日本サッカー協会は1月15日の理事会で「障がい者サッカー協議会(仮称)」の設置を決めたそうです。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150115-00271619-soccerk-socc
これまで各障害者サッカーはサッカー協会の傘下にはありませんでした。
健常者スポーツは文部科学省、障害者スポーツは厚生労働省の管轄であり、以前より縦割り行政の弊害が指摘されてはいましたがその状態が続いていました。東京オリンピック・パラリンピック開催が決まったことにより、両者を統合するものとしてスポーツ庁の創設が検討され、文科省の外局団体としての創設が検討されているようです。サッカー協会もそういった流れのなかで、「障がい者サッカー協議会」を設置するということだったのでしょう。サッカー協会のなかで障害者サッカーをどう位置づけていくかまだまだこれからの議論になるでしょうが、大きな流れのなかでは確実に一歩前進したととらえてもよいかと思います。
またこれまではサッカー協会の傘下でない各障害者サッカー日本代表チームは、“青”ではあるものの「サムライブルー」や「なでしこジャパン」とは違うユニフォームに身を纏い世界で戦っていました。私はかつて、知的障がい者サッカー日本代表のドキュメンタリー映画を作りましたが、日本代表のユニフォームとは違う“青”を身に纏っていても日本代表としての“誇り”はなんら変わることはない!という思いを込めて「プライドinブルー」というタイトルをつけました。もちろん他の障害者サッカー日本代表も“誇り”を胸に戦っているのだと信じています。多くの選手が、サムライブルーやなでしこジャパンと同じユニフォームを着たいと思っています。しかしまた自らが切り開き作って来た歴史、エンブレムなどに愛着や誇りをもっている面もあります。
サッカーはほぼ世界中でおこなわれているダントツのメジャースポーツであるが故に、サッカーファンはサッカーを通じて世界の一端を知ることができます。自分自身もそうでした。そのことは障害という世界にも当てはまると思います。サッカーを通じることで余計な先入観なしに障害にふれることができますし、そのことから、障害とは?生きるとは?といった考えにいたることも出来るでしょう。
ただ障害といっても各々まったく違います。なかなか理解するのがむずかしい障害もあります。ある一つの障害のなかでも千差万別です。もちろん共通するものも多々あります。
障害者サッカーにはどんなサッカーがあるか簡単に概観しておきます。
各障害者サッカーに共通して言えるのは、高みを目指してガチンコで戦う日本代表クラスの選手もいれば、楽しむためにやっている人々もいて、障害も重度軽度さまざまです。
各障害者サッカーをルール別に分類し紹介していきます。映画、本なども簡単に紹介しておきます。
基本的に11人制サッカーと同じルールで行われているサッカー。一見しただけでは障害があるかないかわからない場合も多い。知的障がい者サッカーとろう者サッカー。
① 知的障がい者サッカー 日本知的的障がい者サッカー連盟 http://jffid.com/
知的障害者によるサッカー。抽象概念を把握することが苦手な者が多いので守備の連携などの面が課題となる。
世界大会は4年に一度、FIFAワールドカップ開催地でW杯閉幕後に開催。日本代表は昨年の8月にブラジルで開催された世界大会で“ベスト4”進出をはたした。
特別支援学校でもかなりサッカーが行われているようだ。また学校という垣根を越えたクラブチームやNPO法人の活動もある。
映画「プライドinブルー」 は、2006年ドイツ大会に出場したチームを追ったもの。
単行本「夢 プライドinブルー」湯山尚之著(河出書房新新社)。
サッカーとは関係ありませんが、現在知的障害者のパンクバンドを描いたフィンランド映画「パンクシンドローム」が東京渋谷・イメージフォーラムで公開中。
② ろう者サッカー 日本ろう者サッカー協会 http://jdfa.jp/
聴こえない、聴こえにくい人たちのサッカー。
審判のホイッスルの音が聴こえない聴こえにくいため、主審はホイッスルと同時にフラッグも振るなどの視覚的な工夫がある。
国際ルールにおいては補聴器を外さなくてはならずGKやディフェンダーの声による指示ができないため、聴者(聞こえる人)以上に周りを見ることや事前の約束事が重要となる。
世界大会は4年に一度開催されるデフリンピックと世界選手権。デフリンピックは、ろう者のオリンピック。1924年から開催(当時は国際ろう者競技大会)されているが、パラリンピックに比べて悲しくなるくらい世間に知られていない。出場資格は聴力レベルが55デシベル以上。佐村河内守氏の聴力レベルが50デシベルだったわけで、もう少し聴こえにくくなれば参加資格があるということになる。そのことはともかくデフリンピックの次回大会は2017年トルコ。世界選手権は2016年イタリアで開催。
日本代表には男女チームがある。女子日本代表チームがあるのは障害者サッカーのなかで、ろう者サッカーのみである。
また男女フットサル日本代表チームもあり、今年(2015年)11月、タイで世界大会が開催予定。
映画「アイ・コンタクト」監督中村和彦 2009年台北デフリンピックに出場した「ろう者サッカー日本代表チーム」のドキュメンタリー。(映画完成後、日本女子サッカーリーグには多大なお世話になった。)
単行本「アイ・コンタクト」 中村和彦著(岩波書店)サッカーのみならず聞こえに関すること、手話などについても触れた内容。
現在クラウドファンディングで、ろう者サッカー・フットサル男女日本代表活動資金募集中
ろう者サッカー『音のない世界のサムライブルーを応援しよう!』
7人制サッカー ピッチの大きさやゴールの大きさは少年サッカーに近い。脳性麻痺7人制サッカーとアンプティサッカー。
③ 脳性麻痺7人制サッカー(通称CPサッカー)
日本脳性麻痺7人制サッカー協会 http://jcpfa.jp
脳性麻痺など身体に障害を持つ者のサッカー。
オフサイドはなく、スローインはアンダーからのスローインが認められているなどの特別ルールなどがある。
世界大会は4年に一度開催されるパラリンピックと世界選手権。しかしパラリンピック本大会へ出場したことはまだなく、悲願の初出場を目指している。
底辺も拡大しつつある。
(追記)東京パラリンピックの正式種目から外れてしまったようだ。とても残念です。リオ・パラリンピックでは開催されます。
④アンプティサッカー 日本アンプティサッカー協会 http://j-afa.com/wp/
片足切断者によるサッカー。Gkは基本的には隻腕の者が担う。
クラッチ(競技用の松葉杖)と1本の足で走り、クラッチを軸に蹴る。オフサイドはなく、スロ−インではなくキックイン、Gkはペナルティエリアからは出てはならないなどの特別ルールがある。
世界大会は2年に一度の世界選手権。昨年11月にメキシコで開催された世界大会では初の決勝トーナメント進出をはたした。 東京パラリンピックの正式種目に立候補したものの落選した。
フットサルと同じ、あるいはフットサルに近いサッカー。ソーシャルフットボールとブラインドサッカー。
⑤ソーシャルフットボール
日本ソーシャルフットボール協会 http://jsfa-official.jp/index.html
精神障害者によるフットサル。
この競技だけはまだ肉眼で観たことがありません。 HPを参照してください。
サッカーとは関係なく個人的なことになりますが、精神科病棟転換型居住系施設に反対するといった内容のDVDを現在製作中。精神障害に関することも少々勉強しました。
⑥ブラインドサッカー 日本ブラインドサッカー協会 http://www.b-soccer.jp/
視覚に障害を持つ者のサッカー。
アイマスクを装着し完全に見えない状態にして行うB1クラスのブラインドサッカーと、残された視覚を活かして行うロービジョンフットサルがある。
B1クラスのブラインドサッカーは、ボール内部の鈴状のものが発する音、晴眼者であるGK、監督、攻撃方向のゴール裏から指示を送るコーラーの声、そして己の感覚を頼りにプレーする。守備時は「ボイ」と声を出しながらボール保持者に近づかないと反則となる。
世界大会は4年に一度のパラリンピックと世界選手権。昨年11月に東京で開催された世界大会では有料にも関わらず多くの観客が詰めかけ、日本代表チームも6位と躍進した。だがパラリンピック本大会に出場したことはまだない。2011年宮城県で開催されたアジア予選ではぎりぎりのところでパラリンピックの出場権を逃した。今年はリオパラリンピックの出場権を、来年は本大会での上位進出を狙っている。
尚クラブチーム単位でのリーグ戦も行われている。
ロービジョンフットサルは、視野狭窄、視野欠損など見えにくい人たちのフットサル。ボールは床面との対比で見やすい色のものが使われている。
単行本「闇のなかの翼たち」岡田仁志著(幻冬社) ブラインドサッカー日本代表苦闘の歴史を描く
生身の足ではなく電動車椅子のフットガードで蹴る電動車椅子サッカー
⑦電動車椅子サッカー
日本電動車椅子サッカー協会 http://www.web-jpfa.jp/index.html
電動車椅子を回転したり前進したりすることにより、車椅子の先に取り付けたフットガードで蹴る。
手動ではなく電動車椅子を日常使用しているわけであるから、当然ながら障害的には当然重い。筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、脳性麻痺の選手などがいる。
競技は4人で行う。コートはバスケットコートの大きさ。 男女による区別はなく、チームに混在している。近年日本代表の有力な候補である女子選手も存在している。
現在電動車椅子の制限速度が10km、6kmの2つのルールが共存している。前者は国際ルール、後者は国内ローカルルールである。代表クラスの強化のためには国際ルールで常時行えるような環境を整えることが必要だという意見も根強い。しかし普及のためには6kmが必要であり、両者は両極分化していく可能性もある。また近年アメリカ製の強力な電動車椅子サッカー専用マシーンとでもいうべきストライクフォースが登場しボールスピードが劇的に向上、球際の争いも激しくなっている。
世界大会は4年に一度開催され、2007年の1回大会は 日本で開催された。今年(2015年)9月に世界大会がブラジルで開催予定だったがブラジルでは開催されないことが決まり、現在水面下で代替地の選定が急がれていると思われる(希望的観測)。1月にはオーストラリアを招いて国際大会が日本で開催予定だったが中止になってしまった。 またアンプティサッカー同様、東京パラリンピックの正式種目に立候補したが落選。競技的にも過渡期の時代を迎えていると言えるかもしれない。
現在、電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画を撮影中。
各障害者サッカーを概観してきましたが、各日本代表ともにレベルアップしてきています。確実に成果として現れているチームもあれば、強国との力の差は詰まってきているものの勝敗という結果だけみれば変わらないチームもあります。また底辺の拡大や、障害の理解にも時間を割いている団体もあります。
詳しくは各団体のHPなどを参照してください。
このブログでも各障害サッカーについていろいろと書き綴っていますので、よかったら目を通しください。
またもし間違っている点などありましたらご指摘ください。
*個人的に障害の「がい」は、「害」という漢字を使用することにしています。但し当事者が「がい」と表記している場合はそのことを尊重し「障がい」と表記しています。表記にばらつきがあるのはそのためです。