブラザーズ
先制点は驚くほど速い時間だった。
開始40秒ほど、Red Eagles内海恭平が右サイドでボールを奪い、中央の山田貴大へ、山田からゴール前の下田貴之へ、下田が後方からのパスにうまく合わせてゴール、Red Eaglesが先制した。
Red Eaglesはこれまでの金沢の試合を観て、ボールを大きく動かしていこうと考えていたという。
金沢ベストブラザーズにとっては今大会初めてリードを許した展開、これまでは強烈ツインシュートで点をとり相手を焦らして勝ち上がってきた。
後半なんとか点を取りにいこうとしたものの、Red Eaglesが追加点。相手ゴール前で左右にパスを回し左の山田がシュート、こぼれ球を内海が拾い寄せてきた城下歩をうまくいなして右の中村へ、中村ダイレクトでニアに蹴りこんだ。
さらに16分には内海はゴールエリア内で2人の間をうまく抜いてダメ押し点、3-0でRed Eagles兵庫が2大会ぶり3度目の優勝を飾った。
Red Eagles兵庫は、他地域に比べると比較的練習はできたようだ。連動した攻撃も随所に見られたがその影響は少なくないだろう。
一方、金沢ベストブラザーズはあまり練習を積み重ねることができなかったようだが、やるべきことをはっきりさせることで準優勝までたどり着いた。
またセットプレーのキーマンだった長瀬義則は63歳でも輝くことでできるという、電動車椅子サッカーの一つに可能性を切り開いた。
MVPはゴールにアシストにと大活躍した山田貴大が受賞。チームの中心選手として活躍した内海恭平も、以前と比べプレーに余裕が感じられ、ピッチ全体を見れるようになってきた。
決勝は、例年であれば敗れた選手たちが熱い視線をファイナリストたちに向けピッチサイドも熱気で埋め尽くされるのだが、新型コロナウィルス感染対策で敗退後は即座に会場を後にしなければならない今大会は閑散とした様相でいさかか寂しい気もしたが、開催できたことそのものを評価せねばならないだろう。
今大会2日目(マックス10初日=5月4日)はジャトコ株式会社の方々が選手のフットガードの着脱や歪みの修正などをサポート、まさしくピットという感じでなかなか壮観であった。
今大会は日本代表監督近藤公範も全試合を視察。来年のW杯に向けて代表活動も6月から始動するという。
現在代表強化費を募ったクラウドファンディングを実施中である。https://readyfor.jp/projects/jpfa2022/announcements/213305
以下のチャンネルでは各試合の映像を観ることができます。
百聞は一見に如かず、是非こちらをどうぞ。
私の駄文も多少のガイドくらいにはなるかもしれません。
https://www.youtube.com/channel/UCZv-UAADJmJDW6NcDksMzXg