伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

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ジャコシカ157

2020-09-12 19:34:24 | ジャコシカ・・・小説

 言葉はここで途切れて終わりました。

          

 母はもっと話したかったのでしょう。

 

 途切れた後に続く言葉が何だったのか、長く私を悩ましました。

 

 しかし、今は私なりの言葉を見付けたと思っています。

 

 「不幸に・・・」の後に続くのは「不幸になるかも知れないけれど」だったのだと思います。

 

 幸せを願うだけならば真直ぐに、幸せになりなさいと言えば良いはずです。あえて不幸の言葉を

 

使ったのは、そのことを強く意識したからです。

 

 それでは何故この言わずもがなの言葉を使わずにはいられなかったのでしょう。

 

 その言葉はどうしても「父さんのことはもう赦しなさい」に戻ってしまいます。

 

 そこに繋がって初めて言葉は完結します。

 

 母は最後まで言い切りたかったのでしょうが、その力はもう残っていませんでした。

 

 直ぐに危篤状態に陥り、そのまま亡くなりました。

 

 

 鉄五郎様あなた様はこの母の最後の言葉から、何を感じ取るでしょうか。

 

 「不幸にな・・・」の後にどんな言葉を繋げるでしょうか。

 

 いえ、いえ、そのようなことを尋ねることはこの手紙の目的ではありません。

 

 役目はもう終わっています。

 

 最後に蛇足になりますが、私のことを語らせて下さい。

 

 母の没後、私の中を吹く風は相変わらずです。たぶん私はこのままでこの風に吹かれながら生き

 

て行くのでしょう。

 

 ときどき思うのです。

 

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ジャコシカ156

2020-09-12 18:13:21 | ジャコシカ・・・小説

 むしろその逆だったと思います。

          

 私は成長するにつれて、母がどれほど父のことを考え、突然姿を消したことについて、拘り続け

 

ているかを、感じることができました。

 

 

 何故なら私もまたそのことについて、折に触れ頭を持ち上げる考えに、悩まされていたからです。

 

 それは一言でいうならば「何故」という言葉に尽きます。

 

 ただ、その言葉に行き着くまでには、さんざんに怒りや恨みや悲しみを味わいました。

 

 その挙句の果てに辿り着いた言葉なのです。

 

ところが、それもいつか冷めて鎮まり、今では怒りも恨みもありません。

 

 ただ「何故」と問いかけ続けてくる、どこか冷たい風のような言葉が残るばかりです。

 

 その風は気が着けば、止むことなく私の身体の中を吹き抜けて行くのみです。

 

 

 母がどんなに不安で孤独で、苦しい生活に苛なまれていも、時にどんなに良い再婚の話しを

 

持ちかけられても応じなかったのは何故なのか、本当のところ私には判りません。

 

 ただベットに横たわる母が、最期に私に残した言葉から、わずかに推し測るばかりです。そして、

 

その言葉はこの先いつまでも、私の中から消えることはないでしょう。

 

 まだ手紙はあなた様の掌の中にあるでしょうか。ごみ箱にもストーブの炎の中で、煙にもなって

 

いないでしょうか。

 

 それならば母の最期の言葉を、あなた様にお伝えいたします。

 

 その言葉を伝えるために、私はこの手紙を書き始めたのですから。

 

 母は私にこう言ったのです。

 

 「和美・・・結婚しなさい・・・父さんのことはもう赦しなさい。赦して結婚して・・・不幸に・・・」

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