「高志さんも一緒に行かない。同行してくれると何かと安心かな」
姉妹が賑やかに現れた時、あやが高志に言った。
「安心って、変なのとでも出くわす心配でもあるのかい」
「ええ、時々うさんくさいのに会ったりするらしいから」
「他にも山菜採りに入っているのがいるのかな」
「らしいの。ただ向こうの方がどちらかと言うと占有権があると思うけれど」
高志の眼に戸惑いの色が浮かんだ。
「そうよ、高志さんは背が高いから遠くまで見透しが効くし、それに向かい合って背比べなんか
始まったら、負けないと思うし」
千恵が斜め下から高志を見上げて、真剣な声で言った。
「でしょう、頼りになるわ」
あやは余り頼りにしている風もなく言う。
「絶対だね。それに仮にお食事にされるとしたら、高志さんなら時間かかると思うから、その間
に私達逃げられるし」
千恵は相変わらず真面目な顔だ。
さすがに高志は気付いて、二人を交互に睨んだ。
「悪いわよ。土地の人でないから知らないと思ってからかうんだから。大丈夫この辺りは今頃は
出ないから」
清子はおかしさを堪えて言った。
「これであやさんや千恵さんがどんなに薄情な人か良く判ったよ。人を羆(ひぐま)よけに使おうなんて
かなりなものだよ」