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退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界

2015-02-14 06:36:42 | 韓で遊ぶ


鍵をかけない門

田舎の小さな村の一軒家に母と娘が住んでいました。
母親は、夜中に泥棒が来たらと心配して、毎日戸の取っ手に2重3重に鍵をかけていました。
娘は田舎の片隅に風景画のように埋もれて暮らしている自分がとても嫌でした。
町が恋しく、ラジオを聴きながら想像してきた華やかな世界に出て行って暮らしたいと思いました。
ある日の明け方、娘は心の内の、そのとりとめもない夢を追いかけて出て行きました。母親が眠っている間にこっそりと家を出て行ったのです。
「母さん、できの悪い娘はいなかったと思ってください。」
娘は、紙切れ一枚を残して故郷を離れ町に行ったのでした。
ですが、世の中は彼女が夢見ていたようには美しいばかりのところではなかったのでした。
自分でも知らないうちに堕落の道に入って行った娘は、これ以上、行くところがない深い泥沼に落ちた後になって、やっと間違いに気づきました。
時間がたてば経つほど、娘は狭い部屋に身をすくめたまま、母の写真を見ながら涙を流す日が訪れました。
「母さん、、、」
そうして10年が過ぎ、いつの間にか大人になった娘は病気になった心と醜い姿を引きずって故郷に帰って行ったのでした。
家に到着したのは夜遅く、、、窓の隙間から明かりが漏れてきていました。
しばらくためらって門をたたきましたが家の中には何の気配もありませんでした。
瞬間、不吉な思いがして門の取っ手をつかんだ娘は驚きました。
「おかしいわ。ただの一度も門の鍵を忘れたことがないのに、、、」
母親は、ひどくやせた身体を冷たい床に横たえて、哀れな姿で寝ていました。
娘は母親の枕元に膝をついたまま、すすり泣きました。
「母さん、ううう、、」
娘のすすり泣きに目の覚めた母は、何も言わずに娘の疲れた肩を抱きしめました。
母の懐に抱かれしばらく泣いた娘は、ふと気になりました。
「母さん、今日はなぜ門に鍵をかけなかったの。誰かが来たらどうするの。」
母は言いました。
「今日だけではないよ。もしやお前が夜中に来たら、そのまま行ってしまうかと思って10年間一度も鍵をかけることができなかったよ。」
ゆっくりと部屋の中を見回した娘は、もう一度驚きました。
母親が長い間、待っていた娘の部屋の中には、ラジオも本もすべて10年前のままでした。
母娘は、その日の晩、10年前に戻って部屋の門にしっかりと鍵をして穏やかに眠ったのでした。
コメント
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