外国語ドキュメンタリー最優秀監督賞です。
今回私は現地に行ってませんが、ニース入りしているプロデューサーの2人から連絡が入りました。
映画『MARCH』に関わっていただいた全ての皆さん、ありがとうございました。
以前、聴覚障害者のサッカー女子日本代表のドキュメンタリー映画『アイ・コンタクト』を作った時、『もう1つのなでしこジャパン ろう者女子サッカー』とサブタイトルをつけた。
映画が公開されたのが2010年だったので、なでしこジャパンが世界一になる前年のことで、その頃は“もう一つの”どころか、本家の“なでしこジャパン”が世間に知られておらず、なでしこジャパンの説明から始めなくてはならなかった。翌年世界一になってからは知らない人はいない存在になったわけだが。
当時、障害者サッカーのなかで女子代表チームが存在しているのは、ろう者(デフ)サッカーのみだった。そのことも関心を持つにいたったきっかけだった。その後、デフフットサルの女子日本代表チームも誕生。
そして今年4月1日、何度かの育成合宿を経て、ブラインドサッカー女子日本代表チームが産声をあげた。初の女子選手を対象とした国際大会「IBSA女子ブラインドサッカートーナメント2017」への参加を見据えて発足したのだ。大会は5月2日~8日、オーストリア・ウィーンで開催される。
早速、誕生したばかりの代表合宿の見学へ、4月1日と29日の2日間、足を運んだ。最初に感じたことは、随分と選手間の実力差、経験の差が大きいなというもの。ろう者サッカー女子日本代表が立ち上がったばかりの2007年当時の光景を思い出した。
そのなかで強烈な印象を受けた選手は、中学生の菊島宙選手。とにかくトラップが上手い。パスを受けトラップからのドリブルへといたる流れは、男子選手でもそうそうお目にかかれないのではないか。「ボールとお友達」という印象。小学校の時に晴眼者とともにプレーしていた経験に裏打ちされているのだろう。女子ブラサカ界のメッシと呼んだらいささかほめ過ぎだろうか。
そしてチームキャプテンであり頼れるディフェンスリーダーが原舞香選手。柔道初段で中学時代には砲丸投げで全国大会上位に入るほどの身体能力の高さを誇る。ブラインドサッカー女子選手の草分け的な存在でもある。
2人を中心にどうチームを組み立てていくのか?
それから1月あまりたった29日に再び合宿を訪れた時には、チームとしてかなりの進化を遂げていた。村上監督が選手の個性を見極めた結果だろうか。ラグビー元日本代表(健常者の!)の工藤綾乃選手が前線で体を張り、落としたボールを原選手が菊島選手に展開、菊島選手がドリブルしてシュートを決める。「相手をつかまえたら粘り強くあきらめずついていく」橋口史織選手は後方で粘り強い守備を見せる。他の鈴木、加賀、伊藤選手も基本戦術を叩きこまれ、ピッチを駆け回る。
他国の情報はあまりないようなので、比較はできないが、菊島選手などはそう簡単には止められないのではないか?オーストリアでの好結果を期待したい。
またコーチ兼GKには、フットサルの元日本代表キャプテンの藤田安澄さんが名を連ねている。藤田さんは、デフリンピックに出場したろう者の濱田梨栄さんが1ランク上でプレーしたいという思いで一時期在籍していたアヴェントゥーラ川口の監督兼選手だった人で、その当時拙著『アイ・コンタクト』を書くにあたって取材させてもらったことがある。藤田さんも選手たちにとって頼りになる存在だろう。
チームではなく選手個々の“なでしこジャパン”は、他の障がい者サッカーにも存在している。女子の単独チームはないものの、混合で行われる電動車椅子サッカーやソーシャルフットボール(精神障がい者サッカー)で過去に日本代表に選ばれた選手たちがいる。
ソーシャルフットボールでは、嶋村みどり、森谷倫香選手が男子に交じって代表に選出され、2016年2月に大阪で開催された第1回世界大会の優勝に貢献した。大会は全て生観戦した。
電動車椅子サッカードキュメンタリー映画の撮影を始めたきっかけも、そんな選手との出会いだった。彼女(永岡真理選手)を初めて見たのは、忘れもしない、“なでしこジャパン”が女子ワールドカップで世界一に輝く前日のことだった。
「“もう1人のなでしこジャパン”がここにもいる!」強烈なインパクトを受けた。3か月後に迫った電動車椅子サッカー世界大会に向けた日本代表の強化試合を観たときのことだった。彼女は当時、日本代表ではなく対戦相手の一員だったが、近い将来、代表に選考されると確信をもった私は早速映画を撮り始めた。実際、彼女は日本代表候補に選出され、2013年オーストラリアで開催されたAPOカップには日本代表の一員として参戦。その後も日本代表候補として合宿にも参加し続けた。
しかし、今年7月にアメリカフロリダ州で開催される世界大会の日本代表最終メンバーに名を連ねることはできなかった。
最終メンバー唯一の女子選手として選ばれたのは近年の成長が著しい内橋翠選手。大会でのゴール量産に期待がかかる。
永岡選手もブラインドサッカー女子代表合宿をともに見学した。ブラサカ代表チームにお願いして原舞香選手と話ができる時間を作ってもらった。お互い何らかの刺激になっただろうか。
こうやって女子選手間の横のつながりも徐々に出来ていくと良いと思う。ちなみに永岡選手は過去デフフットサル女子代表合宿も見学、その代わりにデフのメンバー達が電動車椅子サッカーの見学&体験に来てくれた。
もちろん、CPサッカー、アンプティサッカー、知的障害者サッカーもプレーしている女子選手たちはいる。
尚、電動車椅子日本代表チームは世界大会の自己負担金を少しでも減らすため、クラウドファンディングをおこなっている。
https://readyfor.jp/projects/11639
(追記)ブラインドサッカー女子日本代表はオーストリアの大会で見事優勝。菊島選手は大会通算6得点の活躍だったようです。